シイタケが記憶装置に。生きたキノコで動くコンピューターの開発が進行中
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 日本でもおなじみの食材であるシイタケが、コンピューターの「記憶」を担う存在になるかもしれない。

 アメリカ・オハイオ州立大学の研究チームは、シイタケの菌糸体を使い、コンピューターのメモリチップの中で記憶を担う重要な部品「メモリスタ」として利用できるかどうかを調べた。

 菌糸体は、電気の流れ方を記憶するように振る舞う性質を持ち、同じ刺激を繰り返すと反応が変化する。

 この特徴を生かせば、従来の半導体材料とは異なる方法で、環境に優しく低コストなコンピューターの実現につながる可能性があるという。

 この研究成果は『PLOS One[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0328965]』誌(2025年10月10日付)に掲載された。

シイタケの菌糸が「記憶する素材」に

 オハイオ州立大学の精神科医で研究科学者のジョン・ラロッコ氏率いる研究チームは、キノコの根のように地中へ広がる白い糸状の部分「菌糸体」に注目した。

 菌糸体(きんしたい)は、栄養を運ぶだけでなく、情報をやり取りするネットワークのような構造を持ち、電気信号にも反応する性質がある。

 研究チームは、菌糸体が電気刺激に応じて反応を変える点に着目した。

 そしてこの特徴を、コンピューターのメモリチップの中で「記憶の仕組み」を担う部品である「メモリスタ」に応用できないかと考えた。

 コンピューターのメモリチップは、データを保存し、必要なときに読み出す役割を担っている。一般的なメモリチップでは、電気を通すか通さないかを切り替えることで、「0」と「1」の信号を使って情報を処理している。

 一方、メモリスタは、電気が流れた履歴そのものを記憶する性質を持つ部品だ。
 電気の流れ方に応じて抵抗の値が変化し、その変化が次の反応に影響するため、同じ刺激を繰り返すと振る舞いが変わる。

 研究チームは、このメモリスタの材料として、シイタケの菌糸体が使えるのではないかと考えたのだ。

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菌糸体を使って「記憶できるか」を確かめる実験

 そこで研究チームは、シイタケの菌糸体が本当に「記憶する部品」として働くかどうかを確かめるため、段階的な実験を行った。

 まず、ファッロ小麦(古代小麦)や胚芽、干し草を混ぜた培地でシイタケの菌糸体を培養し、白く密集したマット状になるまで成長させた。

 その後、菌糸体を天日で乾燥させ、長期間保存できる状態にした。乾燥によって一度電気を通さなくなった菌糸体は、少量の水分を与えることで再び導電性を取り戻した。

 研究チームは、この「乾燥と再水和」を行うことで、扱いやすく安定した材料になると考えた。

 準備が整った菌糸体には金属電極を取り付け、電圧を加えて電気の流れ方を測定した。

 このとき、どのような電気を流したかによって、その後の反応が変化するかどうかが、メモリスタとして機能するかを見極める重要なポイントとなる。

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シイタケの菌糸がメモリスタとして機能することを確認

 実験の結果、菌糸体は通過した電気のパターンに応じて抵抗の値を変化させることが確認された。

 これは、電気が流れた「履歴」がそのまま次の反応に影響していることを意味する。

 低い周波数の電気信号を与えた場合、菌糸体は1秒間に約5850回の切り替えに対応し、約90%の精度で状態を判別した。さらに条件を調整すると、精度は95%にまで向上した。

 これらの数値は、シリコンなどの材料で作られた初期の電子部品としてのメモリスタと比べても、見劣りしない水準だという。

 研究チームは、菌糸体の異なる部分に電極をつなぐことで、電気の流れ方や反応の仕方が変わることも確認した。

 つまり、同じシイタケでも、使い方によって性質が変わる「柔軟な記憶部品」として振る舞う可能性が示された。

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宇宙でも使える可能性。
放射線に強いシイタケ由来のメモリスタ

 研究チームは、シイタケが持つ別の特徴にも注目している。それが、放射線に対する強さだ。

 シイタケにはレンチナンと呼ばれる成分が含まれており、酸化ストレスに耐える性質があることが知られている。

 このため、強い放射線にさらされる宇宙空間でも、電子部品として使える可能性があるという。

 従来の半導体は、放射線の影響で誤作動を起こすことがあるため、この点は大きな利点になる。

 さらに、菌糸体は常温で育ち、使い終わったあとは自然に分解される。

 レアメタルや有害な化学物質を必要としないため、電子廃棄物を減らせる点でも注目されている。

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まだ実験段階だが、未来への確かな一歩

 今回の研究は、あくまで基礎的な段階にある。

 菌糸体を使ったメモリスタはまだ大きく、現在のコンピューターにそのまま組み込めるわけではない。

 それでも研究チームは、「生きた素材が記憶装置として機能する」ことを実験で示せた点を、大きな成果だと捉えている。

 今後、材料の微細化や制御技術が進めば、自己修復する電子部品や、使い終わると自然に還るコンピューターが実現するかもしれない。

 キノコなどの菌糸類は様々な可能性が広がっているが。

食卓でおなじみのシイタケも。未来のコンピューターの記憶を支える存在になるかもしれない。
 

References: Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/10/251026021724.htm] / Journals.plos.org[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0328965]

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