1980年代のSF映画を象徴するキャラクターと言えば、『ターミネーター』と並んで、『ロボコップ』を思い起こす人も多いんじゃないだろうか。
2025年12月、映画の舞台となった、アメリカ・ミシガン州デトロイトに、ロボコップの銅像が設置された。
高さ約3.3m、重さ約1,600kgの威風堂々たるロボコップ像。なんと製作開始から15年の歳月を経て、ようやく設置が実現したのだそうだ。
1980年代の人気映画『ロボコップ』とは
まずは『ロボコップ』のストーリーについて、ざっとおさらいしてみよう。オムニ社によって民営化され、凶悪な犯罪がはびこるようになった未来のデトロイト。
オムニ社は犯罪を取り締まるために、有能な警察官のマーフィー巡査が瀕死の重傷を負うよう仕向け、その肉体を使ってロボット警官「ロボコップ」を完成させる。
ロボコップとして治安維持の現場で活躍するようになったマーフィーだが、人間だった頃の記憶などないはずなのに、失われた記憶の断片に苦しみ始める。
やがて彼は自分を利用したオムニ社とマフィアの陰謀を知り、デトロイトの未来を守るために立ち上がるのだ。
かつて自動車産業で栄えながら、衰退と治安悪化を経験した現実のデトロイト。そして、荒廃し凶悪な犯罪都市と化した、映画の中の未来都市デトロイト。
この2つの「デトロイト」が重なり合ったことで、『ロボコップ』は単なるフィクションを超えて、デトロイトの象徴のような存在となったと言えるかもしれない。
そんな映画に登場するロボコップの銅像が、2025年12月、デトロイト市内のイースタン・マーケットに設置された。
ファンの「呟き」から始まったプロジェクト
実はここに至るまでには、実に15年近い紆余曲折があった。事の発端は、2011年にあるツイッターのユーザーが「フィラデルフィアにはロッキーの像があるのだから、デトロイトにもロボコップの像を作るべきだ」と呟いたのだ。
このツイートは大きな反響を呼んだ。
だが、ネット上では逆にファンの間で火がつき、ロボコップ像の実現を望む声が広がっていった。この動きはやがて、クラウドファンディングへと発展する。
2012年に正式に資金集めが始まり、最終的に集まった金額は67,436ドル(2012年のレートで約500万円、現在のレートでは約1,050万円)。
支援者は2,700人を超え、「デトロイトの新しい象徴を作ろう」という動きは、どんどん現実味を帯びていった。
当時のコメントでは「デトロイトの未来に希望を示すアイコンになるはずです」との声も寄せられていた。
十分な資金が集まると、ロボコップ像の製作はギリシャ出身の彫刻家ジョルジオ・ギカス氏と、デトロイトの鋳造業者Venus Bronze Works によって進められることになった。
映画で使用されたオリジナルスーツの型に基づく精巧な造形で、像は2017年にはおおむね完成していた。しかし、ここから実際に設置するまでには、さらなる紆余曲折があったのだ。
設置の候補地が二転三転
この像は当初、ミシガン中央駅近くのルーズベルト公園やウェイン州立大学のキャンパスが、設置場所の候補に挙がっていた。
その後、ミシガン・サイエンスセンターで、屋外展示として公開されることになったのだが、パンデミックを理由にこの計画は白紙となる。
その後も市の許可や展示スペースの条件が整わず、像は長い間、倉庫に置かれたままになっていたのだ。
完成しているにもかかわらず、公開の目処は立たず、ファンの間では「ロボコップ像は永遠にお蔵入りになるのではないか」との失望が広がっていった。
転機が訪れたのは2025年になってからだ。イースタン・マーケットにある映画プロダクション「FREE AGE」のスタジオの外に、設置されることが決まったのだ。
FREE AGEプロダクションの共同経営者、ジム・トスカーノ氏(48)は、ロボコップ像設置の打診が来たとき「冗談だろ?」と思ったという。
あまりにもぶっ飛んでいて、ユニークで、クールな話だったので、受けないという選択肢はありませんでした
実はトスカーノ氏は、ロボコップは最初の映画を見たことがあるだけで、そこまでファンというわけではなかったらしい。だが、自社の敷地にやって来たロボコップ像については、次のように語っている。
とても気に入っていますよ。見た目も素晴らしいし、とにかく印象的で、既にたくさんのステキな人たちが集まってくれています
設置作業は12月初旬に行われた。高さ約3.3m、重量約1.6tのブロンズ像は、寒冷地の凍結に耐える基礎構造の上に据え付けられた。
