世界最高峰のエベレストは、登山シーズンになると、頂上までのルートは登山者で長蛇の列となるほど大人気だ。
人間が集まる場所には、当然ながらゴミや排せつ物が出る。
ネパール政府は、その対策として登山者にごみの持ち帰りを義務づける保証金制度を導入してきたが、11年を経ても状況は改善しなかった。
こうした現実を受け、ネパールはついに方針を転換し、返金されない清掃費用を徴収する新たな強硬策に踏み切ろうとしている。世界最高峰を守るための試みは、次の段階へ進もうとしている。
増え続けるエベレストのゴミ問題
エベレストはまたの名をチベット語でチョモランマ、ネパール語ではサガルマータといい、ネパールと中国の国境にある山である。
人類が長年にわたって登頂に挑み続けている場所であり、長年にわたり深刻なごみ問題を抱えてきた場所でもある。
登山者や支援隊が残してきたテントや酸素ボンベ、衣類、食料などの包装容器、さらには排せつ物までが、キャンプや登山ルート周辺に蓄積している。
氷雪に覆われた厳寒の環境では分解が進まず、数十年前の廃棄物がそのまま残り続けており、「ゴミ溜め」のような状態が問題になっているのだ。
ゴミ持ち帰り保証金制度を導入したが効果が出ず
ネパール政府はこの問題に対処するため、2014年より「ゴミ持ち帰り保証金制度」を導入した。
エベレスト登山の許可を取得する際、登山者は1人あたり4,000ドル(現在のレートで約63万円)を保証金として預け、18ポンド(約8kg)以上の廃棄物を山から持ち帰ったことが確認されれば、返金される仕組みだった。
この保証金制度は一見すると合理的に見えはしたが、実際には期待された効果を上げることはできなかった。
多くの登山者は返金条件を満たすため、ベースキャンプ付近など比較的低地にある回収しやすいゴミを持ち帰る一方で、標高の高い地点や危険度の高い場所に残された廃棄物には手を付けないケースが目立ったからだ。
高い場所から持ち帰られるのは、主に酸素ボンベだけで、テントや空き缶、食品の容器などは山に置き去りにされていた。
その結果、制度上は返金が進んだものの、山全体のゴミの総量は大きく減ることはなく、環境改善にはつながらなかった。
もちろん一部の登山者はきちんとルールを守っている。彼らから見ても、正直者が損をしているようで納得いかないだろう。
世界一高いゴミ捨て場
登山者はエベレストに上る際、順応のための時間を含め、最長で6週間を山で過ごすため、平均すると一人で最大約12kgほどの廃棄物を出すという。
実際に出すゴミの量と、持ち帰れば返金される量の差は約4kg。単純計算で行くと、1人が登山すると、約4kgのゴミが残されることになる。
エベレストの年間登山者数は、現在約400名ほどと言われている。これに加えて、数百人のサポートスタッフが途中まで同行するため、ゴミはいつまでたっても増え続ける一方である。
エベレストには依然として、40~50tものゴミが埋まっていると推定されており、その多くはアクセスが困難な最終キャンプ付近に集中していると言われている。
現在、外国人登山者はエベレストに登るために、3~5月のピーク時には、1人あたり15,000ドル(約235万円)の登山料の支払いが必要だ。そのため、「世界一高いゴミ捨て場」とも呼ばれている有様である。
返金型の保証金制度は、登山者の行動を変えることを狙ったものだったが、山に残るゴミの量は十分に減らなかったのだ。
清掃キャンペーンを行ってもゴミは減らず
こうした制度の限界を補う形で、ネパール政府は2019年以降、軍や地方団体、NGOと連携した清掃キャンペーンを実施してきた。
だが高所での作業は危険を伴い、回収できるゴミの量には限界がある上に、毎年新たな登山者が山に入ることで、ゴミは再び蓄積されていく。
清掃を繰り返しても、発生そのものを抑えなければ状況は改善しないという現実が、次第に明らかになっていった。
返金を前提とする保証金の仕組みを廃止し新制度を導入
こうした経緯を踏まえ、2025年から始まった新たな制度では、返金を前提とする保証金の仕組みが廃止された。
新制度では廃棄物を持ち帰っても返金はなく、4,000ドルは山岳環境の維持管理に充てる費用として徴収され、清掃活動や監視体制、インフラ整備に充てる方式へと改められた。
金額は旧制度と同じでも、その性格は大きく異なり、行動へのインセンティブではなく、山岳環境を維持するための恒常的な財源確保を目的としたものだ。
これはネパール政府が打ち出した、2025年から2029年までを対象とする、5か年にわたる山岳清掃アクションプランの一環となるものである。
この計画はエベレストだけでなく、国内の主要な高山を含めた包括的な環境管理を目的としている。
ネパール登山協会[https://nepalmountaineering.org/]によると、アルミ製の缶は約495年、スチール製のものは約95年、プラスチックは220年、ガラスは100万年もそのままだという。
つまり何とかして回収しなければ、エベレストのゴミはいつまでたっても分解されず、増え続けるだけなのである。
ゴミの持ち帰りは依然として義務ではあるが、今後は金銭的な見返りではなく、規則と監視によって履行が求められるより厳しい仕組みに改められたのだ。
まず、ベースキャンプや主要ルートには、ゴミの分別や一時保管のための施設が設けられ、回収と管理を担う体制を構築。山岳レンジャーの配置が進められ、現場での厳しい監視や指導が始まっている。
