ホッキョクグマは温暖な気候に適応するため、自らのDNAを書き換えている可能性
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 気候変動による地球温暖化は、北極圏のホッキョクグマを絶滅の危機に追い込んでいる。彼らが狩りの足場とする海氷は年々減少し、このままでは21世紀末には地球上から姿を消してしまうとさえ予測されている。

 だが、生命の底力は計り知れない。新たな研究によって、ホッキョクグマが気温の上昇に合わせて、自らのDNAを書き換えている可能性が明らかになった。

 イースト・アングリア大学の研究チームによると、特定の地域のホッキョクグマは、自身の設計図である遺伝情報を変化させ、過酷な環境でも生き残れるよう、急速に適応しようとしているという。

 ホッキョクグマは、氷が溶けゆく新たな世界で、遺伝子レベルで必死の生存戦略を行っているのかもしれない。

 この研究成果は『Mobile DNA[https://link.springer.com/article/10.1186/s13100-025-00387-4]』誌(2025年12月12日付)に掲載された。

気温の上昇に合わせて、体内の遺伝子が変化

 アラブ首長国連邦、イースト・アングリア大学生物科学部のアリス・ゴッデン博士率いる研究チームは、ホッキョクグマの血液サンプルを分析し、気温の上昇とDNAの変化に関連性があることを突き止めた。

 研究チームは、グリーンランドの北東部と南東部という、環境の異なる2つの地域に生息するホッキョクグマを調査した。

 北東部は比較的寒冷で気温も安定しているが、南東部は気温が高く変動も激しいうえ、海氷が少ないという厳しい環境だ。

 調査の結果、南東部のクマたちの体内では、熱ストレスや老化、エネルギー代謝に関連する遺伝子が、北部のクマとは異なる働きをしていることが判明した。

これは、彼らが温暖化する生息環境に適応しようとしている兆候だと考えられる。

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変化のカギは、設計図を書き換える「ジャンピング遺伝子」

 では、一体どうやって遺伝子の働きを変えているのだろうか? そこで注目されたのが「ジャンピング遺伝子(トランスポゾン)」と呼ばれる特殊なDNA配列だ。

 DNAは、遺伝情報が記録された「物質(生命の設計図全体のファイル)」のことだ。遺伝子とは、そのファイルの中の一部のページ(情報)のことで、このページをもとに、体を作るタンパク質が合成され、生命活動が行われている。

 通常、ファイルに収められたページの順番が勝手に変わることはない。

しかし、この「ジャンピング遺伝子」は例外だ。

 ジャンピング遺伝子は、その名の通りDNA(ファイル)の中を移動(ジャンプ)することができる。自分のページを切り取って、別の場所に差し込んだり、コピーして割り込んだりして、物理的にファイルの構成を変えてしまうのだ。

 こうしてファイルのページ構成が変われば、当然そこから読み取られる情報も変わってくる。

 研究チームが、ホッキョクグマの遺伝子活動と地域の気候データを照らし合わせたところ、グリーンランドの最も暖かい地域に住むクマたちは、気温上昇に伴ってこのジャンピング遺伝子を劇的に活性化させ、環境に適応するために自らのDNAを書き換えている可能性が高いことが判明した。

 これは溶けゆく海氷に対抗するための、生存メカニズムである可能性がある。

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20番目の亜集団に見られた遺伝子レベルの変化

 今回調査対象となったグリーンランド南東部のホッキョクグマは、以前カラパイアでも紹介した「20番目の亜集団」と呼ばれるグループだ。

 この研究は、2022年に発表されたワシントン大学などの研究チームによる発見に基づいている。当時、本来ならホッキョクグマが生息できないはずの氷の少ない環境で、約200年前に他のグループから分離した独自の集団(20番目の亜集団)が確認された。

 彼らは海氷の代わりに、フィヨルドから崩れ落ちた氷河の淡水の氷(メランジュ)を利用して狩りを行っていた。

 そして今回の研究で、彼らは行動だけでなく遺伝子レベルでも別次元の適応をしていることが裏付けられたのだ。

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食性を左右する遺伝子の働きも変化

 興味深いことに、南東部のクマには「脂肪の処理」に関連する遺伝子の働きにも変化が見られた。

 通常、ホッキョクグマは脂肪分が豊富なアザラシを主食としている。しかし、アザラシ狩りが難しい南東部の温暖な地域では、食料が不足しがちだ。

 今回のデータは、南東部のクマたちが、より暖かい地域で見られる植物ベースの粗食にゆっくりと適応しようとしている可能性を示唆している。

 彼らは狩りの方法だけでなく、体内の代謝システム自体を変えることで、エネルギー源の乏しい環境を生き抜こうとしているのかもしれない。

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気候変動のスピードの速さに適応が追い付かない可能性

 ゴッデン博士は、この発見がホッキョクグマにとってある種の「希望」ではあるものの、決して楽観視できるものではないと釘を刺す。

 彼らの遺伝情報は、今後の保全活動において極めて重要な意味を持つが、DNAを書き換えるスピードよりも、温暖化による環境破壊のスピードの方が早いため、すべてのクマが適応できる保証はないのだ。

 ゴッデン博士は「私たちは現状に満足してはいけません。依然として、世界の二酸化炭素排出量を削減し、気温上昇を遅らせるためにできる限りのことをする必要があります」と語る。

 根本的な原因である地球温暖化をこれ以上速く進めないようにしなければ、ホッキョクグマたちの努力も徒労に終わってしまうのだ。

 時間の経過とともにDNAは変化し進化するものだが、温暖化という環境ストレスはそのプロセスを加速させる。野生の哺乳類において、気温上昇とDNA変化の間に統計的に明確な関連性が見つかったのは、今回の研究が初めてだという。

 ゴッデン博士は、今後は他のホッキョクグマの集団についても調査を進めたいとし、「手遅れになる前に、この貴重で謎めいた種のゲノムを分析する緊急性を、この研究が伝えてくれることを願っています」と結んでいる。

References: Springer.com[https://link.springer.com/article/10.1186/s13100-025-00387-4] / Polar bears may be adapting to survive warmer climates, says study[https://phys.org/news/2025-12-polar-survive-warmer-climates.html]

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