およそ440万年前、2つの巨大で高温な星が、天文学的な距離的にみると太陽に大接近した。実はこのことが、現在の地球環境を守る鍵になっているかもしれない。
コロラド大学の天体物理学者研究チームは、長年の謎であった太陽系を取り巻く「雲」の正体を解き明かした。
かつて巨大な星が太陽系に近づいたことで、周囲の「雲」の性質が変わり、その雲が現在、地球を危険な宇宙放射線から守る盾として機能している可能性があるという。
この研究成果は『Astrophysical Journal[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ae10a6]』(2025年11月24日付)に掲載された。
宇宙空間に残された「イオン化」の謎
1990年代初頭、ハッブル宇宙望遠鏡が太陽系を取り巻く「局所恒星間雲[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%80%E6%89%80%E6%81%92%E6%98%9F%E9%96%93%E9%9B%B2]」を観測した際、奇妙な現象が発見された。
この雲は、宇宙の星と星の間にある真空に近い空間に漂う、ガスや塵の集まりだ。不思議なことに、この雲に含まれる水素原子の約20%、ヘリウム原子の約40%において、「イオン化(電離)」という現象が起きていたのである。
あらゆる物質の元である原子は、中心にある「原子核」と、その周りを回る「電子」がセットになって安定している。
しかし、外部から強烈なエネルギー(紫外線や放射線など)がぶつかると、その衝撃で電子が原子の外へ弾き飛ばされてしまうことがある。
原子が裸にされ、電気を帯びた不安定な状態になることがイオン化だ。
ハッブル望遠鏡のデータでは、特にヘリウムのイオン化率が異常に高いことがわかった。宇宙空間の雲がこれほど激しくイオン化しているのは、通常の状態では考えられない。何らかの強力なエネルギー源が近くになければ説明がつかないのだ。
そこで研究チームは、この大規模なイオン化を引き起こした原因を突き止めるため、数百万年前の太陽周辺がどのような状況だったか、時間を巻き戻してシミュレーションを行った。
「おおいぬ座」の巨大な兄弟星が太陽に大接近していた
シミュレーションによる分析の結果、研究チームは有力な原因を特定した。
おおいぬ座にある2つの恒星、イプシロン星(別名アダラ)とベータ星(別名ミルザム)だ。
どちらも太陽の約13倍の質量を持ち、表面温度は太陽の約5500度に対して、それぞれ約2万1000度と約2万5000度という凄まじい高温で燃えている巨大な星である。
現在、これらの星は地球から400光年以上離れた場所にあり、おおいぬ座の前脚と後脚として輝いている。
しかし研究チームの計算によると、約440万年前、この2つの星は太陽からわずか30光年から35光年の距離を猛スピードで駆け抜けていたことがわかった。
30光年というとてつもない距離に感じるかもしれないが、何億光年という広大な宇宙の規模で考えれば、「目と鼻の先」と言えるほどの至近距離だ。
ここで、星の接近と雲の変化の関係がつながる。
コロラド大学の天体物理学者、マイケル・シャル教授によると、当時のこの2つの星は、現在のシリウス(全天で最も明るい恒星)の4倍から6倍もの明るさで輝いていた。
この接近時、星々が放った強力な紫外線放射が、太陽系を取り巻く雲の原子を直撃したのだ。
その強烈なエネルギーが原子から電子を無理やり引き剥がし、雲を強制的に「イオン化」させた。
つまり、440万年前の大接近がなければ、今の雲はこれほどイオン化していなかったことになる。
地球を守る「雲」と「泡」の盾
研究チームは、この「イオン化させられた雲」の中に太陽系があること自体が、現在の地球環境に重要な役割を果たしていると考えている。
太陽系を包む「局所恒星間雲」の外側には、「局所泡[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%80%E6%89%80%E6%B3%A1]」と呼ばれる、ガスが非常に薄い空洞のような領域が広がっている。
シャル教授の説明によると、この泡は過去に10個から20個の星が超新星爆発を起こし、その衝撃でガスが吹き飛ばされてできた空洞だという。
この泡の中にある高温ガスは、現在も強力な紫外線やX線を放射し続けている。
ここでのポイントは、太陽系がすっぽりと包まれている「雲」の存在だ。
440万年前の事件によってイオン化したこの雲は、外側の「局所泡」から降り注ぐさらに有害な放射線を遮る、密度の高い盾の役割を果たしている可能性がある。
シャル教授は、「我々を電離放射線から守ってくれるこの一連の雲の中に太陽があるという事実は、今日地球を居住可能にしている重要な要素の一つかもしれない」と述べている。
未来に待ち受けるアダラとミルザムの超新星爆発
かつて太陽に大接近し、雲の性質を変えてしまったアダラとミルザムだが、彼らの寿命は尽きようとしている。
これらは「B型星」と呼ばれる種類の恒星だ。青白く輝く非常に高温な星で、太陽のような黄色い星よりもはるかに巨大なエネルギーを放っている。
その分、燃料を猛烈な勢いで消費するため寿命は短く、せいぜい2000万年程度で燃え尽きてしまう。
シャル教授の推定では、これらの星は今後数百万年以内に燃料を使い果たし、超新星爆発を起こしてその生涯を閉じるという。
かつてのような至近距離ではないため、地球に致死的な影響を及ぼすことはないが、夜空を明るく照らす壮大な天体ショーとなるだろう。
「もしそれを見る人類がいればの話だが」と前置きしつつ、シャル教授は、爆発は非常に明るくなるだろうが安全な距離だと語っている。
かつての大接近によって変質した「雲」の中で、私たちは今も守られながら生きているのかもしれない。
References: Colorado[https://www.colorado.edu/today/2025/12/01/close-brush-2-hot-stars-millions-years-ago-left-mark-just-beyond-our-solar-system] / Gsfc.nasa.gov[https://svs.gsfc.nasa.gov/10906]