さらに登山前には、環境保護と廃棄物管理に関する事前説明を受けることになり、2025年のシーズンから運用が始まっている。
これは単なる規則の周知ではなく、登山者自身に山岳環境への責任を自覚させることを狙ったものだ。
また、登山終了後には、それぞれの装備や廃棄物の数量を確認するチェック体制が導入された。
「登山立国」ネパールの事情
背景にあるのは、山岳観光がネパール経済に欠かせない収入源である一方、その利用が増え続けた結果、自然環境への負荷が無視できない水準に達しているという認識である。
加えて、気候変動の影響も無視できない。気温上昇と氷河の後退により、これまで雪や氷の下に埋もれていたゴミが露出するケースが増えているという。
過去に放置された廃棄物が再び表面に現れ、下流の水源や生態系に影響を及ぼす可能性も指摘されているのだ。
また、ネパールは多民族国家であり、一口に「シェルパ」といってもさまざまな民族の出身者がいる。
その呼び名のもとになったチベット仏教を信仰するシェルパ族もいれば、ヒンドゥー教を信仰する部族出身の者もいる。
これまではネパールに根強く残るカースト制度により、以前は登山隊と共に山に入るシェルパたちの多くが、「清掃」という行為をしたがらなかった。それは彼らよりも低いカーストの仕事だったからだ。
だが最近は、そんな彼らの間にも少しずつ変化の兆しが見えているという。環境保全や美観の保護といった意識が根付き始め、自主的にゴミを集めたり清掃をしたりするシェルパたちも増えているそうだ。
今回の制度変更を受けて、ネット上ではさまざまな議論が行われていた。
- 清掃する費用より高額になるまで、保証金を上げればいいだけじゃないの? 制度を廃止するのはいい考えじゃないと思う
- 以前の制度は、みんなに「ゴミの3分の1は山に残したほうが得」っていうインセンティブを与えてた。
解決策は、平均的な登山者が出す量より多く持ち帰らせることしかない。新制度は少なくとも、保証金が全額返ってこないからマシに見える。集めた金でゴミ箱でも設置できるかもしれないし- エベレストに登れる金があるなら、他人のゴミを背負わなくて済むための4,000ドルくらい払えるだろ。うまくいかなかったのも当然だよ
- 正直、全部片づくまで登山を止めるべきだと思う。でもそれをやったら、シェルパみたいにそれで生計を立ててる人たちに大打撃だろうな。経済全体としては大丈夫でも
- いっそエベレスト登山を永久に禁止すればいい
- ああ、世界中の金持ちからの「おいしい金」を捨てて、何世代も家族を養ってきたシェルパの仕事を壊すってわけね。気持ちはわかるけどさ
- 4,000ドルは安すぎる。保証金を2万ドルにして、さらに環境保全費として5,000ドル取るべきだ
- 全員に「自分が出したより多くのゴミを持ち帰る」ことを義務づければいい。できなかったら即ムショ行き
- 出発時と帰還時で荷物の重さを量ればいい。軽くなってたら罰金、重くなってたら報酬。どうせ金持ちのクソ野郎どもは山を壊し続けるだろう。でもこれなら、シェルパが最低限の装備で登って、ゴミを持ち帰って稼ぐ道ができる
- 実際、上で人が死ぬのって、下山中の人たちが助けるために止まれないからだろ。
ゴミ拾いなんてするわけがない。人間すら拾わないんだから- ロープにつながれた長蛇の列で、ちまちま進む写真を見ると、もうこれは人生の達成でも探検でもなくて、ただの高級ディズニーアトラクションに見える。金を払って、満員の行列に並んで、山頂で15分くらい写真撮るだけ。おめでとうって感じ
- 最近の大型ドローンなら、上の方まで行けるんだから、交代制のクルーを配置してゴミをまとめて、ドローンでベースキャンプまで運んで、ヘリで回収できないの? 4,000ドルじゃ足りないかもしれないけど、できるだけ高所までやるべきだと思う
- 今の客の多くは、マラソンの次の「やりたいことリスト」にエベレスト登山を入れてる金持ちだ。LNT(痕跡を残さない)なんて興味も理解もない
- それは言い訳にならない。高級ツアー会社なら、シェルパにゴミ拾いを頼んで、その分を客に請求すればいい。必要なのは倫理じゃなくて責任だよ
ところでエベレストと聞くと、プロの登山家でもなければ近づけない遠い山というイメージが大きいと思う。
でもまあ、見るだけならネパール行きの飛行機に乗ればけっこう間近で見られるし、ネパールの首都カトマンズの近郊には、エベレストが見える丘もある。
また、ハイキング好きな健脚な人なら、自分の足で歩くヒマラヤトレッキングに出かけるのもいい。
エベレストを望めるリゾートホテルなんかもできているし、なんなら遊覧飛行もあるので、登山しなくてもヒマラヤの眺めを存分に楽しめる。
見上げるだけなら、飛行機の窓から眺めるだけなら、今もヒマラヤの峰々はとても美しい。
なお、インドのヴァラナシからカトマンズへ飛ぶルートは、目の前にヒマラヤの壁が立ちふさがる壮大な光景が見られるので個人的に超おススメ。
【追記】(2026/1/10) 円とドルのレートを2026年1月10日現在に合わせて調整いたしました。
References: सगरमाथासहित हिमाल सफा गर्न ५ वर्षे योजना स्वीकृत[https://ekantipur.com/news/2025/12/15/5-year-plan-to-clean-mountains-including-everest-09-37.html]











