2025年11月、スコットランド北東部アバディーンシャー沿岸にある砂浜に、奇怪な漂着物が打ち寄せられた。
散歩中の地元住民によって発見されたのは、何やら異世界から来たクリーチャーの、触手の一部か何かのような肉塊だった。
調査の結果、この肉塊の正体は、深海に棲む「カンテンダコ」のものと判明した。英語では「7本腕のタコ(セブン・アームズ・オクトパス)」と呼ばれている。
なぜ7本腕と呼ばれるのか、その理由は本文で説明することにして、なぜ、スコットランドの海岸に打ち上げられたかはわかっていない。
スコットランドの海岸で見つかった謎の触手
フォービー・ナショナル保護区は、スコットランド東部の北海に面した海岸沿いにある保護区である。
11月30日、海岸を散歩していた地元の住民が、波に打ち寄せられていた奇妙な漂着物を見つけ、保護区の職員に連絡した。
保護区の管理者、カトリオナ・リードさんは、この漂着物を確認したときの様子を次のように語っている。
週末に地元で散歩していた人が、砂浜でタコの一部を見つけて、何か変わったものがあると最初に知らせてくれました。
しかし現場へ向かうことができたのは次の満潮のあとで、その時には触手の一部分しか残っていませんでした。
これらは明らかに私たちがこれまで見たことのないもので、直径も吸盤も大きく、この辺りの海岸で見られる普通のタコとは明らかに違っていました
スタッフたちは当初、イカではないかと思ったという。以前にも巨大なイカの死骸が打ち上げられたことがあったからだ。
だが、海洋生物学者のローレン・スミス博士が現場を訪れ、この漂着物を詳しく調査した結果、「カンテンダコ」の触手と確認された。
「深海の人魂」カンテンダコとは
触手の持ち主の「カンテンダコ(学名:Haliphron atlanticus)」は、その名の通り、寒天のように柔らかい肉質の、ぷよぷよとした触感をもつ浮遊性のタコである。
これらは深海に生息する種で、通常は水深500mより深い場所に生息しているため、なぜこの地にたどり着いたのかは謎です
リードさんはこう説明する。このタコが北海の沿岸で見られることは極めて稀であり、今回のような浅瀬への漂着は異例中の異例だと言えるだろう。
生息域は大西洋を中心に、温帯~亜寒帯の深海域と考えられているが、日本の沿岸でも何度か確認された例がある。
体長は約1m程度。未確認ながら4mの個体も見つかっているそうだ。メスの方がオスよりも大きいのが特徴で、オスは30cm程度にしかならないという。
英語で7本腕のタコと呼ばれる理由
カンデンダコは英語で「セブン・アームズ・オクトパス」と呼ばれている。7本腕のタコという意味だが、このタコにはちゃんと8本の腕がある。
だがオスの場合、そのうちの1本の触手が「交接腕(生殖腕)」として変形しており、通常は体の下側、右目の下あたりの袋の中に隠れている。
そのため外見上は7本腕に見えることから、このような名前がついたのだという。
青白くぶよぶよした身体は、その名の通り寒天でできているよう。そしてその姿はまるで、深海を漂う人魂のようだ。
その生態や食性についてはわからないことも多いのだが、モントレーベイ水族館研究所(MBARI)の潜水艇がとらえた映像では、クラゲを触手の中に抱え込んでいる様子が確認されている。
これはクラゲの持つ毒を、身を守るための武器として活用しているのではないかと考えられている。
カンテンダコが海岸に漂着した理由は不明
では、なぜ今回、通常は深海を漂うカンテンダコの触手が、浅い沿岸域に現れたのか。
スミス博士は、このタコが何らかの理由で方向感覚を失い、その後に一部を捕食された可能性があると述べている。
周辺には大型のクジラ類がいるため、その過程で残った部分が浜へ流れ着いたのではないかと考えているという。
このタコは方向感覚を失ったあとで、身体の一部を捕食されたのかもしれません。この海域には大きなクジラがいますので、その残骸が海岸に流れ着いた可能性があります
また、リードさんは次のように語っている。
深い海域の海流に運ばれてきたのか、漁師の網にかかったのか…。その真相はおそらく永遠にわからないでしょう。
それでもなお、これは非常に興味深い発見であり、深海の生物について、私たちがいかに無知であるかを改めて証明するものです
この触手は現在、スミス博士が保管しており、さらなる研究・調査が行われる予定だそうだ。
回収した残骸は今後の研究のために冷凍保存してあり、その一部は博物館標本として保存されるかもしれません。
今回の発見は、地域における野生生物報告の科学的価値と、深海の永続的な謎の両方を浮き彫りにするものだと言えるでしょう
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