2025年、イギリスはタコ大量発生の年だった

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 イギリス南西部の沿岸では、過去に例を見ないほど大量のタコが目撃され、現地の自然保護団体は、2025年を「タコ大量発生の年」と宣言した。

 話題性だけでなく、確認された記録の数や範囲、そして漁業や生態系への影響の大きさから見ても、単なる一過性の珍事とは言い切れない現象だ。

 この大量発生が来年以降も続くのか、また生態系への影響はどうなるのか。しばらくはイギリスのタコから目が離せない状況が続きそうだ。

通常の約13倍ものタコが大量発生

 2025年、イングランド南西部沿岸の海域では、「信じられない数」のタコの姿がとらえられた。

 目撃が集中したのはドーセット州、デヴォン州、コーンウォール州にかけての英仏海峡沿いの海域である(下の地図の黄色い部分)。

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 ダイバーや沿岸の漁師からは、「浅瀬で複数の個体が同時に見られた」「これまで見たことのない大きさの個体がいた」といった報告が相次いだという。

 これまでにも個体数の一時的な増加は観察されてきたが、今回は1950年以来75年ぶりの大規模な増加とのこと。

 コーンウォール野生生物トラス[https://www.cornwallwildlifetrust.org.uk/]ト[https://www.cornwallwildlifetrust.org.uk/](CWT)の海洋保全担当官、マット・スレーター氏は今回の大量発生について、次のように説明している。

地元の漁師が記録したタコの漁獲量は、コーンウォール沿岸で通常想定される量のおよそ13倍に相当します。

集計したところ、今年イギリスの海域で捕獲されたタコは約23万3000匹にのぼりました。これは通常の想定をはるかに上回る、非常に大きな増加です

 CWTではこの前例のない数の急増を受けて、 2025年を「タコ大量発生の年(the Year of the Blooming Octopus)」と宣言した。

 下の動画は、ダイバーが撮影したタコたちの映像である。カメラに向かって触手を伸ばしてくる個体がいるほか、複数のタコが同じ画面に捉えられている。

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主に見られたのは「チチュウカイマダコ」

 今回主に目撃されたのは、「チチュウカイマダコ(学名:Octopus vulgaris)」というマダコの仲間だそうだ。

 温かい海を好み、主に地中海はもちろん、東大西洋のアフリカ沿岸、カリブ海などで見られるが、条件が整えばイギリス南西部のような温帯域にも回遊する。

 体は非常に柔軟で知能が高く、岩陰や穴を住処にしながら、甲殻類や貝類、小魚などを捕食する。

 腕には強力な吸盤が並んでおり、器用に物を掴めるほか、貝の殻をこじ開けるのも朝飯前だ。

 飼育下では迷路を解いたり、道具のように物を使ったりする行動が確認されており、無脊椎動物の中でも特に知的な存在として知られている。

 だが寿命は1~2年程度と短く、成長と繁殖のサイクルが速い。そのため、海水温や餌などの環境が一時的に好転すると、その翌年に個体数が急増することがある。一方で、条件が悪化すれば急激に減少することも珍しくない。

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気候変動による環境の変化で生態系に変化も

 では、なぜ、これほどまでにタコが増えたのだろうか。専門家がまず指摘するのは、海の環境条件だ。

 2024年から2025年にかけての冬は比較的穏やかで、海水温も平年より高めに推移した。暖かい冬と春は、幼生の生存率を押し上げ、結果として一斉に成長した個体が沿岸に現れた可能性が高いという。

 餌となる生物の動向も無視できない。この海域では、タコが好んで食べるカニ類や小型の甲殻類の数が比較的安定しており、タコにとっては食糧事情が良好だったと考えられている。

