イワシのエラがヒント。マイクロプラスチックを99%除去する洗濯機用フィルターを開発
イワシの口の中の構造 c

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 洗濯機の排水がマイクロプラスチック汚染の大きな原因になっていることは、以前から知られている事実だ。そしてその排出量は想像以上に深刻だ。

 ドイツ・ボン大学の研究によると、一般家庭の洗濯機からは、年間およそ500gもの微細なプラスチック粒子が排出されているという。

 「たった500g?」と思うかもしれないが、非常に軽くて小さい繊維がそれだけの重さになるということは、粒子の数にすれば膨大な量になる。これが下水を通って海へ、あるいは巡り巡って農地へと拡散している。

 この深刻な問題を解決するために、研究チームが目をつけたのは、イワシなどの魚の口の中にある「エラ」の構造だ。

 この構造をヒントに、詰まることなく汚れを除去できる画期的なフィルターが開発されたのだ。

 この研究成果は『npj Emerging Contaminants[https://www.nature.com/articles/s44454-025-00020-2]』誌(2025年12月5日付)に掲載された。

洗濯機から流れ出る大量の「見えないゴミ」

 マイクロプラスチック(直径5mm以下の微細なプラスチック粒子)による環境汚染は、地球規模の巨大な問題となっている。

 これらは人間の体内だけでなく、富士山山頂の雲の上でも発見されているほどだ。一度環境中に出ると分解されるまでに数千年かかり、さまざまな健康被害を引き起こすリスクも指摘されている。

 洗濯機を使った洗濯は、この汚染に大きく加担している。衣類が洗濯機の中で揉まれる際、摩擦や劣化によって繊維が剥がれ落ち、それがそのまま排水に混ざり込んでしまうのだ。

 ドイツ・ボン大学の研究者らの推定によると、4人家族の家庭であれば、洗濯機から年間およそ500gものマイクロプラスチックが排出されているという。

 想像してみてほしい。

綿埃のように軽い繊維くずを集めて500gにするには、どれほどの体積が必要だろうか。粒子数に換算すれば、その数は計り知れない。

 これらが排水と共に下水道へ流れ、処理施設をすり抜けて海へ出るか、あるいは下水汚泥として農業用肥料に混ざり、再び陸上の農地へとばら撒かれてしまうのだ。

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既存の洗濯機フィルターの限界

 もちろん、現在の洗濯機にもフィルターはついている。だが、ボン大学の生物学者であり研究の共著者でもあるレアンドラ・ハーマン博士によれば、それらは完璧には程遠いという。

 「既存のフィルターの中には、すぐにゴミで詰まってしまうものもあれば、目が粗すぎて十分な濾過機能を持たないものもあります」とハーマン博士は指摘する。

 もし効果的なろ過装置を作ることができれば、洗濯機から出る山のようなマイクロプラスチックを劇的に減らすことができるはずだ。

 そこでハーマン博士と研究チームは、複雑な工学技術を一から開発するのではなく、数百万年にわたる進化の歴史を持つ「生物」にインスピレーションを求めた。

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イワシのエラがヒント

 研究チームが注目したのは、イワシやカタクチイワシ、サバといった魚だ。こうした魚は食事の際、大量の海水を飲み込みながら、そこに含まれるプランクトンだけを上手に濾し取って食べている。

 その口の中には、漏斗(ろうと)のような形をした「鰓弓(さいきゅう)」と呼ばれる独特のエラ骨の構造がある。

 これが「クロスフローろ過システム」と同様の働きをするのだ。

 クロスフローろ過とは、フィルターに対して水を直角に当てるのではなく、平行に流す濾過方式のことだ。

 一般的なザルのようなろ過(全量ろ過)では、ゴミが網目に突き刺さってすぐに詰まってしまうが、クロスフロー方式なら川の流れのように表面を滑らせることで、詰まりを防ぐことができる。

 魚が海水を飲み込むと、水はエラを通り抜けて外へ排出されるが、エラにある小さな歯のような突起(鰓耙:さいは)がメッシュの役割を果たし、プランクトンだけをブロックする。

 「プランクトンは網目を通り抜けるには大きすぎるため、そこに取り残されます。そして漏斗のような形状のおかげで、プランクトンはそのまま食道の方へと転がっていき、魚が飲み込むまでそこに集められるのです」と、共著者のアレクサンダー・ブランケ博士は説明する。

 これにより、エラ(フィルター)は常にきれいな状態が保たれ、目詰まりを起こすことなく食事と呼吸を続けることができるのだ。

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マイクロプラスチックを分離させるフィルターを開発

 研究チームはこの構造を模倣し、さまざまなメッシュサイズや角度を実験した結果、ついに自然界の微調整にも匹敵する最適な設計にたどり着いた。

 「私たちは、水から99%以上のマイクロプラスチックを分離しつつ、フィルターが詰まることのない条件の組み合わせを発見しました」とハーマン博士は語る。

 開発された新しいフィルターシステムは、捕獲したマイクロプラスチックを排出口に集め、定期的に吸い出す仕組みになっている。

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 さらに研究チームは、洗濯機に少し改良を加えれば、集めたゴミから水分を絞り出し、捨てやすい「ペレット(小さな固まり)」状に圧縮することも可能だと提案している。

 そうすれば、ユーザーは数十回洗濯するごとにそのプラスチックの塊を取り出し、一般ごみとして捨てるだけで済む。

 この新型フィルターは複雑な機械部品を必要とせず、製造コストも非常に安いというメリットがある。

 現在特許出願中であり、研究チームは今後、洗濯機メーカーと協力してこの技術を製品に組み込み、各家庭から海への汚染ルートを断つことを目指している。

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s44454-025-00020-2] / Uni Bonn[https://www.uni-bonn.de/en/news/219-2025]

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