野生動物と距離が近いニュージーランドでは、珍しい動物が町中に迷い込むこともある。
ビールバーにやってきた珍客は、なんと、野生のオットセイの赤ちゃんだ。
上着を使って保護しようとした男性の手から逃れようと、入口の開いていたバーに入り込んだようだ。
犬同伴OKの店だったこともあり、客たちは最初、犬だと思っていたそうだが、正体が判明するや店内は騒然となった。
しかもこの小さな珍客は、店内のトイレに逃げ込み、個室に立てこもったのだ。 つぶらな瞳で便器の横にうずくまる姿はとても愛らしい。
「トイレは人間のプライベート空間ってママンから教わったから、ここなら見つからないはず」と思っていたのかもしれない。
ビールバーに赤ちゃんアザラシが来店
2025年11月30日、午後5時10分過ぎ、ニュージーランド南島のリッチモンドにあるクラフトビールバー「スプリグ・アンド・フェーン・ザ・メドウズ(Sprig + Fern The Meadows)」は、仕事帰りに喉を潤しに来た顧客たちが次々と入店してきた。
だがその中に紛れてやってきたのは、小さな赤ちゃんオットセイだ。
このオットセイは街中で発見され、男性が上着を使って保護しようとしたところ、逃げようとしてこのバーに逃げ込んだのだ。
この店は「犬同伴可」を掲げており、テーブルの間を縫うように歩く小さな黒い影を見ても、多くの客は「誰かが犬を連れてきたのだろう」と思い込んでいた。
共同オーナーであるベラ・エバンス氏は当時の様子をこう語る。
「最初はみんな犬だと思っていました。でも二度見して、『えっ、あれオットセイじゃない?どうなってるの?』とパニックになったんです」
いくら野生動物との距離が近くても、陸地のバーにオットセイが訪れるのは地元でもレアな事案だ。
オットセイ、トイレに立てこもる
バーの中をさまよっていたオットセイだが、やはり人間の視線やざわめきに恐怖を感じたのだろうか。最終的に彼が逃げ込んだ先は、なんとトイレだった。
オットセイは女子トイレに入り込むと、便器のすぐ横のスペースにちょこんと座り込み、そのままじっと身を潜めた。
つい先日、アメリカで、アライグマがトイレで酔いつぶれた事案があったが、動物たちは人間のトイレがどんなものなのかを学習しているかのようだ。
このオットセイも、ここならプライベートな空間なので追っ手が来ないと思っていたのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
だが、不法侵入したオットセイにプライバシーを保つ権利はなかったようだ。
オットセイを保護しようとしたスタッフや顧客たちに見つかっちゃった。「ここは大丈夫なはずなのになんで~」と言いたげな表情を浮かべていた。
このトイレ籠城事件はおよそ25分間にわたって続いた。
サーモンのおびき出し作戦に成功、無事保護される
いつまでもトイレに隠れさせておくわけにはいかない。当局が到着するまでの間、店側はこの珍客を安全に保護する必要があった。
その後、オットセイはトイレを出て厨房付近の食器洗い機の下に潜り込んだが、スタッフは機転を利かせてすぐに機械のプラグを抜き、怪我がないよう配慮したという。
さて、どうやって捕まえよう。無理やり捕まえようとすれば暴れるし危険だ。
そこでスタッフが思いついたのが、バーのメニューにあるピザ用の高級食材、「新鮮なサーモン」を使う作戦だった。
ビールのつまみには目もくれなかったオットセイだが、さすがに魚の匂いには抗えなかったようだ。
スタッフがサーモンで誘導すると、彼は隠れ場所から出てきて、用意されていた犬用のケージへと素直に入っていった。
犬のいない島に運ばれ、自然に帰される
その後、連絡を受けて到着した自然保護局(DOC)のレンジャーが無事にオットセイを引き取り、タスマン湾に浮かぶ、野良犬のいない小さな島「ラビット島」へと運ばれ、自然に帰された。
犬は好奇心や狩猟本能から、動きの鈍いオットセイの赤ちゃんを執拗に追いかけたり、噛みついて致命傷を負わせたりすることがある。
また、犬が保有する病気が野生動物に感染するリスクもあることから、野良犬のいないラビット島が安全と判断されたのだ。
ニュージーランドオットセイの生態と安全な島
今回来店したこのオットセイは、ニュージーランドの海岸線で見られる「ニュージーランドオットセイ(学名:Arctocephalus forsteri)」の赤ちゃんだ。
アシカ科ミナミオットセイ属に分類されるニュージーランド・オットセイは、アザラシとよく混同されるが、見分けるポイントは明確だ。アザラシには耳たぶがないが、オットセイには小さな耳たぶがある。
また、移動方法も大きく異なる。アザラシは前脚が短く、陸上では這うように移動するが、オットセイは前脚が長く発達しており、後ろ脚を前方に折りたたむことができる。
そのため、陸上でも体を持ち上げてスタスタと歩いたり、今回のようにバーの中に駆け込んだりすることが可能なのだ。
バーの客たちにとっては、「今日、店でオットセイと飲んだんだぜ」と語れる、最高の土産話になったことだろう。
赤ちゃんオットセイも、安全な場所に帰れて本当によかった。
References: Insideedition[https://www.insideedition.com/media/videos/seal-pup-shows-up-to-happy-hour-at-bar-in-new-zealand-92373] / Facebook[https://www.facebook.com/reel/2368264640293479]











