ひとりぼっちで島に取り残されたヤギ。救出され、仲間と生きる喜びを取り戻すまでの物語
Facebook/Flying Pig Animal Sanctuary

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 アメリカ・フロリダ州にあるタルキン湖にはいくつかの小島が浮かんでいるが、数年前、その1つの島の崖に、一匹の白いヤギがぽつんとたたずんていたのを、たまたまこの島を探索していた女性が発見した。

 周囲は水に囲まれ、人影はおろか仲間の姿もなく、とても寂しそうにしていた。

本来、群れで生きるはずのヤギが、なぜこんな場所にたった一匹でいるのか?いつからここにいるのか?

 動物保護施設の運営者である女性は、社会性の高いヤギにとって、孤独がどれほど残酷で、精神を蝕むものであるかをよく知っていた。

 すぐに彼女はこのヤギを連れて帰ることを決断した。それには所有者を確認したり、法的な手続きをとる必要があるが、この状態で放置することはできなかった。

 これは、孤独に耐えていた一匹のヤギが、優しい人々に見守られ、ついに群れという名の「家族」を取り戻すまでの心温まる物語だ。

崖の上にたたずむ一匹の白いヤギ

 タルキン湖は、フロリダ州の州都タラハシーの西に位置し、川をせき止めて造られた広さ約40平方km(東京ドーム800個分以上)にも及ぶ広大な人造湖(ダム湖)だ。

 東西に細長く入り組んだその湖面には、建設当時に取り残された土砂や高台がそのまま島となった、大小さまざまな無人島が数多く点在している。

 数年前、エミリーという名の女性がボートで島のひとつを探索していた時のこと、ふと見上げた崖の上に、一匹の白いヤギが立っていたのを発見した。

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 周囲を見渡しても人の気配はない。そこは事実上の無人島であり、誰かがいる様子もなかった。

 彼女の頭を真っ先によぎったのは「この子は大丈夫なのか?なぜたった一匹でここにいるのだろう?」ということだった。

 周辺を詳しく調べてみたが、そのヤギが誰かに飼われているという形跡は見当たらなかった。どれくらいひとりでここにいたのかもわからない。

 だが、このヤギにとって幸運だったのは、発見者のエミリーさんが「フライング・ピッグ・アニマル・サンクチュアリ(Flying Pig Animal Sanctuary)」という動物保護施設の共同代表を務める動物のプロフェッショナルだったことである。

ヤギにとって「ひとりぼっち」は拷問に等しい

 エミリーさんには、この状況がいかに緊急性を要する事態であるかが痛いほどよくわかっていた。

 ヤギという生き物は、極めて社会性が高い動物だ。野生下では常に群れを作って行動し、仲間と鳴き声を交わし合いながら複雑な社会関係を築いて生きている。

 近年の研究[https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8174472/]でも、ヤギは仲間から隔離されるとコルチゾールというストレスホルモンの値が急上昇し、深刻な精神的ダメージを受けることがわかっている。

 人間や犬と同じように、彼らもまた他者とのつながりを渇望する生き物なのだ。

 エミリーさんはこう語る。「一匹だけのヤギはうつ状態になってしまうことがあります。人間と同じように孤独を感じ、寂しさに苛まれるのです」

 彼女はすぐにヤギを保護して自分の施設に連れ帰りたかったが、法的な手続きや所有権の問題をクリアにする必要があった。飼い主がいないことを確実に確認するまでは、勝手に連れ出すわけにはいかないのだ。

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信頼を築き、命をつなぐための訪問

 エミリーさんは後ろ髪を引かれる思いで島を後にしたが、ヤギを見捨てたわけではない。むしろ始まりの合図だ。

 彼女はその後も頻繁にボートで島を訪れ、ヤギの健康状態をチェックし続けた。

 常にヤギの様子を見守り続け、その間、干し草や野菜、ヤギ用ペレット(栄養食)、おやつ、ミネラルなどを運び続けた。

 誰とも接触することなく、ひとりぼっちだったヤギのもとに、新鮮な食べ物と優しい言葉をかけてくれるやさしい人間が現れたことで、ヤギは持ち前の明るさを取り戻していった。

 エミリーさんとヤギの間には少しずつ信頼関係が芽生えていった。

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いよいよ救出のとき

 発見から1ヶ月が経過した。あちこちに問い合わせても、ヤギの所有権を主張する人物は現れなかった。

 ここに捨てられたのか、どこかから迷い込んだのかは定かではないが、もう遠慮はいらない。

 エミリーさんと、施設のタッフであるスカイさんは、孤独なヤギをこの島から連れ出すために戻ってきた。

 「救出当日、あの子はとても神経質になっていました」とエミリーさんは振り返る。「私たちは自分たちについてくるよう、優しく誘導を始めました」

 二人は、後に「サイプレス(Cypress)」と名付けることになるそのメスのヤギを慎重になだめ、小さな手漕ぎボートへと誘導した。

 サイプレスは明らかに不安な様子を見せていたが、それでも暴れたり逃げ出したりはしなかった。

 毎日ごはんを運んでくれたこの女性が、自分を助けに来てくれたことを本能的に感じ取っていたのかもしれない。

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もうひとりじゃない。仲間たちとの新しい生活

 湖を渡るボートの上で、サイプレスはエミリーさんにぴったりと体を寄せてきた。サイプレスはすでにエミリーさんに心を開いていたのだ。

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 保護施設に到着した当初、サイプレスには少しリハビリが必要だった。

 長い間ひとりぼっちだったため、他の動物がいる環境に再び慣れる必要があったのだ。

 だがサイプレスは驚くほどの早さで環境に順応し、施設の先住ヤギたちの群れに加わっていった。仲間たちもまた、新入りの彼女を温かく迎え入れた。

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 今やサイプレスはもう孤独ではない。毎日一日中、仲間たちと一緒に草を食み、駆け回り、遊んで過ごしている。

 それがヤギにとっての当たり前の幸せであり、サイプレスがずっと求めていたものだった。

 「他のヤギたちと一緒にいられることに大喜びしているあの子の姿を見るのは、本当に心温まる瞬間でした」と、エミリーさん。

 これからは大勢の仲間たちとやさしい人間と共に、さびしさにおびえない暮らしがずっと続くのだ。

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