南米ボリビアは、恐竜ファンにとって特別な場所だ。ここでは、恐竜たちが闊歩していた証となる「足跡化石」が太古の物語を雄弁に語ってくれるからだ。
そんな足跡化石の聖地で、世界でも類を見ない発見があった。1万6000以上のおびただしい数の恐竜の足跡が同じ場所の地層から発見された。
これらは長い年月をかけて蓄積されたものではなく、わずか数時間という極めて短い間に刻まれたという。それはまるで大勢の歩行者が移動する「渋谷スクランブル交差点」の白亜紀恐竜版のようなものだ。
足跡のほとんどは、獣脚類に属する肉食恐竜たちのものだった。数億年前の泥の干潟で発生した、恐竜たちの「ラッシュアワー」の全貌に迫ってみよう。
この研究は、学術誌『PLOS One[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0335973]』(2025年12月3日付)に掲載された。
前代未聞の「恐竜大渋滞」
2025年12月3日、カリフォルニア州地球科学研究所のラウル・エスペランテ博士らの研究チームが、ボリビアのトロトロ国立公園内にある「カレラス・パンパ」という地域に残された恐竜の足跡の調査結果の論文を発表した。
研究チームはこのエリアにある9つの地点を詳しく調査し、これまでにない規模の足跡を確認した。その数はなんと1万6000以上。
これは、足跡の数、連続した歩行跡、尾を引きずった跡、そして泳いだ痕跡の数において、世界新記録を樹立するものだ。
発見された足跡の大部分は、ティラノサウルスのように3本指で二足歩行をする陸生の肉食恐竜(獣脚類[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8D%A3%E8%84%9A%E9%A1%9E])のもので、時代は白亜紀後期にあたる。
研究チームは、歩き方の違いや地面の状態を詳しく分析し、歩行時の足跡だけで11種類のパターンを特定した。
足跡のサイズは10cm 未満のものから30cmを超えるものが含まれており、大小様々な種の獣脚類がこの場所を通過していたことがわかるという。
また、こうした恐竜の集団に混じって、水辺で餌を探していた鳥のような生物の小さな足跡も点々と残されている。
エスペランテ博士は、足跡化石を分析することで、恐竜の数や種類のみならず、移動中の具体的な行動が手に取るようにわかるという。
ここは彼らの移動ルートだった。足跡からわかる集団行動
まず分かったのは、恐竜たちがバラバラに歩いていたわけではないということだ。
足跡のほとんどは「北西から南東」の方角に向かっており、地面には、水流によってできる「さざ波の模様(漣痕:リップルマーク)」がくっきりと残されていた。
この模様は、この場所が当時、広大な「泥干潟(どろひがた)」だったことを示している。
泥干潟とは、潮が引いて海底の泥がむき出しになった、ぬかるんだ場所のことだ。柔らかい泥だからこそ足跡がつきやすく、穏やかな波があったからこそ、さざ波の模様が残ったのだ。
この歩きやすい海岸線が主要な移動ルートだったようで、恐竜たちは、海岸線に沿って同じ方向に移動していた。
多くの足跡が平行に並んでいることから、肉食恐竜たちは単独ではなく、ある程度まとまって「集団行動」をとっていた可能性が高いと推測される。
恐竜たちは、急ぎ気味に移動していた
さらに面白いのが「歩くスピード」だ。足跡の間隔(歩幅)を分析したところ、多くの恐竜が比較的大きな歩幅で歩いていたことがわかった。
恐竜たちは「やや急ぎ気味のペース」で、目的地に向かって移動していたようなのだ。
水辺に沿って、群れをなして早歩きで移動する恐竜たちの姿を思い浮かべるだけで、白亜紀時代にタイムスリップした気分になる。
泳ぎ、曲がり、バランスを取る!多彩なアクション
足跡の中には、ドラマチックな瞬間も記録されている。
一部の足跡は途中で進行方向をグイッと変えており(急旋回)、何か障害物を避けたり、急な状況の変化に反応したりした様子が見て取れる。
注目されているのが、過去最多となる「泳いだ跡」だ。
その数は個別の痕跡だけで1300個を超え、連続した列としても280列以上にのぼるという。
これらは水に浮いた恐竜が、つま先で底を蹴ったときにできる「ひっかき傷」のような形をしている。この傷が左右交互に続くパターンは、恐竜が犬かきのように足を動かして泳いでいた証拠になる。
恐竜たちは陸上だけでなく、水深のある場所でも、岸と平行に器用に泳いで移動していたようだ。
さらに貴重なのが「尾の跡」だ。通常、恐竜は尾を浮かせて歩くため、化石に残ることはめったにない。
しかしここでは、深くぬかるんだ足跡の後ろに、尾の跡がくっきりと残るケースが確認された。
これは泥に足を取られた恐竜が、転ばないように尾をついてバランスを取った瞬間かもしれない。また、浅い足跡と一緒に尾の跡が残るケースもあり、こちらは歩き方を変えた拍子に、尾が地面をかすめたようだ。
エスペランテ博士は、「どこを見ても、地面が恐竜の足跡で覆われているのですから、ここでの作業は本当に驚くべき体験です」と語っている。
これらの恐竜の足跡は、白亜紀の「ある時間」を切り取った、スナップショットのようなもので、そこには、現代のスクランブル交差点と同じように、生き物たちが一斉に移動している姿が刻まれていたのである。
References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1107567] / Journals.plos.org[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0335973] / Scimex[https://www.scimex.org/newsfeed/world-record-number-of-fossilized-dinosaur-footprints-found-in-ancient-bolivian-shoreline]











