砂漠化を防ぐ780億本の植林が逆に水不足を招く皮肉な結果に。その理由とは?
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 木を植えることで環境が改善される。森林再生は今や世界各国で進められているが、何事にもやりすぎには注意が必要だ。

 中国では砂漠化を食い止めるため、40年以上にわたり国家プロジェクトとして植林を続け、約780億本もの木を植えた。

 ところが、この膨大な数の木々が予期せぬ結果をもたらした。本当に必要な地域に雨が降らず、必要ない場所の降水量が増えるという悪循環が生じたのだ。いったい何が起きたのか?

この研究は『Earth’s Future[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024EF005565]』誌(2025年10月4日付)に掲載された。

国家の威信をかけた巨大プロジェクト「三北防護林」

 中国北部は長年、強風によって栄養豊富な表面の土が削り取られる「土壌侵食」や、巻き上げられた砂が襲う「砂嵐」に悩まされてきた。表面の土を失った土地では植物が育たなくなり、やがて不毛の砂漠へと変わってしまう。これが「砂漠化」だ。

 この砂漠化の拡大を食い止めるため、1978年に国家の威信をかけた巨大プロジェクトが始動した。「三北防護林」という壮大な植林計画だ。

 かつて北方からの敵を防ぐために築かれた「万里の長城」とほぼ同じ場所に、今度は砂を防ぐための「木の壁」を作ることから、世界的には「緑の長城(グレート・グリーン・ウォール)」の名で知られている。

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 対象となるのは中国の北側にある「三北(西北、華北、東北)」と呼ばれる広大な地域である。

 計画では2050年の完了を目指しており、最終的には全長約4,800km、最大幅約1,400kmにも及ぶ巨大な緑の壁でゴビ砂漠の拡大を封じ込めることを目的としている。

 また、防風林としての役割だけでなく、地元住民への木材供給も重要な目的の一つだ。

 2024年11月、中国政府はこのプロジェクトの一環として、タクラマカン砂漠をぐるりと囲む約3,000kmの防風林がついに完成したと発表した。

 実際、中国の砂漠面積率は過去10年で27.2%から26.8%に減少しており、緑化は成功しているように見える。

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780億本の木が招いた「蒸散」という落とし穴

世界各地で行われている再植林には大きなメリットがある。しかし、そこに何十億本もの木を追加することは、意図しない結果を招く可能性もある。

この活動には大きな見落としがあった。

 天津大学やオランダのユトレヒト大学などの国際研究チームによる新しい研究によると、推定780億本とも言われる大量の木々が、中国の水分布システムを書き換えてしまったのだ。

 一体なぜ、木を植えることが水不足につながるのか。その原因は、植物が行う呼吸、「蒸散(じょうさん)」にある。

 三北防護林プロジェクトや、1999年に始まった「退耕還林(耕地を林に戻す)プログラム」によって植えられた木々は、成長するために地面から大量の水を吸い上げる。

 吸い上げた水分は、葉にある「気孔」と呼ばれる小さな穴から水蒸気として大気中に放出される。これが蒸散だ。

 つまり、780億本ものの木々が巨大なポンプとなり、地下にある水をどんどん空へと汲み上げてしまったのである。

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 問題はここからだ。

 空へ放出された大量の水蒸気はその場にとどまって雨になるわけではなかった。大気の流れに乗り、なんと遥か遠くの「チベット高原」へと運ばれてしまったのだ。  

 研究チームによれば、変化した降水パターンによって、より多くの水分がチベット高原へ誘導され、同地では利用可能な水が増加したが、その一方で、対照的に中国東部と北西部では利用可能な水が減少してしまったという。

 特に北西部では、相当量の水分がチベット高原へ逃げてしまったため、最大の損失を被ることになった。

 本来その土地にあるはずだった水が、木を経由して空へ逃げ、別の場所へ移動してしまったわけだ。

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必要な場所に水がこない状況に

 この現象がもたらした被害は深刻だ。研究チームが2001年から2020年のデータを分析したところ、植生が増加したことで、東部のモンスーン地域と北西部の乾燥地域の両方で水資源が減少していた。

 これらの地域は中国の総国土面積の約74%を占めている。

 さらに研究チームは、草原を森林に変えたり、農地を草原に変えたりといった「土地利用の変化」も調査した。

 例えば、草原が森林に変わった場所では、蒸発散と降水量は増えたものの、肝心の人間が使える水資源は減ってしまったという。

 残念なことに、中国の水資源の分布は、人口分布とうまく噛み合っていない。

 中国の北部地域(三北地域を含む)には人口の約46%が住んでおり、耕作地の半分以上がある。

それにもかかわらず、利用可能な水は全体のたった20%しか残されていないのだ。

 研究チームは、将来の再植林活動を計画する際には、このように変化してしまった水循環サイクルを考慮に入れる必要があると警告している。

 土地被覆の変化は、地域間の水資源を再配分してしまう可能性がある。これらの影響を理解することは、中国における持続可能な土地と水の管理を計画する上で極めて重要となるだろう。

References: Onlinelibrary.wiley.com[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024EF005565] / China Planted 78 Billion New Trees—and Seriously Messed Up Its Water Cycle[https://www.popularmechanics.com/science/environment/a69638301/china-reforesting-changed-hydrology/]

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