5万年前に謎の失踪を遂げた小型のヒト属「ホビット」に何が起きたのか?
ホモ・フローレシエンシス(ホビット)の復元予想図  Image credit: Elisabeth Daynes.<br>

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 かつてインドネシアのフローレス島には、人類の親戚にあたる「ホモ・フローレシエンシス」が暮らしていた。身長1mほどの小柄な体格からホビットとも呼ばれている彼らは、約5万年前に突如姿を消してしまった。

 100万年以上もこの島で暮らしていたホモ・フローレシエンシスの絶滅の原因は長年の謎だったが、最近になって新たな証拠が見つかった。

 約6万1000年前に始まった極度の干ばつが、彼らの運命を大きく狂わせたようなのだ。

 干ばつに伴い、移動していった獲物を追って故郷を捨てたホビットたちを待ち受けていたのは、火山噴火と現生人類「ホモ・サピエンス」の存在だった。

 この研究成果は『Communications Earth & Environment[https://doi.org/10.1038/s43247-025-02961-3]』誌(2025年12月8日付)に掲載された。

フローレス島の洞窟に残された「タイムカプセル」

 2003年にインドネシアのフローレス島で発見されたヒト属、「ホモ・フローレシエンシス」は身長1mほどの小柄な体とそれに比例した脳を持ちながら、火や精巧な石器を使っていたと考えられている。

 そのサイズから、映画や小説に登場する小人にちなみ、「ホビット」という愛称で親しまれている。

 当初は1万2000年前まで生存していたとされていたが、新たな研究で、約5万年前までに絶滅したと考えられている。

 アイルランド国立大学メイヌース校、オーストラリアのウーロンゴン大学、インドネシアのバンドン工科大学などの古生物学者による国際研究チームは、ホビットが姿を消した原因を突き止めるため、化石が見つかった場所とは「別の洞窟」に目をつけた。

 ホビットの骨や石器は、フローレス島中央部の高地にあるリャン・ブア洞窟で発見されている。しかし、当時の環境を知るための手がかりは、そこから700mほど上流にある「リャン・ルア洞窟」の奥深くに隠されていた。

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 そこには、ホビットたちが絶滅に向かっていた時期を通じ、ひっそりと成長し続けていた「石筍(せきじゅん)」があったのだ。

 石筍とは、洞窟の天井から落ちる水滴によって床からタケノコのように上へ伸びる鍾乳石の一種だ。

 水滴に含まれる成分が積み重なってできるため、その断面には年輪のように過去の気候変動が克明に記録されている。

いわば天然のタイムカプセルである。

 研究チームは、この石筍に含まれる酸素同位体(d18O)やマグネシウムなどの成分を徹底的に分析した。

 その結果、これまで知られていなかったフローレス島の劇的な気候の歴史が浮かび上がってきた。

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6万1000年前から極度の干ばつが発生していた

 分析の結果、過去のフローレス島は3つの異なる気候時代を経験していたことが判明した。

 9万1000年前から7万6000年前までは、今よりも雨が多く湿潤な環境だった。続く7万6000年前から6万1000年前までは、夏は雨が多く冬は乾燥するという、季節の変化がはっきりした時期だった。

 この時期は「ゴルディロックス(最適な)」気候と呼ばれ、動植物にとって非常に住みやすい環境だったようだ。

 ところが、6万1000年前を境に事態は急変する。気候が極端に乾燥し始めたのだ。

 特に夏の乾燥が激しくなり、それまでの豊かな緑は失われ、乾いた大地へと変貌していった。この激しい乾燥化は、4万7000年前頃まで数千年にわたって続いたと推測されている。

 では、この気候変動はホビットたちにどう影響したのか。それを裏付ける証拠は、意外な動物の化石から見つかった。

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獲物を追って故郷を捨てたホビットたち

 リャン・ブア洞窟からは、ホビットの道具と共に、かつて彼らが食料として狩っていた「ステゴドン(Stegodon florensis insularis)」の一種の骨が大量に見つかっている。

 このステゴドンは、現代のゾウの遠い親戚にあたる絶滅種だ。大陸に生息していたステゴドンは巨大だったが、この種は孤立した島で独自の進化を遂げて小型化(島嶼化)しており、現代のゾウよりもずっと小柄だった。

 研究チームがこの象の歯の化石を分析したところ、その成分変化が、石筍が示した気候変動のデータと完全に一致した。

 象の化石の90%は、気候が最適だった7万6000年前から6万1000年前の地層に集中していた。

 これは、環境が良い時期には象もホビットも繁栄していたが、乾燥化が始まると同時に、両者とも急速に姿を消していったことを意味する。

 乾燥によって川の水位が下がり、飲み水を確保できなくなった象たちは、水を求めて高地の洞窟周辺から移動を始めたはずだ。

 食料を象に依存していたホビットたちもまた、生き残るために獲物を追って住み慣れた洞窟を放棄し、移動を余儀なくされたのだろう。

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逃げた先に待っていた「別の脅威」、巨大なホモ・サピエンス

 獲物を追ってリャン・ブア洞窟を離れた彼らの旅路は、決して安住の地への移動ではなかったかもしれない。

 洞窟に残された最後の地層は、約5万年前の分厚い火山灰に覆われている。近くで起きた火山噴火が、彼らにとどめを刺した可能性も否定できない。

 さらに不穏な要素がある。ホモ・サピエンス(現生人類)の存在だ。

 新しい考古学的証拠やDNA解析によると、現生人類は少なくとも6万年前にはインドネシアの島々を渡り、オーストラリア方面へと移動していた。

 環境の変化により、彼らが高地から海岸線や別の地域へと移動していたとすれば、そこで新たにやってきた「巨大な人類」である我々の祖先と遭遇した可能性がある。

 そこで資源を巡る競争があったのか、未知の病気が持ち込まれたのか、あるいは直接的な捕食対象となったのかは定かではない。

 確かなことは、彼らに移動を強制した環境の激変が、100万年も続いたホビットの歴史に終止符を打つ引き金になったということだ。

References: Theconversation[https://theconversation.com/the-hobbits-mysteriously-disappeared-50-000-years-ago-our-new-study-reveals-what-happened-to-their-home-268668] / PHYS[https://phys.org/news/2025-12-hobbits-mysteriously-years-reveals-home.html] / Nature[https://www.nature.com/articles/s43247-025-02961-3]

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