南アフリカ沖のダッセン島とロベン島は、ケープペンギンの主要な繁殖地として知られている。
しかし2004年以降、これらの島々では異変が起きていた。
そして島で目立つのは、取り残されたペンギンの死骸…。当初は何が起きているのか、誰にもわからなかった。
だが、イギリスと南アフリカの研究者チームが調査を行った結果、ペンギンたちの死因はなんと「餓死」であることが判明した。
この研究成果は『Ostrich:Journal of African Ornithology[https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.2989/00306525.2025.2568382]』誌(2025年12月4日付)に掲載された。
南アフリカ沖に生息するペンギンが謎の大量死
2000年代半ば、南アフリカ沖にあるダッセン島とロベン島で、ケープペンギンの原因不明の大量死が続いていた。
これらの島は、ケープペンギンにとって重要な繁殖地として知られている。しかし2004年以降、島では成鳥の姿が減り、死骸だけが目立つようになっていたという。
具体的には、両島にあるペンギンたちのコロニーで、2004年に繁殖したケープペンギンの95%以上にあたる約6万2,000羽が、2004年から2012年の8年間に死んだことが判明した。
この大量死の原因を究明するために、イギリスのエクセター大学の研究者チームと、南アフリカの森林漁業環境省(DFFE)による研究調査が行われた。
研究チームは、この2つの島にある主要なコロニーで、継続的に集められたデータをもとに解析を行った。
研究者たちは1995~2015年の繁殖つがい数、換羽個体数、生存率、そして魚類資源の指標(FAI)を解析した。
データには繁殖つがい数や換羽期に島へ戻った成鳥の数、年ごとの生存率、そして餌となるイワシやカタクチイワシの餌資源といった指標が含まれている。
その結果、2004年を境に成鳥の生存率が低下し、換羽期にも島に戻らない個体が急増していることがわかった。
特にダッセン島では、餌が不足した年には成鳥の60%以上が換羽のための帰還ができなかったと推定されている。
換羽期のペンギンは3週間の断食を強いられる
ケープペンギンは年に1度、約3週間の換羽期を陸で過ごす。古くなった羽と新しい羽を交換して、断熱性と防水性を維持しなくてはならないからだ。
だがこの換羽の期間中は、彼らにとってもっとも死亡率が高い時期でもある。なぜならこの間、ペンギンたちは餌をとることができない。
そのため、生き延びるためには換羽前にたくさんの餌を食べて、十分な脂肪を蓄えておかなければならないのだ。
彼らは脂肪を蓄え、換羽を乗り切るまでの間、身体がその蓄えた脂肪と筋肉中のタンパク質を代謝しながら断食するように進化したのです。
そしてその後は、素早く体調を回復させる必要があります。つまり、換羽前と換羽直後に十分な食べ物が得られない場合、断食の期間を生き延びるための蓄えが不足してしまうことになります
研究の共著者であるリチャード・シャーリー博士はこう説明する。ケープペンギンは換羽前に、通常より30%以上体重を増やす必要があるとされる。
そして換羽後は痩せ細った状態で、ただちに餌を確保しなければ命取りになる。しかし、コロニー周辺に餌となる魚がいなければどうにもならない。
主食であるイワシの仲間が激減
2004年以降、実は南ア西岸では彼らの主な餌であるイワシの仲間が急減。生息数が過去最大値の25%以下に落ち込む年が続いていた。
この海域では2005~2010年の間、人間によるイワシ漁が、生息数全体の20%を超える高い水準で行われていたらしい。
そして2006年には、なんとイワシの個体数の約80%が、人間によって乱獲されたと言われている。
これは豊漁を意味するのではない。必要以上に獲りすぎたことで、イワシの群れが回復できない状態にまで追い込まれてしまったのだ。
さらに海水温の変動といった環境要因が重なったことで、ケープペンギンが食料としてきたイワシの数は、長い期間にわたり低迷した。
2004年以降、南アフリカ西部沖では、イワシの数が最大時の25%を下回った年がほとんどで、例外はわずか3年だけだったという。
つまりケープペンギンの大量死の原因は、彼らの主食であるイワシの減少によるものであり、「餓死」であることが明らかになったのだ。
ペンギンの復活にはイワシの乱獲を防ぐ対策が課題に
2024年、ケープペンギンは絶滅危惧IA類に分類された。彼らが生き残るためには、餌となるイワシの個体数を回復させることが欠かせない。
シャーリー博士は、今後の対策について次のように説明している。
イワシのバイオマス(資源としての量)が最大時の25%を下回ったときにその乱獲を減らし、より多くの成魚が産卵まで生き延びられるようにする漁業管理手法や、稚魚の死亡率を下げる取り組みも有効だと考えられます
一方で、ケープペンギンたちを直接保護するためのさまざまな対策も進められている。
さらに最近、南アフリカにある6つの営巣地の周辺では、商業用の巻き網漁が禁止された。
DFFEのアズウィアネウィ・マカド博士も、希望を失っていない。
これにより、ヒナの育成期や換羽前後といった、ペンギンの生活にとって重要な時期に、より餌にアクセスしやすくなることが期待されています
今回の研究が完了した後も、研究者らはケープペンギンの繁殖の成功、ヒナたちの状態、採餌行動、個体数の推移、生存の監視を続けている。
シャーリー博士は、最後にこう締めくくっている。
このような対策により、ケープペンギンの減少に歯止めがかかり、この種が回復の兆しを見せてくれることを期待しています
References: Exeter.ac.uk[https://news.exeter.ac.uk/faculty-of-environment-science-and-economy/penguins-starved-to-death-en-masse-as-food-supply-collapsed/] / Tandfonline[https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.2989/00306525.2025.2568382]











