人間にとってマイクロプラスチックは、わずか5 mm以下の小さなゴミだ。しかし、小さな昆虫にとっては普段のエサと同じサイズに見えているのかもしれない。
カナダの研究チームによる調査で、コオロギはプラスチックをエサと区別できないばかりか、時間の経過とともにプラスチック入りのエサを好んで食べるようになることがわかった。
プラスチックを大量に摂取してもコオロギに異変はなく、通常通りの大きさに育つ。
しかし、その体内でプラスチックはより細かな粒子へと粉砕され、環境中に排出されていた。
人間が出したゴミが虫の体を通じて、より回収困難な形態へと変化し、拡散されている実態が明らかになった。
プラスチック入りのエサを好んで食べるコオロギ
カナダ・カールトン大学の研究チームは、ネッタイカマドコオロギ(Gryllodes sigillatus)を使って実験を行った。
チームは、幼虫が成虫へと育つ7週間にわたって観察を継続した。
普通のエサと、プラスチック粒子を混ぜたエサの2種類を提示したところ、コオロギは当初どちらも区別なく食べていた。
ところが、実験開始から9日が経過すると、コオロギはプラスチック入りのエサをより多く食べるようになった。
口に入るサイズだと認識すると、コオロギはプラスチックを避けることなく、積極的に摂取し続ける傾向があるようだ。
マイクロプラスチックを摂取しても成長は通常通り
7週間にわたる観察の結果、プラスチックを摂取し続けた個体も、通常通り元のサイズの約25倍にまで成長した。
栄養のないプラスチックを大量に食べても、健康を害することなく大人になったのである。
コオロギの寿命は数ヶ月程度だが、体が大きくなれば口のサイズも大きくなる。
成長したコオロギは、さらに大きなプラスチック粒子までも飲み込めるようになり、一生を通じて摂取を続けていた。
体内でナノサイズに粉砕されるマイクロプラスチック
コオロギが食べたプラスチックは、排出される際には元のマイクロプラスチックよりもさらに小さい「ナノプラスチック」へと砕かれていた。
ナノサイズまで細かくなると、自然界からの回収はほぼ不可能になる。
極小の粒子は生物の細胞内に入り込むなど、環境への負荷はより深刻になる。
コオロギはただ生きるために食事をしているだけだが、結果として、人間が出したゴミを体内で加工し、より厄介な汚染物質として拡散させる役割を果たしてしまっている。
南極の昆虫からも検出される汚染
この現象は、コオロギに限った話ではない。南極に生息するユスリカの幼虫からもプラスチックが見つかっている[https://news.mgcafe.uky.edu/article/university-kentucky-finds-antarcticas-toughest-insect-already-eating-microplastics]。
今のところ生存や代謝に大きな支障はないようだが、食物連鎖の底辺にいる昆虫たちの汚染は、生態系全体へと波及する恐れがある。
私たちが捨てたゴミは、虫の体を通って目に見えないナノレベルの粒子となり、世界中に広がり続けている。
今回の発見は、プラスチック汚染が私たちの想像以上に複雑な経路で深刻化していることを示唆している。
この研究成果は『Environmental Science & Technology[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.5c09189]』誌(2025年12月2日付)に掲載された。











