アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、キャンパスに生息するユキヒメドリのクチバシの形状が、コロナ禍によるロックダウン中のわずか2年間で劇的に進化したことを突き止めた。
人間が消えたキャンパスで、鳥たちのクチバシは天然の種子を食べるための形状へと進化したのだ。
ところが、人間が戻ると「逆進化」が起き、クチバシの形状は元通りに戻っていった。
この事実は、人間の営みが、野生動物の身体的特徴を決定づける強力な進化の原動力になっていることを示している。
この研究成果は『PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2520996122]』誌(2025年11月11日付)に掲載された。
人間がいなくなった2年間で鳥のクチバシの形が変化
2020年、コロナ禍によるロックダウンでカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の広大なキャンパスから学生の姿が消えたとき、そこに住むユキヒメドリの集団には驚くべき身体的変化が起きていた。
ユキヒメドリのクチバシが、わずか2年の間に、森に住む野生個体のような「長く細い形状」へと進化したのだ。
この鳥を10年にわたって調査してきた研究チームは、10年間の蓄積データと比較した結果、ロックダウン中に生まれた新世代の鳥のクチバシが、親世代とは明らかに異なる形状であることを確認した。
研究チームの生物学者、パメラ・イェー教授によれば、進化とは通常、数千年から数万年をかけて起こるものだが、人間の不在という急激な環境の変化が、目に見えるほどの超速進化を引き起こしたという。
自然の種子を拾うためにクチバシは細長く変化
スズメ目ホオジロ科のユキヒメドリは全長は約12cmから16cm、体重は18gから30gほどで、日本のスズメとほぼ同じくらいのサイズだ。
木の上ではなく地面に巣を作る地上営巣性を持つ。
本来はカナダやアメリカ北部の森で繁殖し、自生する草木の種子などを主食にする渡り鳥として知られ、雪と共に現れることからその名がついた。
しかし、近年の気候変動により本来の生息地が狭まったことで、南カリフォルニアの都市部へも定着し始めていた。
都市部に定着したグループは、一年中同じ場所に留まる「留鳥」へと生態を変え、本来の主食ではなく人間が落としたパン屑などを利用して生きる術を学んだ。
クチバシが変化した理由は、この食生活の激変にある。人間が消えたことで餌が消え、鳥たちは茂みや落ち葉の中に隠れた天然の種を自力で探し出さなければならなくなった。
地面に落ちた小さな種を効率よく拾い上げるには、都会の食事に適応していた短くて太いクチバシよりも、精密なピンセットのように機能する「長く細いクチバシ」の方が圧倒的に有利だったのだ。
厳しい環境下で、この形状を持つ個体だけが十分な栄養を得て生き残り、多くの雛を育てることができた。こうして、自然界の餌を食べるのに適した形質が集団全体に広まっていったのである。
なぜ、わずか2年で「進化」が起きたのか
ユキヒメドリの平均寿命が3年から5年ほどだ。なのにわずか2年で「進化」が起きるのものなのか?疑問を持つ人もいるだろう
ユキヒメドリは生後1年で繁殖が可能となる。つまりロックダウン中の2年間には、最大で2回の繁殖サイクルが存在する。
研究チームが注目したのは、この期間に新しく生まれた幼鳥たちだ。もしこれが個体の使い込みによる摩耗や、成長過程での環境順応(表現型の可塑性)であれば、まだ若い幼鳥に変化は現れないはずだ。
しかし、幼鳥の段階ですでにクチバシは生まれつき細長くなっていた。
これは、人間由来の餌が完全に絶たれたことで、種を拾うのが苦手な個体やその雛が激しく淘汰され、適合した形状を持つ個体だけが生き残って繁殖した「自然選択」の結果である。
元々の集団の中に存在していた遺伝的な変異が、環境激変によって短期間で集団全体に広まったもので、現代の進化生物学では「迅速な進化」として認められている現象だ。
人間が戻るとクチバシは再び逆進化
この進化のプロセスは、キャンパスの生活が元通りになるとさらなる展開を見せた。
学生たちが戻り、再びゴミ箱やテラスの周辺にパン屑などの食べ残しがあふれるようになると、ユキヒメドリのクチバシは再び以前の短くて太い形状へと戻り始めたのだ。
論文筆頭著者のエレノア・ダイアマント博士は、人間が戻ってきたことで、再び「人間の食べ物」を効率よく食べるのに適した個体が有利になるよう、選択圧が逆転したのだと指摘している。
一度起きた進化がこれほど短期間で元の状態へと再適応する「逆進化」の様子は、科学的にも極めて稀な発見だった。
UCLAのユキヒメドリたちは10年前から足環による個体識別が行われており、彼らが強い縄張り意識を持つ定住者であることが分かっている。
外部から別の個体が流入したのではなく、同じ場所で、人間の営みに合わせて進化の方向が入れ替わったのである。
私たちの営みが野生動物の未来をデザインする
ユキヒメドリの事例は、私たち人間の日常の営みが、野生動物の身体をmm単位で作り変えるほどの影響力を持っていることを示唆している。
過去50年間で約30億羽もの鳥が北米から姿を消しているが、ユキヒメドリが見せた驚異的な柔軟性は、将来の生存に向けた一筋の希望といえるだろう。
イェー教授は、人間が意図せずとも野生動物の生存を助けるような進化を促している現状について、自然と人間の共生における新たな側面であると結論づけている。
人間がキャンパスに戻ることで「逆進化」が起き、クチバシの形状が再び塗り替えられた事実は、人間と動物が切っても切れない密接な関係にあることを物語っている。
【追記】(2026/01/15)
専門的な正確性を期すため、迅速な進化のメカニズムや幼鳥の測定データなどの詳細な情報を追加し、内容を一部修正しました。
References: PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2520996122] / COVID lockdowns changed the beak shape of these city birds[https://newatlas.com/biology/lockdowns-beak-shape-birds/]











