謎めいたヴォイニッチ手稿の文字列は、中世のカードゲームから生まれた暗号かもしれない
Image credit:<a href="https://www.bibliotecapleyades.net/ciencia/esp_ciencia_manuscrito07f.htm" target="_blank">The Voynich Gallery &ndash; The Complete Manuscript</a>

謎めいたヴォイニッチ手稿の文字列は、中世のカードゲームから生...の画像はこちら >>

 未知の文字と奇妙な挿絵が並ぶ、中世の写本「ヴォイニッチ手稿」は、100年以上もの間、多くの専門家を悩ませてきた。

 何が書かれているのか不明なため、意味のないでたらめを書き連ねただけという説もある中、アメリカの研究者マイケル・A・グレシュコ氏は、新しい角度からこの謎にアプローチした。

  グレシュコ氏は14世紀のトランプとサイコロを使い、既存の言語を独自の記号へ変換する暗号システムを考案した。

 この暗号システムを使えば、特別な技術がなくても、当時の身近な道具だけで不思議な文字の並びを作れるという。

 この発見は手稿の内容を直接解読するものではないが、あの文字列が「どのような手順で作られたのか」という仕組みの謎に迫る大きな手がかりとなるかもしれない。

 この研究成果は学術誌『Cryptologia[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01611194.2025.2566408]』(2025年11月26日付)に掲載された。

中世の遊び道具からヴォイニッチ手稿の文字列の謎に迫る

 アメリカ・ヴァンダービルト大学で進化生物学などを学び、アマチュアマジシャンやトランプのコレクターという顔も持つ研究者のマイケル・A・グレシュコ氏は、今回「ナイブ(Naibbe)暗号」という独自のシステムを提唱した。

 「ナイブ」とは、14世紀のイタリアでトランプそのものを指していた言葉だ。グレシュコ氏はこの歴史的な遊び道具とサイコロを組み合わせ、ラテン語などの実在する言葉を、ヴォイニッチ手稿そっくりの未知の記号へと変換する仕組みを構築した。

 このシステムを用いると、ヴォイニッチ手稿に見られる記号の並びとよく似た統計的特徴を持つ文字列を作り出せることが証明された。

放射性炭素年代測定によって15世紀のものと特定されているヴォイニッチ手稿には、これまで一度も解読されたことがない未知の記号で書かれた約3万8000語が含まれている。

このナイブ暗号は、手稿そのものを解読するものではないが、あの複雑な文字列がどのように構成されたのかを知るための、重要な手がかりを与えてくれる。

[画像を見る]

ナイブ暗号で文字を変換する手順

 グレシュコ氏は、マジシャンやコレクターとしての知識から、当時の人々が「乱数(ランダムな結果)」を得るためにサイコロやトランプを多用していたことに注目した。

この暗号は、以下の2つのステップで、既存の言語を解読不能な文字列へと変換する。

  • ステップ1(サイコロで単語を切る): まずサイコロを振って出た目に従い、元の単語(イタリア語やラテン語)を1文字または2文字ずつのパーツに切り分ける。例えば、猫を意味する「gatto」という単語なら、サイコロの目によって「g / at / to」といった具合にバラバラに分割する。

  • ステップ2(トランプで記号を選ぶ): 次にトランプを引く。カードの種類に応じて、あらかじめ用意した6種類の「記号変換表」から一つを選び、分割した各パーツをヴォイニッチ風の記号に書き換える。

 これらの変換表は、カードの枚数によって「どの記号がどのくらいの確率で出現するか」が調整されている。そのため、出来上がった文字列は、実際のヴォイニッチ手稿に見られる「特定の文字が何度も重なる」といった独特のクセまで再現できる。

 当時の技術さえあれば、誰でも手作業でパズルのように文字列を作成できるのが、この研究の核心である。

[画像を見る]

意味のある言葉なのか?でたらめな文字列なのか?

 1912年に古書収集家ウィルフリッド・ヴォイニッチ氏が入手したこの写本は、現在はイェール大学に所蔵[https://www.bibliotecapleyades.net/ciencia/esp_ciencia_manuscrito07f.htm]されている。

 植物や占星術、そして水浴びをする女性たちの奇妙な挿絵は、今も世界中の人々を惹きつけている。

 一方で、近年の人工知能(AI)を用いた解読の試みが失敗し続けていることから、「文字に特別な意味はなく、もっともらしい挿絵を添えただけのでたらめである」という説も根強かった。

 しかし、グレシュコ氏のナイブ暗号は、既存の言語から意味を保ったまま、解読不能に見える文字列へと変換する論理的な道筋を証明した。

 暗号の材料にサイコロとトランプが選ばれたのは、15世紀のヨーロッパでこれらが最も身近な乱数生成器だったからだ。

 この手法を使えば、たとえ内容に意味があったとしても、現代のAIですら解読が困難なほど複雑に偽装することが可能になる。

[画像を見る]

解明への新たな道しるべ

 この研究に関与していないヴォイニッチ手稿の専門家ルネ・ザンドベルゲン氏も、文字列を模倣するための手法を作り出したグレシュコ氏の努力を評価している。

 ただし、これが唯一の正解だと断定するのではなく、あくまで同様の手法が見つかる可能性が示された点に注目している。

 ヴォイニッチ語のテキストに意味があるのか、それとも単なるデタラメなのか。これほど手間のかかる作業を誰が何の目的で行ったのかを想像するのは、依然として難しい課題だ。

 しかしグレシュコ氏は、今回の暗号で作った文字列と実際の写本との「わずかな違い」を詳しく分析することこそが、テキストが実際に作成された真相を知る道しるべになると考えている。

References: Tandfonline[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01611194.2025.2566408] / A new study suggests the mysterious Voynich Manuscript may be a medieval cipher[https://archaeologymag.com/2026/01/voynich-manuscript-may-be-a-cipher/] / Mysterious Voynich manuscript may be a cipher, a new study suggests[https://www.livescience.com/archaeology/mysterious-voynich-manuscript-may-be-a-cipher-a-new-study-suggests]

編集部おすすめ