毎年、ホリデー気分を盛り上げてくれるクリスマスツリー。日本ではクリスマスが終わった途端にお正月モードに入るため、すぐに片付けられてしまう運命だ。
だが海外では、キリストが神の子として公に現れたことを祝う、1月6日の公現祭までは、ツリーが飾られているのが一般的である。
とは言え、特に本物の木を使ったツリーが多いところでは、シーズンが終わると困ってしまうのが、巨大なツリーの処分方法だ。
最近では世界各地で、この役目を終えたツリーを寄付する動きが高まりを見せている。その行先は動物園だ。
動物たちは食べたりおもちゃとして遊んだり、木々を天然の防寒グッズとして利用するのだ。
使い終わったクリスマスツリーを動物園で有効活用
ニュージャージー州ミドルタウンシップにあるケープ・メイ・パーク & ズー[https://www.capemaycountynj.gov/1679/Park-Zoo]では、地域住民の使用済みのツリーや、近隣の業者で売れ残ったツリーなどを寄付してもらい、動物たちにプレゼントする活動を続けている。
もちろん、ここで言うクリスマスツリーとは、プラスチック製のものではなく、生きた針葉樹を根元から切ってツリーにした「本物の木」のことである。
誰もが動物園にお金を寄付できるわけではありませんし、それは当然です。ここは無料の動物園で、誰でも来られるようになっているんです。
でも、もしクリスマスツリーを寄付していただけたら、きっと少しでも役に立てたという喜びを、皆さんに感じていただけると思います
同動物園の上級飼育員兼エンリッチコーディネーター、キム・シンプキンスさんはこのように話す。
寄付されたツリーは動物たちにとってはオヤツになったり、楽しい遊び道具になる。自然の木々の香りは動物たちの心を癒してもくれる。
また、モミやトウヒ、マツといったツリーによく使われる針葉樹は、動物たちを冬の冷たい空気から身を守るシェルターにもなる。
この動物園のある地域は、1月になると平均の最低気温が氷点下6度前後まで下がることもあるそうだ。
寄付されたクリスマスツリーは、動物たちを寒さから守る天然の防風壁としても機能するのだ。
小屋に通じる扉をふさぐために、冷凍庫用のフラップを使っています。でも、もう1枚防御の層があると心強いので、クリスマスツリーを使うんです。ワラビーのためには、特にそうしています
動物に「エンリッチメント」をもたらすアイテムにも
また、クリスマスツリーは、動物たちにとって「エンリッチメント」をもたらす役割も果たしている。
エンリッチメントとは、人間に飼育されている動物たちが、自然に近い正常な行動を取ることができるように、飼育環境に工夫を凝らすことをいう。
エンリッチメントとは、動物の自然な行動を引き出す、新しい刺激を提供することです。私たちはすべての動物たちに、それぞれの自然史に基づいたエンリッチメントプランを用意しています。
そして、野生では自然に行っているものの、動物園では意識しないと表れにくい行動を、どのように引き出すべきかを考えているのです
例えば飼育下では、餌を得るために苦労する必要がない。そこで飼育員たちはエンリッチメント活動を通じ、動物たちが本来持つ自然な採餌行動を促している。
そこで登場するのが、寄付されたクリスマスツリーである。霊長類の場合、飼育員たちはツリーの中に餌を隠し、彼らが見つけられるようにすることもあるという。
種類によりますが、ここにいる霊長類の多くは果食性なので、ツリーに果物を隠すと、枝をかき分けながら探さなければなりません。
これは、ボウルに入った餌を食べるよりも、野生で果物を探す方法に近いのです。飼育員がさまざまなおもちゃを組み合わせ、採食行動をより複雑で興味深いものにできたときは、とても嬉しいんです
コーネル大学の獣医師ケイト・アンダーソン博士も、次のように説明する。
エンリッチメントとは、動物にエサ入りのおもちゃを与えることだと思われがちですが、実はそれだけではありません。
動物のあらゆるニーズが満たされる状態を整え、感情面・身体面・精神面それぞれに、適切な刺激の出口を用意することです。
