木星衛星エウロパのクモ状の地形。地下から噴出した塩水の痕跡である可能性
エウロパで発見されたクモ状の地形 Image credit:The Planetary Science Journal (2025). DOI: 10.3847/psj/ae18a0

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 分厚い氷の地殻を持ち、その下には塩分を含んだ広大な液体の海が広がっていると考えられている、木星の第二衛星「エウロパ」は、地球外生命が見つかる可能性が高いとされている天体の1つだ。

 最近アメリカの研究機関で活躍するアイルランド出身の科学者たちは、表面にあるクモ(蜘蛛)のような、あるいは爆発した星形のような奇妙な地形について調査し、その研究結果を発表した。

 研究チームはこの興味深い地形をゲール語で「Damhán Alla(ダマーン・アラ)」と名付けた。これは「蜘蛛」や「壁の悪魔」を意味する。

 ダマーン・アラの正体は、地下から噴き出した塩水が作った傷跡である可能性が高く、もし事実なら、地下の海の存在を示す決定的な証拠となりうるという。

 この研究成果は『The Planetary Science Journal[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ae18a0]』誌(2025年12月2日付)に掲載された。

氷の衛星エウロパに刻まれた「壁の悪魔」

 この研究は、アイルランド・トリニティ・カレッジ・ダブリンの卒業生で、現在アメリカで活躍している科学者たちにより行われた。

 メンバーには、アメリカ・セントラルフロリダ大学の物理学教授、ローレン・マッキーオン博士や、NASAジェット推進研究所のジェニファー・スカリー博士、ブラウン大学や惑星科学研究所の研究者たちが名を連ねている。

 研究チームは1989年から2003年にかけてNASAの木星探査機「ガリレオ」が撮影した画像を詳細に分析した。

 エウロパの表面には、幅1kmにも及ぶクモのような形をした奇妙なへこみや亀裂が無数に走っている。

 チームはこの地形に、ゲール語(アイルランド語やスコットランド・ゲール語など、ケルト語派に属する言語の総称)で「ダマーン・アラ(Damhán Alla)」という名前をつけた。

 この言葉は直訳すると「クモ(蜘蛛)」という意味だが、語源をたどると「壁の悪魔」とも解釈できる、この地形にふさわしい言葉だ。

 なぜアイルランドで使用されるゲール語で名づけられたのか?

 それはマッキーオン博士らの出身地であることはもちろん、ダマーン・アラのあるクレーターが、すでにアイルランド神話の海神「マナナン・マクリル[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8A%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%AB]」にちなんで「マナナン」と名付けられていたからだ。 

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氷の地殻に亀裂が入り塩水が噴出していた可能性

 では、このエウロパの巨大なクモ(ダマーン・アラ)はどうやって生まれたのか。

 研究チームは、地球上にある凍った湖に着目した。

 寒い冬、凍結した湖の上に雪が積もると、時折「レイク・スター(湖の星)」や「アイス・スター」と呼ばれる美しい星形の模様が現れることがある。

 これは、氷に小さな穴や割れ目ができ、そこから湖の水が湧き出してくることで起きる現象だ。

 湧き出した水は積もった雪を溶かしながら放射状に広がっていき、再び凍り付く。すると、まるで木の枝が伸びたような複雑な「樹枝状」のパターンが形成される。

 地球のレイク・スターは数十cmから数m程度の小さなものだが、の形成メカニズムは、幅約1kmにも及ぶエウロパの巨大なダマーン・アラと驚くほど似ていた。

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 エウロパでも地球と同じことが起きていると研究チームは推測した。

 何らかの小天体が衝突してエウロパの氷の地殻に亀裂が入る。すると、その下にある高濃度の塩水が勢いよく噴き出し、表面の氷や雪を溶かしながら広がり、再び凍り付くことで、あの独特なクモのような傷跡が残るというのだ。

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地下の海と生命探査への期待

 この仮説が意味することは非常に大きい。もし表面に水の噴出跡があるなら、エウロパの厚い氷の殻の下、あるいは氷の中に、液体の水が存在する「塩水溜まり」があるという強力な証拠になり得るからだ。

 エウロパの分厚い氷の下では活発な地質活動が起きており、そこに液体の塩水が存在する可能性が高いというのだ。

 もし水があるとするならば、生命が存在する可能性も高くなる。

 エウロパは、木星の周りを回る4つの大きな衛星「ガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)」の一つだ。

 大きさは地球の月よりわずかに小さい(月の約90%)程度だが、岩石でできた中心部を、厚さ数kmから数十kmもの分厚い「氷の地殻」がすっぽりと覆っている。

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 さらに、その氷の下には、地球の全海水の2倍以上とも言われる広大な「液体の海(内部海)」が隠されていると考えられているのだ。

 今回の研究で、既存の画像データから、地下の海から水が噴き出した痕跡「ダマーン・アラ」が特定されたことは、そこに生命を育める環境があるという期待を、さらに強く後押しするものとなった。

 この仮説の真偽は、2030年に木星系へ到着予定のNASAの最新探査機「エウロパ・クリッパー」がもたらす高解像度の観測データによって、いずれ明らかになるだろう。

References: Meet Damhán Alla—the newly christened, spider-like feature on Jupiter's moon Europa[https://phys.org/news/2025-12-damhn-alla-newly-christened-spider.html] / Iopscience.iop.org[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ae18a0] / Scientists Intrigued by Large Spider-Like Blob on Europa[https://futurism.com/space/spider-blob-europa]

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