 タコは貝類や甲殻類を好んで捕食するため、こうした餌資源の豊富さは個体数の増加に直結する。

 興味深いのは、タコだけが増えているわけではない点だ。イングランド沿岸では近年、イワシやサバといった小型回遊魚の分布にも変化が見られている。

 温かい海水を好む種が北上する一方で、冷水を好む一部の魚種は分布を変えつつあるという。

 また、イギリスでは近年、アオザメやマンボウといった、かつては珍しかった大型海洋生物の目撃例が増えていることも報告されている。

 こうした動きは、単一の種の異常というより、地球の海全体の環境が変わりつつある兆候として捉える必要があるだろう。

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 その一方で、すべての生き物が増えているわけではない。タラやモンツキダラは現在では北部でしか見られなくなり、南西部ではダツ(ヨーロッパダツ)やカタクチイワシ、イワシといった小型魚が優勢になっている。

 こうした小型魚はクロマグロの餌にもなり得るため、イギリス南部の海域では、トップ捕食者の存在感が増す可能性も指摘されている。

 また、ノーフォーク沖でマンボウが、ウェールズのカーディガン湾ではカスザメの仲間が確認されるなど、各地で「例外的」な目撃の記録も報告されている。

ネットでは気候変動を危惧する声も

 このニュースに、ネット上ではさまざまな意見が寄せられている。

  • これは正直、あまり良いことではないと思う。生態系のバランスが崩れるのは良くないよ
  • ある程度までは良い話だけど、実際に貝の漁には影響が出ている。
    それに、海水温がこんなに上がるべきじゃない
  • ああ素晴らしいね。海水温の上昇と生態系の崩壊なんてステキなニュースだ
  • これでコーンウォールの漁業関係者が、ますますこの賢い生き物を殺すようになるだろうな
  • メスのタコはたいてい出産後に死ぬから、来シーズンにどれだけ生き残るかは水温次第だな
  • タコの寿命は短いけど、1回に数千個の卵を産む。だから漁業にとっては大問題になるかもしれないよ
  • 「本当に例外的だった」という言葉を、生態系が地球温暖化で変わっている文脈で聞くのは正直クレイジーだ
  • 彼らは素晴らしい生き物だ。なぜ食べようと思う人がいるのか、私には理解できないよ
  • どうか食べないで、生き延びさせてやってほしい
  • 俺には美味しそうにしか見えないんだけど
  • 私は新しい支配者クトゥルフを歓迎するよ。今の支配者たちよりはマシになるはずだ
  • スペインで食用目的の繁殖が増えたせいという可能性もある。卵の一部は逃げ延びるだろうし
  • 今年は水温の上昇で、甲殻類たちがより冷たい海へ移動せざるを得なかった。僕の母国スペインでは、ガリシア地方でのタコ不足がニュースになったけど、その説明がこれだった。タコの適応力と生存戦略はすごかったってことだね
    • なるほど、ニュースでは気候変動の影響で北上したとは触れていたけど、ガリシアについては言及していなかったから、知れてよかった。賢いやつらだね、ちゃんと適応してる
      • 地元の人にはつらい話だけど、事実としてはすごく興味深いね

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 海洋生態系は複雑で、ある種が増えることが、別の種にとっては圧力になる場合もある。タコの増加は、甲殻類や貝類への捕食圧を高める可能性があり、長期的には生態系のバランスに影響を与えるかもしれない。

 また、短期的には、タコの増加は漁師にとって収入増につながる面がある一方で、タコがロブスターの罠に入り込み、中の獲物を食べてしまうといった被害も報告されている。

 25年の「タコの年」は、単にタコ1種が増えたという話ではない。

海水温の上昇や海洋熱波、海面上昇といった変化が、地球規模での生物の分布や季節のリズムを書き換え始めていることを、はっきりと可視化した出来事だった。

 温暖な冬が今後も続けば、タコの卵が来年も生き残って、個体数が維持される可能性は高まるかもしれない。

 しかしそれは同時に、これまで当たり前だった海の生態系のバランスが、静かに崩れつつあることも意味している。

 今回のこのタコの大量発生は、豊かさの兆しなのか、それとも海が発している警告なのだろうか。

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References: 2025 Was ‘Year of the Octopus’ Says UK Wildlife Trust, Amid Record Cephalopod Sightings[https://www.goodnewsnetwork.org/2025-was-year-of-the-octopus-says-uk-wildlife-trust-amid-record-cephalopod-sightings/]

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