広大な氷に包まれた南極の海には、私たちの想像を超える未知の世界が広がっている。
知られているだけで6種いると言われている南極の鰭脚類(アザラシやオットセイの仲間)の中でも、最も目撃例が少なく、謎に包まれているのがロスアザラシだ。
これまで水中の姿を捉えた写真は存在しないとさえ言われてきたが、ついにその姿がカメラに収められた。
ぱっちりした大きなお目目が、アニメのキャラクターのようにかわいいロスアザラシだが、長年南極で活動するプロの写真家でさえ一生に一度出会えるかどうかの希少な存在なのだ。
出会えたら奇跡、最も希少なロスアザラシ
南極には現在6種の鰭脚類(ききゃくるい)が確認されている。鰭脚類とは、アシカ科、アザラシ科、セイウチ科で構成される、四肢がヒレ状となり遊泳に適応している海洋哺乳類の総称だ。
アザラシ科に属するのは、ロスアザラシ、ウェッデルアザラシ、カニクイアザラシ、ヒョウアザラシ、ミナミゾウアザラシの5種。これにアシカ科のナンキョクオットセイを加えた6種が、南極を代表する鰭脚類として知られている。
これらの中でロスアザラシは、鰭脚類全体のわずか1%しかいないと考えられており、最も希少であまり研究が進んでいない。
国際自然保護連合(IUCN)によれば、成熟した個体数は約4万頭と推定されている。
4万頭と聞くと多い印象を受けるかもしれないが、数百万頭から数千万頭も生息しているカニクイアザラシなどの他種に比べると、驚くほど少ない数字だ。それゆえに出会えるだけで奇跡の存在といえるだろう。
また、ロスアザラシはこれらの中でも最小の種であり、体長はオスが平均約1.9m、メスが平均約2.1mほど。
他のアザラシに比べて顔の幅が広く、頭部は小さいが、特徴的なのは、直径7cmにもなる非常に大きな目(眼球)だ。
この大きな目は暗い深海で獲物を探すために進化したものだが、まるでアニメキャラクターのような愛らしい表情を作り出している。
写真家が捧げた情熱と奇跡の瞬間
この幻の存在を追い続けてきたのが、National Geographic-Lindblad Expeditionsの水中スペシャリスト、ジャスティン・ホフマン氏だ。
ホフマン氏は最近の南極遠征で、ついにロスアザラシを水中で捉えることに成功した。
自身のInstagramでは、長年の夢が叶った喜びを綴っている。
ホフマン氏は南極で15シーズンも活動してきたベテランだが、遭遇したのは長いキャリアの中でわずか2回だけであり、今回の撮影がいかに困難であったかがうかがえる。
数年前、ロスアザラシの水中写真がこの世に存在しないかもしれないと知ったホフマン氏は、どうすれば撮影できるか考え始めたという。
今回の航海では、National Geographic Resolution号で南極への最南端記録を更新し、通常は到達できない海域へと足を踏み入れたことでこの奇跡が実現した。
流氷の奥深くで営まれる未知の暮らし
ロスアザラシの生態が長らく謎に包まれてきた理由は、彼らが砕氷船でなければ到達できないほど分厚い流氷の奥深くを住み処としているからだ。
南極の夏になると、密集した流氷の上で古い毛が抜け落ちる換毛や繁殖を行うが、それ以外の時期は外洋での採餌に一日の大半を費やす。
驚くべきことに、彼らは一日に100回以上の潜水を繰り返し、水深100mから300mの深さまで到達する能力を持っている。
主な獲物はイカなどの頭足類であり、オキアミや魚を食べる割合は比較的少ない。
寿命は約15年から20年で、メスは2歳から4歳、オスは3歳前後で性成熟に達する。
また、喉の部分に咽頭嚢(いんとうのう)という特殊な袋を持っており、これを膨らませることで水中にサイレンや鳥のさえずりのような高い音を響かせてコミュニケーションをとる。
今回の貴重な写真は、分厚い氷の下でひっそりと、しかし力強く生きるロスアザラシへの理解を深める大きな一歩となるに違いない。
References: These Might Be The First Ever Underwater Photos Of A Ross Seal, And They’re Delightful[https://www.iflscience.com/these-might-be-the-first-ever-underwater-photos-of-a-ross-seal-and-theyre-delightful-82087]











