宇宙で発生する奇妙な青い閃光。その正体はブラックホールによる恒星破壊の可能性
宇宙で発生する謎の青い閃光を描いたアーティストによる想像図 Image credit:NASA, ESA, NSF’s NOIRLab, Mark Garlick, Mahdi Zamani

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 広大な宇宙のどこかでは、時として現代の天文学者の理解を超えるような不可解な出来事が起きている。そのひとつが、数十億光年先まで輝く強烈な青い光を放ち、わずか数日で消えてしまう一過性の謎の閃光だ。

 この現象は、高輝度高速青色光学過渡現象(LFBOT)と呼ばれており、過去数十年間で10数個が発見されている。

 天文学者たちは、LFBOTが特殊なタイプの超新星爆発によるものか、それとも星間ガスがブラックホールに吸い込まれているのか、議論を続けていた。

 ところが、アメリカの天文学者らが、2024年に発見された過去最大級の明るさを誇るLFBOTを分析したところ、そのどちらでもなく、全く別の真相が浮かび上がってきた。

天文学界の謎、高輝度高速青色光学過渡現象(LFBOT)

 高輝度高速青色光学過渡現象(Luminous Fast Blue Optical Transient:LFBOT)は、宇宙で突如として現れる非常に明るく青い一過性の光を指す天体現象だ。

 普通の超新星爆発よりもはるかにまばゆく輝くが、その光はわずか数日で消えてしまうという、極めて珍しく謎の多い性質を持っている。

  この現象が世界的に注目されるきっかけとなったのが、2018年に発見された「AT 2018cow」という天体だ。 研究者たちは親しみを込めて「ザ・カウ(日本語で牛)」という愛称で呼ぶようになった。

 ザ・カウは、地球から約2億光年離れたヘルクレス座の方向にあるCGCG 137-068と呼ばれる銀河付近で爆発した。

 十分な観測データが記録された最初のLFBOTであり、青色の可視光から紫外線、さらにはX線に至るまでの広範囲で高エネルギーの光を放っていたことが分かっている。

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過去最大級の光が暴いた超新星を凌駕するエネルギー

 米カリフォルニア大学バークレー校の天文学者、ラファエラ・マルグッティ教授が中心となって分析したのは、2024年に発見された「AT 2024wpp」という天体だ。

 この天体は、ザ・カウよりも5倍から10倍も明るく、11億光年離れた星形成の活発な銀河に位置している。

 研究チームがこの光のエネルギー量を計算したところ、一般的な超新星爆発の100倍にも達することが判明した。

 これほど短期間に膨大なエネルギーを放出するには、太陽の質量の10%をわずか数週間でエネルギーに変換しなければならない。。

 研究チームの一員であるナタリー・ルバロン氏はこの観測データについて、巨大な星の崩壊や爆発といった通常の天体現象では到底説明がつかない規模であると指摘している。

 これまで天文学者たちが想定していたモデルは根本から覆され、星の爆発とは異なる別の強力なエネルギー源の存在が示唆された。

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閃光の正体はブラックホールが恒星を粉砕する潮汐破壊現象

 今回の研究データにより、これまで天文学者たちが議論してきた、恒星が一生の終わりに起こす超新星爆発説や、ブラックホールによる星間ガスの吸い込み説は、根本から覆されることとなった。

 通常の超新星爆発ではこれほどのエネルギーを短期間に生み出すことは物理的に不可能であり、またブラックホールが受動的に周囲のガスを飲み込むだけでは、観測された劇的な光の変化を説明しきれないからだ。

 マルグッティ教授らが導き出した新たな真相は、ブラックホールが近くの恒星をシュレッダーのように粉砕する「潮汐破壊現象」だ。

 潮汐破壊現象とは、銀河中心のブラックホールに恒星が接近しすぎた際に、ブラックホールの強大な潮汐力によって恒星がバラバラに引き裂かれ、破壊される天文現象のことである。

 今回のAT 2024wppの場合、太陽の約100倍の質量を持つ中質量ブラックホールと、その周囲を回る巨大な伴星が関わっている。

 伴星とは2つの恒星が両者の重心の周りを軌道運動している連星の、暗い方の天体のことである。

 このブラックホールは長い年月をかけて伴星から物質を少しずつ奪い取り、自身の周囲にガスの外層(ハロー)を形成して自らを包み込んでいた。

 伴星がブラックホールに近づきすぎた瞬間、完全に引き裂かれて粉砕されると、その新たな残骸が、ブラックホールの周囲に元々存在していたガスの層に猛スピードで激突する。

 この時の極めて激しい衝突こそが、LFBOT特有のまばゆい青い光や紫外線を発生させた可能性が高いという。

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宇宙に潜む見えない怪物を探し出すための新たな一歩

 今回の発見は、天文学の大きな謎のひとつである中質量ブラックホールの実態に迫る重要な手がかりとなる。

 中質量ブラックホールとは、太陽の約100倍から数万倍の質量を持つブラックホールのことで、恒星質量ブラックホールと銀河の中心にある超大質量ブラックホールの中間的な存在だ。

 これらは「失われた環」とも呼ばれ、超大質量ブラックホールの成長過程の「種」と考えられているが、その数は少なく、形成メカニズムや宇宙における普遍性はまだ謎が多く、観測が難しい天体である。

 LFBOTの研究を通じて、中質量ブラックホールがどのような環境で進化し、隣接する星とどのような関係を築いているのかを解明できる道が開けるかもしれない。

 研究チームの博士研究員であるナヤナ・A・J氏は、将来的に新しい紫外線望遠鏡が宇宙に展開されれば、LFBOTの発見は今日のガンマ線バーストの検出と同じように日常的な出来事になると予測している。

 ULTRASAT(ウルトラサット)やUVEX(ユーベックス)といった次世代の観測網が整えば、宇宙のあちこちで星を粉砕するブラックホールの活動をリアルタイムで詳細に追跡できるようになるだろう。

 宇宙の神秘を解き明かす鍵は、一瞬の青い輝きの中に隠されているかもしれない。

この研究は学術誌『The Astrophysical Journal Letters』への掲載が承認され、現在はプレプリントサーバー『arXiv[https://arxiv.org/abs/2509.00952]』で公開されている。

References: Berkeley.edu[https://news.berkeley.edu/2025/12/16/whats-powering-these-mysterious-bright-blue-cosmic-flashes-astronomers-find-a-clue/] / Arxiv[https://arxiv.org/abs/2509.00951]

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