古代ローマ軍は猫をネズミ捕り部隊としてヨーロッパに持ち込み、広めていた
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 気まぐれな猫たちがいつ家畜化され、どのように世界中へ広まったのか。その足取りは長らく謎に包まれていたが、最新のDNA解析がその歴史を塗り替える新たな事実を突き止めた。

 イタリアのローマ・トル・ヴェルガータ大学を中心とした研究チームによると、猫たちが本格的にヨーロッパへ進出したのは、これまで考えられていたよりもずっと最近のことで、約2000年前のことだという。

  その拡散を決定づけたのは、なんと古代ローマ帝国の軍隊だった。

 兵士たちは遠征の際、食料を食い荒らすネズミを駆除するために猫を部隊に帯同させた。整備された軍用道路は猫たちの移動ルートとなり、彼らは生息域を一気に拡大させていったのだという。

この研究成果は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adt2642]』誌(2025年11月27日付)に掲載された。

猫の家畜化の起源と広がり

 考古学者たちは当初、人間が猫と暮らし始めたのは約9500年前の「レバント(現在の東地中海および中東の一部)」であると考えていた。

 この時期は人類が農耕を始めた新石器時代の幕開けと重なる。農耕民が蓄えた穀物はネズミなどのげっ歯類を引き寄せ、そのネズミを狙って野生のリビアヤマネコ(African wildcat)が集まってきた。

 農耕民は穀物を守るためにヤマネコを追い払わず、近くに置くようになったことが家畜化のきっかけだとされている。

 実際に現在のキプロスでは、紀元前7500年頃の地層から猫の遺骨が発見されており、この頃にはすでに猫が日常生活の一部になっていたことがわかる。

 その後、約3500年前の古代エジプトで猫は不動の地位を築いた。

 新石器時代の記録は曖昧だが、古代エジプトの文化には猫の痕跡があふれている。墓からは数多くの猫の遺骨が見つかり、壁画には人間と一緒に食事をする姿も描かれた。

 太陽神ラーの娘とされる「バステト」は猫の姿をした女神であり、守護や多産、家庭の平穏を象徴する存在として崇拝された。

 以前行われたミトコンドリアDNAの研究では、猫は約6000年前に新石器時代の農耕民と共にトルコからヨーロッパへ渡り、その後エジプトからも流入したと推測されていた。

 遺伝的に見ると、現代のイエネコはエジプトやトルコに生息する野生のリビアヤマネコとは異なる特徴を持つ。

 しかし、骨に残されたDNAだけでは、それが人間に飼われていた猫なのか、野生の個体なのかを区別することは難しく、歴史のパズルには大きな隙間が残されていた。

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遺伝子が語るローマ軍と猫の旅路

 ローマ・トル・ヴェルガータ大学を中心とする研究チームはこの隙間を埋めるため、過去1万1000年(紀元前9000年頃から西暦19世紀まで)に遡る70匹の古代の猫のゲノム(遺伝情報)を解析した。

 サンプルはヨーロッパとトルコの遺跡から発見された骨から採取し、比較対象として北アフリカ、イタリア、ブルガリアに生息する現代のヤマネコ17匹のデータもあわせて分析した。

 解析の結果、現代のイエネコにつながる系統がヨーロッパに定着したのは約2000年前であり、予想よりもはるかに最近の出来事であることが判明した。

 猫たちは新石器時代の農耕民によって運ばれたわけではなかったのだ。

 北アフリカにいたリビアヤマネコたちは、ローマ軍の移動ルートに乗ってヨーロッパ中に拡散した。

 ローマ軍の兵士たちは、かつて新石器時代の農民がそうしたように、兵糧をネズミから守る「ネズミ捕り部隊」として猫を利用した可能性が高い。

 こうして軍と共に移動した猫たちは、西暦1世紀頃までにはローマ領ブリテン、すなわち現在のイギリスにまで到達した。

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先住のヤマネコとの交雑と島へ渡った猫

 研究チームはさらに、ヨーロッパに以前から住んでいた猫たちの正体も明らかにした。

 ヨーロッパやトルコに古くからいた初期の猫たちは、遺伝的には「ヨーロッパヤマネコ(European wildcat)」という在来の野生種だった。

 彼らは後から入ってきたイエネコと遺伝的に分岐しているが、その背景にあったのは家畜化ではなく「交雑」だった。

つまり、人間が連れてきたイエネコと、現地の野生のヨーロッパヤマネコが出会い、異種間で子供を作っていたのだ。

 また、イタリアのサルデーニャ島に生息する「サルデーニャヤマネコ(Sardinian wildcat)」についての謎も解明された。

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 古代および現代のサルデーニャヤマネコのDNAを調べたところ、彼らはイエネコよりも北アフリカのリビアヤマネコに近いことがわかった。

 これは、彼らが「飼われていた猫が逃げ出して野生化した(野良猫になった)」子孫ではないことを意味する。

 人間が北アフリカから「野生のままのヤマネコ」を船に乗せ、もともと猫が生息していなかったこの地中海の島へ持ち込んだのだ。

 彼らはそこで独自の生態系を築き、現代までその姿を残している。

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 この研究は、欧州連合が資金を提供している「プロジェクト・フェリックス(Project FELIX)」の一環として行われた。

 このプロジェクトでは、1万年前に遡る800以上の猫の考古学的サンプルを分析し、猫と人間の関係史を解き明かそうとしている。

 ローマ・トル・ヴェルガータ大学の進化生物学者、ジョナサン・ロソス氏は、今回の発見を受けて次のように述べている。

スフィンクスのように、猫はその秘密をなかなか明かそうとはしません。遠い昔の謎を完全に解き明かすためには、さらなる古代DNAの解析が必要となります(ロソス氏)

References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adt2642] / Roman military helped bring cats to Europe[https://www.popsci.com/environment/roman-military-cats-domestication-europe/]

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