シャチとイルカがタッグを組んだ。協力して狩りをする様子が初めてとらえられる
協力して狩りをするシャチとイルカの群れ Image credit:Dalhousie University

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 海の生態系において頂点に君臨するシャチと、知能が高いことで知られるイルカ。本来なら競合関係にあるはずの両者が、お互いに手を組んで一緒に狩りをしている証拠が発見された。

 カナダ・ダルハウジー大学が率いる国際研究チームが、様々な機材を駆使して調査を行ったところ、シャチとカマイルカが協力して餌を探す「戦略的同盟」を結んでいる様子を撮影することに成功したのだ。

 きちんと役割分担もできている。音波で獲物を探知する能力に長けたイルカが「レーダー搭載の偵察機」として獲物を探し出し、圧倒的なパワーを持つシャチが獲物を仕留めて食べやすい大きさに「解体」する。

 「持ちつ持たれつ」の共存関係は、これまでの海洋生物学の常識を覆す発見として注目を集めている。

 この研究成果は『Scientific Reports[https://www.nature.com/articles/s41598-025-22718-4]』誌(2025年12月11日付)に掲載された。

シャチとイルカが行動を共にしているのを偶然発見

 科学者たちはカナダ・ブリティッシュコロンビア州の沖合で、魚を主食とする定住型のシャチの行動を調査していた。

 目的は、彼らの狩りや食事の習性を詳しく知るために映像や画像データを収集することだ。

 特に、絶滅が危惧されている「南部定住型」と呼ばれるグループのシャチたちが、生きていくのに十分な食料を得られているかどうかを見極めることが調査の狙いだった。

 調査チームが16mの船からドローンを飛ばして空から観察していたときのことだ。彼らは「北部定住型」のシャチとカマイルカが、海面でサケ(キングサーモン)を追いかけている場面に遭遇した。

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 カマイルカは、背びれの後ろに鎌(カマ)のような白い模様があるのが特徴の北太平洋に生息する小型のイルカだ。

 群れで行動し、活発に動き回る。日本の水族館でも見ることができるが、野生下でシャチとどのような関係にあるのかは知られていなかった。

 その後、調査チームはバイオロガー(生物装着型の記録装置)から得られた数時間におよぶ水中映像を見直した。

 するとそこには、シャチとイルカがまるで示し合わせたかのように一緒に行動し、その動きをシンクロさせている姿が映っていたのである。

 ダルハウジー大学海洋学部のサラ・フォーチュン博士は、両方の種が「エコーロケーション(反響定位)」を行っていることに注目した。

 エコーロケーションとは、音波(主に超音波)を出し、その反響音を聞くことで、視界の悪い暗い水中でも獲物の位置や距離、形、性質などを正確に把握する特殊能力のことだ。

 博士は、この音が出ている間、シャチがイルカの方へ移動し、深海までイルカの後をついていく様子に気づいた。 

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新たな技術でシャチの行動の謎を探る

 今回の研究論文の筆頭著者であるフォーチュン博士ら研究チームは、当初この光景に我が目を疑ったという。シャチはこれまで徹底的に研究されてきた動物であり、その食性や生息域は熟知されていると思われていたからだ。

 しかし、どれほど研究し尽くされた動物であっても、新たな技術を投入すれば、新たな事実が浮かび上がってくることがある。

 2020年8月、バンクーバー島沖で調査を行った研究チームは、体の模様で識別したシャチの中から、健康状態が良く、妊娠中や授乳中ではない個体を選び、吸盤式のタグを一時的に取り付けていた。

 定住型のシャチに「CATSタグ」と呼ばれる高性能な記録装置が使用されたのはこれが初めてのことだ。

 このタグは自然に外れ落ちるまでの間、高解像度の潜水データに加え、鳴き声や食事の咀嚼音などを連続的に記録し続けた。このデータが、彼らの秘密を暴く鍵となった。

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イルカが偵察役、シャチが分解役。
共同で狩りを行っていた

 記録されたデータが示唆していたのは驚くべき事実だ。

 シャチはイルカが発する音波を聞き、まるでカーナビのようにその情報を利用して巨大なサケの位置を特定している可能性があるという。

 ここで疑問が浮かぶ。シャチも優れたエコーロケーション能力を持っているはずだ。それなのになぜ、あえてイルカに頼るのだろうか?