そこには安全性や予測可能性、衛生面や栄養面など、他にも多くの要素が含まれるべきです
ライオンたちもクリスマスツリーが大好き
動物園にとって、クリスマスツリーはコストをかけずに重要なエンリッチメント用品を確保できる手段でもある。
キムさんによれば、ライオン用の丈夫なプラスチックボールなどのエンリッチメント用品は300~500ドル(約47,000~78,000円)ほどもかかるという。
鋭い歯や爪のせいで、必ずしも長持ちしないことも多いのだ。その点、寄付されたツリーなら、限られた予算の中でも動物たちを楽しませ続ける助けになる。
下の動画を見てみよう。ライオンたちがツリーに身体をこすりつけ、咥えて運び去る様子が写っている。
ライオンはクリスマスツリーを持ち歩くのが大好きです。彼らはツリーの匂いが好きなんですよ
アンダーソン博士はこう語る。飼育下のライオンも野生と同じように、ツリーにおしっこをかけて自分のニオイをつけ、縄張りを示そうとするのだ。
博士によれば、エンリッチメントは動物に主体性と選択肢を与えることで、福祉の向上にもつながるという。
動物にとってのエンリッチメントは、言わば人間にとってのセルフケアのようなものです。
エンリッチメントが不足している動物は、興奮しやすくなったり、過剰に活動的になったり、鳴き声が増えたり、遊び方が荒くなったり、攻撃的になったり、よく眠れなくなったりすることがあります。
また、引っかき行動や破壊的な噛み癖、穴掘り、ゴミあさりといった望ましくない行動を示すこともあるんです
バイソンたちも、クリスマスツリーの匂いを嗅ぐのが大好きだが、新しい植物が飼育環境に入ること自体が、遊びの一形態と考えられている。
生物学では、「遊び」とは生存のための食料やシェルターを得る目的ではなく、純粋に楽しむために行われる行動と定義される。
バイソンたちは庭でツリーに頭突きをしたり、風除けとして利用したりしているんだそうだ。
動物たちは、人間と異なる方法で音を聞き、匂いを嗅ぎ、世界を見ているのです。彼らのこういった「感覚体験」に注意を払うことは極めて重要なのです
各地で広がるクリスマスツリーの有効活用
こういったツリーの有効活用の取り組みは、世界各地の動物園や農場、自治体などで行われている。
アメリカ・カンザス州のトピーカ動物園[https://topekazoo.org/]では、クリスマスの翌日の2025年12月26日から1月8日まで、天然のクリスマスツリーを動物たちへのエンリッチメントとして寄付を受け付けている。
動物たちが存分に楽しんだ後は、チップ上に砕いてリサイクルしているそうだ。この動物園ではツリー以外に、イルミネーション用のライトも受け付けている。
また、ドイツのベルリン動物園[https://www.zoo-berlin.de/en]では、毎年「売れ残り」のツリーを業者から譲り受けて動物たちに与えている。
そのほか、イギリスのノアの方舟動物園やチェコのプラハ動物園[https://www.zoopraha.cz/en]など、同様の取り組みを行っている動物園は少なくない。
売れ残ったり廃棄されたりしたツリーを積極的にリサイクルする自治体も増えており、海岸の保護に使ったり、公園などの堆肥として活用されているそうだ。
なお、日本では本物の木を使ったクリスマスツリーは少ないので、こういった活動を耳にすることはあまりないかもしれない。
ところが2024年、舗道に放置されていた植木たちを天王寺動物園が引き取って、動物たちの餌や日よけとして活用するという事案が発生していたらしい。
これも一種のエンリッチメントと言えるだろう。、当時報道された映像があったので、興味のある人は良かったら見てみてほしい。
References: Donated Christmas trees get a second life at the zoo[https://www.popsci.com/environment/christmas-tree-donation-zoo/]











