映画『スター・ウォーズ』でおなじみのR2-D2やC-3POのような頼れるドロイド。そんなSFの世界がついに現実のものになろうとしている。
NASAは、人類が再び月を目指す「アルテミス計画」において、宇宙飛行士と共に月面で活動する史上初のロボットとして「MAPP」を選出した。
MAPPは、ナビゲーションAIを搭載した自律型探査車で、映画のドロイドとまではいかないが、月面に構築される4Gネットワークを駆使し、宇宙飛行士とデータで「対話」しながら連携する。
その任務は、月探査の最大の敵「レゴリス(月面の砂塵)」の調査だ。無口だが頼れるロボットの相棒は、過酷な環境で人類の命を守る重要な鍵を握っている。
月面活動で宇宙飛行士の「相棒」となる自律型ロボット
かつてSF作品『宇宙家族ロビンソン』にはフライデーというロボットが、『キャプテン・ロジャース』にはトゥイキという相棒がいた。
『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカーにはC-3POとR2-D2が寄り添っていた。そして近い将来、SFの世界が現実となる。
NASAが月面着陸を目指すアルテミス計画[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%9F%E3%82%B9%E8%A8%88%E7%94%BB]のミッションに任命する宇宙飛行士には、「MAPP」という相棒がつくことになった。
NASAは、宇宙飛行士と一緒に月面で活動する最初のロボット探査車として、Lunar Outpost社の「MAPP[https://www.lunaroutpost.com/mapp](Mobile Autonomous Prospecting Platform)」を選定した。
MAPPは、人間が操縦する必要のない「自律型」であることが最大の特徴だ。
高度なAIが周囲の地形や障害物を判断し、最適なルートを選んで走行する。その任務は映画のロボットたちよりも単純なものだが、4つの車輪を持つMAPPは、科学者たちがクルーを取り巻く環境についてより多くのことを学ぶのを助けてくれる。
MAPPに搭載された科学機器は、月面環境における表面プラズマやレゴリス(塵)の挙動を詳細に調査する予定だ。
NASAの科学局長であるニッキー・フォックス氏は声明で、アポロ時代の教訓について語っている。
アポロ時代は、人類が地球から遠く離れれば離れるほど、他の惑星で人命を守り維持するために科学への依存度が高まることを私たちに教えてくれました(フォックス氏)
実験場である月面にこれらの科学機器を配備することで、NASAは人類の「惑星間サバイバルガイド」の作成において世界をリードし、月への壮大な旅を再開するにあたり、宇宙船と人間の探検家たちの健康と安全を確保しようとしている。
人類の生存をかけたミッション、月面インフラとの連携
Lunar Outpost社の創設者兼CEOであるジャスティン・サイラス氏は、「アポロ計画のミッションは、月面のレゴリスがもたらす課題を私たちに示しました」と述べている。
NASAのアルテミス計画は、宇宙における持続可能な人類の活動拠点を築くための重要なステップとして、その解決策を見つけようとしている。
これは同社にとって7回目の契約ミッションとなり、多様な任務に対応するプラットフォームとしての能力を示し、宇宙飛行士が月で研究を行うのを助けるための機動性とロボット工学技術を提供するものとなる。
NASAが月に打ち上げる次のミッション、2026年の「アルテミス2号」は、4人の宇宙飛行士を乗せて月の近くまで飛行し、その後、有人宇宙船オリオンの試験飛行として地球に帰還する予定だ。
それに続くのが、2028年に予定されている「アルテミス3号」だ。
これは、アポロ17号の船長だった故ジーン・サーナン氏が、50年以上前に月面に最後の足跡を残して以来、初めて人類が月面に帰還するミッションとなる。
さらに続く「アルテミス4号」は、この計画における2回目の月面着陸となり、アルテミス3号で月の南極について学んだことを基盤に進められる。
アポロ計画からの警告、月面最大の敵「キラーダスト」との戦い
かつてアポロ17号で月面に降り立った宇宙飛行士ジーン・サーナン氏は、月面を覆う塵の堆積層「レゴリス」が長期的な月探査にとって大きな課題であることを認めていた。
NASAの発表によると、レゴリスに含まれる微細な塵は触れるものすべてに付着し、非常に研磨性が高く、やすりのように物を削ってしまう性質があるという。