 実は、音波を発射し続けて周囲を探る行動は、多くのエネルギーを消費する。巨大なサケを追いかけて捕まえるには、ただでさえ激しい運動が必要で体力を消耗する。

 そこでシャチは、賢い戦略をとった。 近くに優秀な探知能力を持つイルカがいて、盛んに音波を出してくれているのだから、自分はあえて音を出さずにスタミナを温存する。

 そして、イルカの出す音を「偵察レーダー」として使い、サーモンの居場所まで案内してもらうのだ。

 ターゲットとなるキングサーモンは体長1mにも達し、2mほどのカマイルカにとっては非常に大きく、捕獲して丸呑みすることができない。そこでシャチの出番だ。

 シャチは温存した体力を使い、サーモンを仕留めると、鋭い歯と強力なアゴを使って細かく引き裂く。

 定住型のシャチには、捕らえた獲物を群れの仲間(家族)と分け合って食べる習性があるため、大きなサケをあえて細かくちぎるのだ。

 イルカにとって巨大すぎるサケも、シャチが食いちぎって一口サイズにしてくれれば食べることができる。しかもフレッシュだ。

 イルカはシャチが食事をしている周囲を泳ぎ回り、海中に散らばったサケの破片を報酬として受け取っているのだ。

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 目の前で繰り広げられる光景を見て、研究チームは種を超えた関係についての新しい理論にたどり着いた。

 海の2つの頂点捕食者が、サケを見つけて食べるために手を組み、協力関係を築いているのではないかという説だ。

 こうした協力関係は偶然ではない。実際にブリティッシュコロンビア州沖では、両種が数m以内の至近距離で一緒に泳ぎ、協力してサーモンを狩る姿が頻繁に目撃されている。

 この研究は、ダルハウジー大学が主導し、ブリティッシュコロンビア大学、ドイツのライプニッツ研究所、カナダのハカイ研究所と共同で行われた。

 ハカイ研究所のドローンと、シャチの背中に取り付けられたカメラは、空と海の両方からこの見事な連携プレーを捉えていた。

 映像には、シャチが獲物を捕らえ、他のシャチと分け合うために肉を細かく引き裂くと、イルカが素早く寄ってきて、その「おこぼれ」をあさる様子が映っていた。

 「上空からは、信じられないほどの活動量が見えました」

 ハカイ研究所のドローンパイロットであり、別のプロジェクトの調査中に偶然この行動を最初に発見したキース・ホームズ氏はそう語る。

 「何らかのコミュニケーションが行われており、彼らが積極的に一緒に狩りをしていることは明らかでした」

 研究者たちは、タグを付けたシャチの頭部付近をイルカが泳ぐという行動を、258回も確認した。

 イルカと交流したすべてのシャチは、サケを仕留め、食べ、あるいは探すといった、狩りに関連する行動をとっていた。

 また、両者が互いに対して攻撃したり、避けたりする様子は一切見られなかったという。

 この協調した動きは、シャチがイルカを偵察役として利用して獲物を見つけ出し、その報酬としてイルカはシャチが食べ残したサケの欠片を得るという関係を示唆している。

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シャチとイルカの持ちつ持たれつな関係

 「私たちが観察したイルカとシャチの戦略的同盟は並外れたものです」

 ブリティッシュコロンビア大学海洋水産研究所、海洋哺乳類研究ユニット所長のアンドリュー・トライツ教授は、この関係性の合理性を強調する。

協力することで、シャチは自ら音波を出して探すエネルギーを節約できます。高性能レーダーを備えた探索役としてイルカを利用すれば、深い海にいる巨大なキングサーモンを見つけるチャンスが増えるのです。

 その見返りとして、イルカは捕食者からの保護を得るとともに、海で最も価値ある魚の一つであるサーモンの残骸にありつくことができます。これは関わる全員にとって、持ちつ持たれつの関係なのです(トライツ教授)

 また、別の視点として、イルカが定住型のシャチと一緒にいることで、イルカを捕食対象とする別のタイプのシャチ(一過性型)から身を守ってもらっている可能性もあるという。

 今回の発見は、異なる種同士の結びつきが生態系においていかに重要かを示している。

 それは海の食物連鎖の形を作り変え、変化する海洋環境の中で捕食者たちが生き残るための適応戦略なのかもしれない。

 研究者たちは、このような行動がどれほど広範囲で行われているのかを理解するためには、さらなる調査が必要だと述べている。

 フォーチュン博士は今後の課題についてこう締めくくった。

私たちは、この協力的な狩りがどれほど一般的なのか、そして群れにとって本当に利益があるのかを突き止める必要があります。

イルカと組むシャチは、サケを捕まえる成功率が高いのでしょうか? 単独で狩りをするシャチよりも栄養状態が良いのでしょうか?

これらを調べることで、この相互作用が本当に互いのためになっているのかを判断できるはずです(フォーチュン博士)

References: DAL[https://www.dal.ca/news/2025/12/11/whales-dolphins-working-together.html] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41598-025-22718-4]

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