深海には、クッキー型でくり抜いたような完璧な円形の傷跡を残す捕食者が存在する。体長50cmほどの小さなダルマザメだ。
実際に襲う姿を見ることは稀で謎に包まれていたが、ハワイ大学の研究チームが10年以上のデータとハワイに古くから伝わる先住民の知恵を融合させ、その捕食パターンを特定した。
光に敏感なダルマザメは月明かりが最も弱い新月の夜に活動を活発化させていることが判明した。
さらに、時間帯による生息水深の変化が、出会う獲物の種類を決定づけている実態も明らかになった。
この研究成果は『Marine Ecology Progress Series[https://www.int-res.com/abstracts/meps/v775/meps14977?tx_intres%5BfromSearch%5D=1&cHash=4ca7eb66163e1c02ab9a425c232277d3]』誌(2025年12月11日付)に掲載された。
特徴的な歯を持つ奇妙な深海のサメ
ヨロイザメ科に属するダルマザメは水深1,000mより深い海に生息する葉巻のような形をした体が特徴だ。
ダルマザメは肉を引き裂くのではなく、吸盤のような口で獲物に吸い付き、円形に肉を削り取る。
上顎にある30から37本の小さな歯で固定し、下顎にある25から31本の三角形をした歯で肉を切り抜いて食べる。
夜になると獲物を求めて比較的浅い水深にまで上がってきて、様々な獲物を狙う。
その対象は、メバチマグロやメカジキといった大きな魚だけでなく、クジラやイルカ、アザラシといった哺乳類にも及ぶ。
とてもアグレッシブなサメで、生物のみならず、原子力潜水艦のゴムパーツにすら噛みつくほどだ。
ダルマザメの歯はすべてのユニットが一つにつながっており、一度にすべての歯が生え変わる。
さらに、失った歯をそのまま食べることで、体内のカルシウムレベルを維持していると考えられている。
お腹の部分には発光器官があり、下から見たときに海面の光に溶け込んで自分の影を消す特殊な能力も備えている。
新月に集中、最新モデルで判明した攻撃の周期
ハワイ大学マノア校のジャスティン・スカ助教たちの研究チームは、2011年から2023年にかけてハワイの延縄漁業で記録された膨大なデータを分析した。
海水温や海面高度、塩分濃度などの環境指標を組み合わせた統計モデルを構築した結果、ダルマザメの攻撃には明確なリズムがあることが分かった。
攻撃が最も増えるのは夜間であり、特に月の光が最も弱くなる新月の時期に集中している。
これは強い光を避ける性質を持つダルマザメにとって、月明かりのない暗闇こそが最も安全に活動できる環境であるためだ。
つまり、新月という時期がサメの活動レベルそのものを引き上げていることになる。
漁業の操業時間が長くなるほど被害が増える傾向にあるのも、夜間にサメの活性が最大化することに起因している。
時間帯によって狙う獲物が変わる理由
今回の研究における最も興味深い発見は、時間帯によって被害に遭う魚の種類が変わる理由を論理的に説明した点にある。
ダルマザメは日中は深海に留まり、夜間になると表層へ浮上する日周鉛直移動を行っている。
この移動サイクルによって、サメが「どの深さにいるか」が時間帯で決まり、その結果として遭遇する獲物の種類が変わるのだ。
夜間に表層へ浮上したダルマザメは、同じく浅い海域にいるメカジキと遭遇するため、夜はメカジキの被害が集中する。
一方で日中のダルマザメは深い場所に潜っており、そこで同じく深い水深を泳ぐメバチマグロを襲う。
サメが意識的に獲物を使い分けているというより、環境に合わせて居場所を変えることで、必然的に出会う相手が入れ替わっている実態が明らかになった。
ハワイの伝承と現代科学の組み合わせて見えてきた事実
今回の研究では、西洋の科学データだけでなく、ハワイの先住民に受け継がれてきた伝統的な知見も重要な役割を果たした。
研究チームは19世紀から20世紀にかけて発行されたハワイ語新聞やポリネシア文化の記録を調査し、先祖(kūpuna)たちがこのサメをどのように認識していたかを探った。
直接的な記述こそ見つからなかったが、ハワイの人々は外洋から持ち帰った魚に残された独特の傷跡を通じて、ダルマザメの存在を古くから熟知していたと考えられる。
この深い洞察をもとに、研究チームはダルマザメに「小さな噛み跡」を意味するナフナイキ(nahunaiki)という新しいハワイ語の名を与えた。
古くからの言い伝えと現代科学が協力することで、これまで見落とされがちだった自然のパターンが可視化されたのだ。
姿なき捕食者の正体を追って
ダルマザメは現在、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで低懸念に分類されており、ただちに絶滅するようなことはない。
だが、一部の専門家は将来的な個体数減少を懸念している。
人間の漁業がより深い海域へと拡大することで、彼らの生息域が脅かされたり、予期せぬ混獲が増えたりする可能性があるためだ。
ダルマザメは時として漁船の獲物や海洋観測機器に被害を与える「厄介者」として扱われることもある。
しかし、今回の研究でその行動リズムが予測可能になったことで、攻撃が発生しやすい時期や場所が特定できれば、ダルマザメを無理に排除するのではなく、人間側が被害を賢く避ける戦略を立てることが可能になる。
ダルマザメへの理解を深めることで、うまく共存できるような方法が見つかるかもしれない。
References: Hawaii[https://www.hawaii.edu/news/2025/12/30/cookiecutter-shark-research/] / Int Res[https://www.int-res.com/abstracts/meps/v775/meps14977]