銅像は銃を構えた姿ではなく、左手を前に差し出す親しみやすいポーズでデザインされている。
製作者側は、武装して威圧的に見える姿ではなく、来訪者を迎え入れるようなジェスチャーを選んだと説明しているそうだ。
公開当日の12月3日午後、像の周囲には雪が舞っていた。特にセレモニーなどは行われなかったようだが、訪れた多くの見物客や映画ファンが、次々に写真を撮っていたという。
ディストピアを象徴するアイコンになりかねないとの懸念も
実は『ロボコップ』という映画は、デトロイトにおいては微妙な存在でもあった。映画に描かれたこの街は、犯罪や差別、経済格差といった問題と重ねられ、街のイメージを損ねるとして、批判の対象となったこともある。
今回のロボコップ像についても、映画の中に登場するような「荒廃したデトロイト」のイメージを想起させるのではないかと、懸念する声も小さくない。
しかし近年、デトロイトでは暴力犯罪が長期的に減少し続けており、都市としての再生が進んでいる。
こうした状況の中で、ロボコップ像を「過去からの再生」と「新しい街の姿」を象徴する存在として、ポジティブに受け入れようとする声もある。
とはいえ、インターネットでの反応には、デトロイトの住人たちの、複雑な気持ちが如実に表れている。
- 気のせいかな、なんか体の比率がおかしくない? 脚が短すぎて、頭が大きく、胴体が丸く見える
- ピーター・ウェラー(マーフィー/ロボコップ役の俳優)は、もともと長身で細身なんだ。その体型だからこそ、ロボコップの姿も引き締まって見えたんだ。この像のロボコップは、なんかダサく見えるんだよな
- 確かに比率はめちゃくちゃ。でも「太ったロボコップ像でも、無いよりマシ」ってところかな
- 2012年のクラファンで5ドル出資したんだよね。完成するまでだいぶ時間かかったな
- 当時はむしろ、5ドルをビットコインに突っ込むより良い投資に思えたんだよ。ビットコインにしてれば今ならポルシェ買えてたのに。
まあ、「今にして思えば」ってやつだけど- 若い世代がロボコップを知らない今になってやっと完成したわけだな
- この像を作った金工師のジョルジオ・ギカスは、一時期大腸がんで2年以上寝たきりになって製作を中断してたんだよ。それでも克服したんだ
- ロボコップって、そもそも風刺だったよね? 暴力で権力者や企業の利害を守るための存在として作られたんじゃなかった? 最後はマーフィーが人間性を取り戻すのは知ってるけど、それでもロボコップの銅像を建てるって、なんか奇妙じゃないか
- 映画はデトロイトを地獄みたいに描いてた。でもデトロイト市民は、それを逆に自分たちの象徴として受け入れたんだよ
- そもそもロボコップ像を建てること自体が変だよ。映画はデトロイトのイメージを完全に貶してたじゃん。そんな映画の像をデトロイト市民が喜ぶって、正直変な話だ。
- でもさ、デトロイトが舞台の映画なんてそもそも多くないし、デトロイト=暴力・犯罪ってイメージはロボコップが作ったんじゃなくて、70年代以降本当に大変な時代を街が通ってきた結果だ。むしろロボコップは、そうした暴力や犯罪に「立ち向かう象徴」とも言えるんだよ
- 映画は好きだし像もカッコいいとは思うけど、素顔のマーフィーじゃなくてマスク版を作るのは、良くないものを偶像化してる気もする
- デトロイト出身として言うけど、こんなの要らなかった。フィラデルフィアのロッキー像への対抗ってのはわかるけど、これは都市の荒廃や犯罪、暴力の激化を思い出させるだけだよ。この街には、もっと希望や再生を象徴するものが必要なんだ
- こういう像ってたいてい都市の観光資源として補助が出るから、地元経済に金が落ちるんだよ
- どうせ文句言う人は出てくる。破壊される前に、博物館か誰かの私的コレクションに移された方がいいかもな
- 1000年後、地球が荒廃した後にエイリアンが遺跡を掘り返したら、「なんでこのサイボーグ支配者は人類を救えなかったんだ?」って困惑するだろな
長い年月を経てついに居場所を見つけたロボコップ像。住民たちがこの像に望むのは、映画の中で描かれた荒廃の象徴としてではなく、むしろ多様な文化を抱える都市デトロイトの、新たな表情を映し出す鏡となることなのかもしれない。
References: RoboCop statue installed in Detroit after nearly 15 years[https://www.upi.com/Odd_News/2025/12/05/RoboCop-statue-Detroit-installed/6041764958572/]











