スズメバチは狂暴かつ好戦的なハチであり、メスはそのお尻に毒針があることでも知られている。
特にオオスズメバチの毒は強力で、人間でもこのハチに刺されると、最悪の場合はアナフィラキシーショックを起こして命を落とす可能性もある。
そんなスズメバチを、毒針をものともせずに丸のみして食べてしまう生き物がいる。それは我々にも身近なトノサマガエルなんだそうだ。
2025年12月、神戸大学の研究チームは、トノサマガエルがオオスズメバチに何度も刺されながらも、それをものともせずに捕食を続けるシーンを確認した。
この研究成果は、2025年12月4日付の米国生態学会の学術誌『Ecosphere[https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecs2.70457]』(2025年12月4日付)で発表された。
3種のスズメバチを丸ごと捕食するトノサマガエル
この研究は神戸大学の研究チームによって行われたもの。研究者たちは、トノサマガエルが、毒を持つスズメバチを捕食できるかどうかを実験で確かめた。
実験では体重や体格の異なる45匹のトノサマガエルを用い、スズメバチの捕食が成功するかどうかを詳細に観察している。
対象となったのはキイロスズメバチ、コガタスズメバチ、そして世界的にもその危険性が広く知られるオオスズメバチである。
実験は45匹のトノサマガエルに対し、3種のスズメバチそれぞれ15匹を用意して、1匹のカエルに1匹のスズメバチを与える形で行われた。
スズメバチには麻酔などは使わず、自然に動ける状態で行われた。その結果、ほとんどのトノサマガエルがスズメバチに襲いかかり、驚くほど高い成功率で、捕食に成功したという。
その成功率は以下の通り。母数は実際にスズメバチを攻撃したトノサマガエルの数である。
- キイロスズメバチ:13/14匹(93%)
- コガタスズメバチ:13/15匹(87%)
- オオスズメバチ:11/14匹(79%)
実験に使われたスズメバチは、いずれも飛行速度が速く、攻撃性が高いことで知られており、通常であれば小型の捕食者が簡単に手を出せる相手ではない。
しかし実験の結果、トノサマガエルは驚くほど高い成功率でこれらのスズメバチを捕食してしまったことになる。
この実験では、高速度カメラによる撮影も行われた。公開されている映像を見ると、オオスズメバチを認識した瞬間、トノサマガエルは素早く飛びかかり、そのまま頭から丸呑みしてしまう。
カエルの口の中から何度も針を刺すスズメバチ
オオスズメバチは死に物狂いで暴れながら、トノサマガエルに毒針を突き刺そうとしている。
だがカエルの方はそれを気にする素振りも見せず、大きな口でオオスズメバチを完全にとらえてしまった。
するとその口の中から、オオスズメバチが何度もお尻の針を突き刺しているのだ。白い丸の中を注目して見てほしい。
カエルの口の内側から針が刺され、トノサマガエルの皮膚を突き破って、外まで出て来るのがわかると思う。
下はまた別の場所からグサッと針が突き出されるシーン。トノサマガエルは、うるさそうに前足で払っているから、それなりに何か感じているようではある。
だが、研究チームによるとこの実験で衰弱したり、死亡したりしたトノサマガエルはいなかったそうだ。
静止画で見てみると下のようになる。
スズメバチの毒針はミツバチなどとは違って、一度さしても抜け落ちることがないため、何度でも攻撃することが可能である。
このオオスズメバチも、カエルの口の中から最後の抵抗をしているのだ。
スズメバチの毒や痛みに耐性がある可能性
研究報告の中で、研究チームは「このカエルはスズメバチの毒や鋭い針への耐性(あるいは回避行動)を持っている可能性が高い」と指摘している。
神戸大学農学研究科の生物学者、杉浦真治准教授は、今回の実験について次のように語っている。
トノサマガエルと同程度、あるいはさらに体の大きなネズミは、スズメバチに一度刺されただけで死に至ることもあります。
しかし、トノサマガエルは何度も刺されても、目立った傷は示しませんでした。強力な毒に対するこの並外れた耐性は、今回の発見を他に類を見ないものにしていると言えるでしょう
実際、トノサマガエルよりも身体の大きいマウスも、スズメバチに1回刺されるだけで命を落とすこともあるという。
それを考慮した場合、今回の実験は、トノサマガエルにはスズメバチの持つ毒に対し、高い耐性があることを示唆する結果になったと言えるだろう。
スズメバチの持つ毒は、「毒のカクテル」と呼ばれるほど、さまざまな成分が複雑に混ざり合ってできている。
神経毒やヒスタミン、そしてアナフィラキシーショックの原因となるペプチドなどが含まれており、注入されると血管を通じて全身をめぐり、溶血や組織の破壊はもちろん、心機能障害をもたらす恐れもある。
猛禽類やオオカマキリ、クモなど、この毒をものともせずに、彼らを捕食する生き物もいくつか確認されてはいる。
他のカエルにもスズメバチの毒に耐性がある可能性
今回の研究のきっかけとなったのは、トノサマガエルの野生個体の胃の内容物から、スズメバチの死体が見つかっていたことによる。
研究チームによると、トノサマガエル以外の、例えばウシガエルやツチガエルの胃の中からも、スズメバチが見つかることがあるという。
そのため、大型のカエル類は共通して、スズメバチの毒に耐性を持っている可能性があるかもしれない。
現在、杉浦氏は、トノサマガエルの刺傷に対する防御機構について、さらに解明を進めたいと考えているとのこと。
特定の脊椎動物がこれらの自然の武器を無害化できる一方で、他の生物にとっては致命的となる理由を解明する手がかりとなる可能性がある
今後の研究が進めば、スズメバチの毒針による痛みや毒性を抑制する仕組みの解明につながるかもしれない。
追記(2025/12/09)本文中の誤字を訂正して再送します。
References: Kobe-u.ac.jp[https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20251204-67323/] / Onlinelibrary.wiley.com[https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecs2.70457] / Nautil[https://nautil.us/watch-a-frog-eagerly-munch-on-a-murder-hornet-1252925/]