その課題に対処するため、太陽光発電で動くMAPPは、コロラド大学ボルダー校の大気宇宙物理学研究所(LASP)による2部構成の調査「DUSTER(ダスター)」をサポートする。
この自律型探査車の装備には、月面から舞い上がった塵の粒子の電気量、速度、大きさ、および量を測定する「静電塵分析装置」と、プラズマ探査を使用して月面上の平均電子密度を特定する「RESOLVE(レゾルブ)」という機器が含まれる。
セントラルフロリダ大学とカリフォルニア大学バークレー校もLASPと協力し、DUSTERによって測定されたデータの解釈を行う。
前者は月着陸船が月から離陸する際に発生する塵の噴出を調査し、後者は上流のプラズマ状態を分析する役割を担う。
月の塵は接触するほぼすべてのものに付着し、機器や宇宙服にリスクをもたらす。また、ソーラーパネルを遮って発電能力を低下させたり、排熱用ラジエーターを過熱させたりすることもある。
さらに、吸い込んだ場合には宇宙飛行士の健康を脅かす可能性さえあるのだ。
LASPの上級研究員でありDUSTERの主任研究員であるシュー・ワン氏は、「宇宙飛行士の安全と探査機器の動作を確保するために、月の南極におけるレゴリスとプラズマの環境、そしてそれらが時間や場所によってどのように変化するかについて、完全な全体像を構築する必要があります」と述べている。
この環境を研究することで、対策や手法を導くための重要な洞察を得ることができ、月での長期的かつ持続可能な有人探査が可能になるからだ。
民間企業も注目するMAPPの未来
MAPPは、C-3POやR2-D2というよりは、デス・スターなどを走り回る箱型の「マウス・ドロイド」に似た姿をしている。
アルテミス4号の宇宙飛行士と共にMAPPが月面に降り立つとき、「MAPP」にとって、そこは決して未知の場所ではない。
すべてが計画通りに進めば、今回選ばれた機体は、Lunar Outpost社が月に送り込む「3台目」の探査車となるからだ。兄貴分にあたる同型機たちが、すでに月面到達を果たしていることになる。
アメリカのコロラド州に拠点を置く同社の最初のMAPPミッション、通称「ルナ・ボイジャー1」は、2025年3月に月に到着した。
ところが、そこまでの移動手段であった民間の無人月着陸船が着陸時に転倒したため、自身のガレージの中に閉じ込められてしまったのだ。
移動はできなかったが、ルナ・アウトポスト社によれば、この初代MAPPは月面および移動中にデータを収集することができ、走行準備完了状態であったことも確認できたという。
2代目のMAPPは、NASAの商業月面輸送サービスの一環として、2026年にインテュイティブ・マシーンズ社のミッションでの打ち上げが目標とされている。
このミッションでは、月面にノキア(Nokia)社製の4G/LTE通信システムが構築される予定だ。
地球では5Gが主流になりつつあるが、過酷な宇宙環境では、より遠くまで電波が届き、実績豊富で信頼性の高い4G技術があえて採用されている。
MAPPはこのネットワークを利用して、着陸機や宇宙飛行士と連携を取ることになる。
3代目のMAPPは商業ミッションとして予約されており、その後には、オーストラリア宇宙庁初の旗艦ミッションでありNASAのアルテミス計画への貢献となる「ルーバー」が10年末までに続く予定だ。
Lunar Outpost社は以前、NASAの月周回プラットフォーム「ゲートウェイ」のために開発された生命維持システムに基づいた環境監視システムを展開した実績がある。
ほかにも、火星探査車「パーサヴィアランス」に搭載された酸素生成装置「MOXIE(モクシー)」を製造し、火星での酸素生成を16回成功させている。
MAPPはポップカルチャーでも注目されており、先人であるSFロボットたちとの類似性を広げている。
References: Collectspace[https://www.collectspace.com/news/news-120825a-artemis-iv-lunar-outpost-mapp-rover-duster.html] / Arstechnica[https://arstechnica.com/space/2025/12/lunar-outpost-rover-to-study-lunar-dust-alongside-artemis-astronauts-on-moon/] / Lunaroutpost[https://www.lunaroutpost.com/mapp]











