白亜紀時代の肉食恐竜「ティラノサウルス・レックス」は、40歳になってもまだ成長を続けていたとする新たな研究結果が報告された。これは、20代半ばで成長が止まるとされた従来の定説を覆すものだ。
米オクラホマ州立大学などの古生物学者チームが最新の統計手法と偏光技術を用いて骨の年輪を解析した結果、ティラノサウルス・レックスは、考えられていたよりもずっと長い時間をかけて成体へと達していた実態が明らかになった。
この発見は、ティラノサウルスがどのように成長し、どのような一生をたどったのかというこれまでの認識を根本から改めるものである。
この研究成果は学術誌『PeerJ[https://peerj.com/articles/20469/]』(2026年1月14日付)に掲載された。
恐竜の骨に刻まれた成長の記録
恐竜の骨は、その個体が死んだ時の状態について多くのことを教えてくれるが、そこに至るまでの過程についてはあまり多くを語ってくれない。
理論上は、異なる年齢で死んだ何百もの個体を調べれば成長の過程をつなぎ合わせることができるが、それほど多くの標本が揃うことはまずない。
また、ある骨の持ち主が成長段階のどの位置に当てはまるのかを判断するのも、常に明確とは限らなかった。
だが、季節による気候の変化が激しい場所に住んでいた種であれば、骨には樹木の年輪のような模様である成長線が刻まれる。
とはいえ、この成長線を読み解くのは決して簡単ではない。
だが、オクラホマ州立大学の古生物学者、ホリー・ウッドワード・バラード教授らの新たな研究によれば、これまで、ティラノサウルス・レックス(以下T.レックス)の成長線の読み方を間違えていたという。
以前の研究では、この恐竜は25歳くらいまで成長し、そこで止まると考えられてきた。
この定説は彼らのライフスタイルを考える上での基礎となってきたが、今回の研究はその前提を揺るがすものだ。
T.レックスは40歳まで成長を続けていた
バラード教授らの研究チームは、幼体から巨大な成体までを含む17体のT.レックスの標本を対象に、新たな技術でデータを検証した。
その結果、T.レックスは40歳ごろになり、体重が約8トンに達するまで成長を続けていた可能性が示唆された。
これまでの定説では25歳前後で成長が止まるとされていたが、実際にはそこで完全に停止したわけではなかった。
25歳を過ぎたあたりから、目視では確認できないほど成長スピードが極めて緩やかになり、そこからさらに15年もの歳月をかけて、ゆっくりと最終的なサイズへと近づいていたのである。
この「肉眼では停止したように見えるほどゆっくりな成長」が、これまでの研究で見逃されていた原因だったという。
最新技術で成長線を発見
なぜ、これまでの研究者はこの成長を見逃してしまったのか?
それはT.レックスの骨が持つある厄介な性質のせいでもある。
T.レックスの骨は、成長に伴って中心部の空洞(骨髄腔)が広がっていく性質がある。骨が太くなる際、外側に新しい骨が作られる一方で、内側にある古い骨は溶かされて空洞が広げられていくのだ。
その過程で、内側にあった「若い頃の成長記録」まで一緒に消滅してしまう。これにより、骨の断面にはそその個体が死ぬ前の「最後の10年から20年分」の記録しか残らないため、生涯を通じた正確な解析が困難だったのだ。
そこで研究チームが活用したのが、特定の方向に振動する光「偏光」だ。
消えずに残っている外側の骨に対し、偏光を通すことで、普通の光の下では見落とされていた微かな「アニュラス(成長停止線)」を浮かび上がらせることに成功した。
これにより、成長が止まったと思われていた年齢以降の部分にも縞模様(成長の跡)が発見され、実際には40歳近くまで成長が続いていたことが判明したのである。
成長期間と寿命の違い
ここで整理しておきたいのが、「成長期間」と「寿命」の関係だ。この2つは生物学的に全く別の意味を持つ。
- 成長期間:体が大きくなり続ける期間のこと
- 寿命:生まれてから死ぬまでの期間のこと
私たち人間は20歳前後で身長の伸び(成長)が止まるが、寿命は80年以上ある。つまり「成長が止まった後」も長い人生が続くのが一般的だ。
これまでの定説では、T.レックスの寿命は30歳程度だと考えられてきた。「20代半ばで成長が終わり、その数年後には死んでしまう」という、太く短い一生のイメージだったのだ。
しかし今回、骨の解析によって「40歳の時点でもまだ成長していた(体が大きくなっていた)」という痕跡が見つかった。
成長していたということは、当然ながらその時点で生きていたことになる。
T.レックスはこれまでの想定よりもずっと長生きであり、少なくとも40代までは確実に生存していた可能性が高まったのだ。
ナノティラヌス別種説を裏打ち
また、今回の解析手法は、幼体のT.レックスではないかと長年議論されていた「ナノティラヌス(Nanotyrannus)」の正体についても重要な視点を与えた。
研究チームが「ジェーン(Jane)」や「ピーティー(Petey)」と呼ばれる有名な小型個体の成長曲線を分析したところ、それらはT.レックスの他の標本とは統計的に矛盾しており、根本的に異なる成長パターンを示した。
これは、以前カラパイアでも紹介した「ナノティラヌスは独立した別種である」という最新の知見を強力に後押しするものだ。
骨の組織学的なデータからも、これらの小型個体は幼体のT.レックスではなく、生物学的に異なるグループであることが示された。
白亜紀末期の北米大陸には、異なる成長戦略を持つ複数の捕食者が共存していたことが、今回のデータからも裏付けられた形だ。
T.レックスが時間をかけて成長した理由
T.レックスが早く最大サイズになろうと急がず、40歳という長い歳月をかけて成長し続けたことには、生存上の利点があったと考えられている。
成長に合わせて異なる「ニッチ(生態的地位)」を占めることで、一生を通じて環境のあらゆる獲物を独占できた可能性がある。
ただし、死ぬまで成長し続けたわけではない。
鳥類に近い現代の生き物などに見られる、成長の終わりに作られる「外部基本組織系(EFS)」という組織がある。これは骨の成長が完全にストップしたことを示すサインだ。
研究チームが調べたデータセットの中で、このEFSが見つかったのは「最も大きく、最も高齢な個体」だけであり、その推定年齢はおよそ40歳であった。
T.レックスは、性成熟自体はもっと早くに迎えるが、そこからさらに体を巨大化させ続け、40歳でようやく名実ともに完成された最も恐れられる肉食恐竜の1種となったのだ。
References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1112347] / Peerj[https://peerj.com/articles/20469/]











