スーパーで買ってきたパックの刺身や、冷蔵庫に少し長く置いてしまった魚を食べようとするときに、気になるのはその鮮度だ。「本当にこれ、生で食べても大丈夫かな?」と不安になることもあるだろう。
通常、私たちは臭いを嗅いだり、目の色を見たりして判断するが、それはあくまで感覚的なものに過ぎない。もっと白黒はっきりとした結果が、今すぐに欲しい。
そこでオーストラリアの研究チームは、魚の切り身や刺身専用の鮮度センサーをを開発した。
極小の針を使ったこの装置は、切り身に刺すだけで100秒ほどで鮮度を科学的に判定できる。いちいち実験室に持ち込まなくてもその場でわかるのも利点だ。
この研究成果はアメリカ化学会が発行する学術誌『ACS Sensors[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssensors.5c01637]』(2025年12月3日付)に掲載された。
魚の鮮度指標となる物質「ヒポキサンチン」
魚の鮮度が落ちていくとき、その身の中では目に見えない化学変化が起きている。
魚は死ぬとほぼ同時に、細胞の中にある核酸などの分子が分解され始める。その過程で生成されるのが「ヒポキサンチン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%9D%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%B3](HX)」という化合物だ。
このヒポキサンチンは、死んでからの時間が経過すればするほど、魚の身の中で濃度が高くなっていく。
そのため、科学的に魚の鮮度を知るには、このヒポキサンチンの量を測るのが確実な方法だ。
だが、ここには問題がある。ヒポキサンチンのレベルを正確に測るためには、専門的な設備が整った研究室へ持ち込む必要があったのだ。
測定には時間も手間もかかるため、夕食の準備をしている家庭のキッチンや、忙しいレストランの厨房で魚をチェックするのには向いていない。
どこでも手軽に使える小型のセンサー装置を開発
「魚の刺身の鮮度をもっと手軽に、その場で測定できないか」
そこで、オーストラリアにあるディーキン大学とモナシュ大学の研究チームは、先端に4×4の格子状に並んだ「極小の針(マイクロニードル)」を備えた小型センサーを開発した。
この針は非常に微細な鋭い突起で、本来は皮膚の表面から痛みを伴わずに薬剤を投与するといった医療用途で使われてきた技術だ。
研究チームはこれを、魚の鮮度チェックに応用した。
針の表面は、電気を通しやすくする「金ナノ粒子」と、特定の酵素である「キサンチンオキシダーゼ」でコーティングされている。
このキサンチンオキシダーゼは、鮮度低下と関係性のあるヒポキサンチンを分解する性質を持つ。
センサーの針を魚の切り身に押し当てると、酵素がヒポキサンチンに反応して働き出し、魚の身に流れる電気の状態(電位)に変化が生じる。
センサーがその電気的な変化を読み取り、鮮度を客観的な数値として測定する仕組みだ。
100秒で完了、実験室レベルの精度
この技術の実力を確かめるため、研究チームは実際にサーモンの切り身を使った実験を行った。
室温で最大48時間放置し、鮮度が落ちていく過程のサーモンにこのセンサーを使用したところ、結果は正確だった。
わずか100秒以内に測定を完了し、「非常に新鮮」とされる500ppb(10億分の1)未満という極めて微量な濃度でも検出に成功した。
500ppbという単位は、50mプールにスポイト数滴分のインクを垂らした程度の濃度である。
このセンサーが弾き出した数値は、高価で大掛かりな市販の研究室用検査キットの結果とも合致した。
これから食べようとする刺身に、スマホサイズのデバイスを魚にかざして鮮度を判定できる未来はそう遠くないのかもしれない。
References: ACS[https://www.acs.org/pressroom/presspacs/2025/december/fish-freshness-easily-monitored-with-a-new-sensor.html]











