昭和の時代、「象が踏んでも壊れない」という筆箱のキャッチコピーが一世を風靡したことがあるが、現代の科学少年が挑んだのは、更に驚異的な強度を持つ「紙」の構造だった。
アメリカ、ニューヨーク市在住の14歳、マイルズ・ウーさんが、折り紙と物理学を融合させ、自分の重さの1万倍以上を支えることができる革新的な折り紙構造を作成し、見事科学賞を受賞した。
彼がヒントにしたのは、日本人が宇宙開発のために発明した「ミウラ折り」だ。 彼は54種類ものパターンを検証し、厚紙ではなくコピー用紙が最も強いという意外な事実を突き止めた。
その強度は例えるなら「4000頭の象を乗せてられるタクシー」に匹敵する比率だという。
ミウラ折りと宇宙技術の応用
ウーさんが研究の基礎とした「ミウラ折り」とは、日本の宇宙物理学者であり東京大学名誉教授の三浦公亮氏にちなんで名付けられた折り方だ。
もともとは1970年、ロケットに搭載する太陽電池パネル(ソーラーパネル)を小さく畳んで収納し、宇宙空間で故障なく一気に広げるために、航空宇宙工学の視点から考案された技術である。
平行四辺形の繰り返しパターンによって構成されており、対角線を引くだけでワンアクションで展開・収納ができるのが特徴だ。
「ミウラ折りはその強度、平らに折り畳めること、そして携帯性で知られているため、展開可能なシェルター(避難所)に利用できるのではないかと考えました」とウーさんは述べている。
折り紙と物理学の出会い
最も弾力性のあるデザインを特定するため、ニューヨークの超難関進学校であるハンター・カレッジ・ハイスクールの8年生(日本の中学2年生相当)であるウーさんは、徹底的な比較実験を行った。
彼は、2種類の平行四辺形の高さ(約2.5cmと約5cm)、3種類の幅(約1.3cm、2.5cm、5cm)、そして3種類の折り角度(45度、60度、75度)をそれぞれ評価した。また、標準的なコピー用紙から厚手のカードストック(厚紙)まで、さまざまな紙の重さでも実験を行った。
作成したバージョンは合計54種類にのぼり、それぞれ広げると約400平方cmで、アメリカの一般的なコピー用紙(約216mm×279mm)の約3分の2の大きさになるものだった。
ウーさんは各モデルを2つのガードレールの間に置き、約13cm離して固定し、構造が崩壊するまで少しずつ重りを追加していった。
そして、予想をはるかに超える重量に耐えられることがわかったとき、彼は衝撃を受けたという。
「私がテストした中で最強のミウラ折りに関する最終的な統計データは、自重の1万倍以上を支えられるというものでした」とウーさんは語っている。
「計算すると、これはニューヨークのタクシーが4000頭以上のゾウを乗せているのに相当します」
これは「重量比強度」を分かりやすく例えた話だ。
もしタクシーの車体がこの折り紙と同じくらい「自分の体重に対して力持ち」だとしたら、自分の重さの1万倍にあたる「象4000頭分」を屋根に乗せて走れる計算になる、という意味である。
それほどまでに、この構造は効率よく負荷を分散し、支えることができるのだ。
ウーさんのテストでは、パネルが小さく角度が急なデザインほど、強いだけでなく驚くほど弾力性があることが示された。
しかし彼にとって最大の驚きは、厚手の紙ではなく、どこにでもある薄いコピー用紙の方が、自身の重さに対する強度の比率(重量比強度)において最も優れていたことだった。
きっかけは自然災害への危機感
なぜ彼は、これほどまでに「折り紙の強度」にこだわったのか?きっかけは、ニュースで見た自然災害の惨状だったという。
2024年1月に南カリフォルニアで発生した山火事や、アメリカ南東部を襲った大型ハリケーン「ヘリーン」などの被害を目の当たりにし、彼は被災地での生活支援について深く考えるようになった。
また、医療分野をはじめとするSTEM(科学・技術・工学・数学)領域で、折り紙の技術が応用されていることを学んだことも彼を後押しした。
「既存の緊急用シェルターや構造物には問題があります」とウーさんは指摘する。
「例えばテントの場合、頑丈なものはありますが重くてかさばります。逆に小さく畳めるものや、簡単に広げられるものもあります。しかし、「頑丈さ・コンパクトさ・展開のしやすさ」の3つすべてを兼ね備えているものはほとんど存在しないのです」
そこで彼が目をつけたのが、情熱を注いできた折り紙だった。
「ミウラ折りなら、その問題を解決できる可能性があると思いました。
彼はこの知見を応用して、被災地で誰でも迅速に展開できる、強力で軽量な次世代シェルターを開発したいと考えている。実験のために、わざわざ50ポンド(約23kg)のエクササイズ用ウェイトを購入するほど、彼は本気だ。
小さい頃から折り紙と動物が大好き
このプロジェクトは、ウーさんの折り紙への情熱が生んだたまものだ。彼は8歳のころから、折り紙で動物や昆虫を折ることが大好きだった。
彼の作品は、アメリカ自然史博物館のホリデーツリーでも紹介されている実力派だ。最近はオリジナルの折り紙もデザインしているという。
科学教育を推進する非営利団体ソサエティ・フォー・サイエンス[https://www.societyforscience.org/press-release/thermo-fisher-jic-top-awards-2025/]によると、ウーさんは野生鳥類基金を支援するために、自身がデザインした200羽の折り紙のハトを折り、販売してその売り上げを寄付したこともあるという。
全米6万人の中から受賞
ソサエティ・フォー・サイエンスが運営する「サーモフィッシャー・ジュニア・イノベーターズ・チャレンジ[https://www.societyforscience.org/jic/]」は、全米の6万人以上の中学生を対象としている。
全国の約2000人の応募者の中から選ばれたマイルズさんは、30人のファイナリストの中でも際立っており、上位入賞者の一人として、約375万円(2万5千ドル)の賞金を得た。
「マイルズの科学的な創造性、リーダーシップ、そして協調性の素晴らしい融合は、ソサエティ・フォー・サイエンスが誇りを持って支援する才能のタイプを明確に示しています」と、同協会のCEO兼会長であるマヤ・アジメラ氏はプレスリリース[https://www.societyforscience.org/press-release/thermo-fisher-jic-top-awards-2025/]で述べた。
「彼が将来貢献するであろう革新的なアイデアを見るのを楽しみにしています」
References: Societyforscience[https://www.societyforscience.org/press-release/thermo-fisher-jic-top-awards-2025/] / Societyforscience[https://www.societyforscience.org/jic/]











