全身が凍結し心臓が停止しても蘇るカエル。驚異の生存戦略が「臓器移植」の未来を変える
凍結しているが生きているカエル Image credit:Janet M. Storey.

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 冬に全身が凍り付き、心臓が停止しても、春になれば再び息を吹き返す。アラスカに生息するカエルが持つ驚異の「蘇り」能力が今、人間の臓器移植医療に革命を起こそうとしている。

 アカガエル科のウッドフロッグは氷点下の森で生き抜くため、血液や体液を「天然の不凍液」に変化させて、自ら「死」に近い状態を作り出す。

 医学的に見れば死んでいるも同然の状態だが、組織を破壊されることなく蘇ることができるのだ。

 そのメカニズムこそが、移植用臓器の保存という「時間の壁」に挑む医療の希望となるという。

凍結と解凍を繰り返す驚異の生命力

 冬のアラスカの森を散歩していると、足元の落ち葉の下に、凍り付いて死んでいるかのようなカエルが見つかることがある。

 その目は氷で白く濁り、触ると石のように硬い。心臓は鼓動を止め、肺は動かず、脳の活動さえも停止している。

 アメリカ・マサチューセッツ総合病院のシャノン・テシエ博士は、この状態を「あらゆる意味で、臨床的に死んでいる」と表現する。

 このカエルはアカガエル科アカガエル属(Lithobates sylvaticus)の仲間でウッドフロッグと呼ばれている。

 彼らは他のどの両生類よりも北、北極圏を越えた場所にまで生息している。多くのカエルが水中で越冬するのに対し、ウッドフロッグは落ち葉の下に潜り込み、あえて寒さに身を任せる。

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 気温が氷点下になると、体内の水分の65%から70%が氷に変わる。同病院の生物学者ラシャ・アルアタル氏は、「凍ったカエルを持つと、文字通り石のようだ」と語る。

 しかし、春が訪れて気温が上がると、カエルは解凍され、再び心臓が動き出す。

 アルアタル氏によれば、彼らは「何事もなかったかのように一日を過ごし始める」のだという。しかもこの復活劇は一度きりではない。

 アラスカ大学フェアバンクス校のドン・ラーソン博士らの研究によると、自然界のウッドフロッグは冬の間、何度も凍結と解凍のサイクルを繰り返しているという。

 -18°C以下の環境で、最大7カ月もの間、凍った状態から息を吹き返すのだ。

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体内で作られる「天然の不凍液」

  通常、生き物は凍り付くと死んでしまう。それは、細胞の中に氷の結晶ができ、それが鋭い刃物のように細胞膜を内側から突き破ってしまうからだ。

 ウッドフロッグはこの物理的な破壊を防ぐため、ただ寒さに任せて凍るのではなく、あえて自分から凍りに行くという巧妙なトリックを使う。

 彼らは体温が下がり始めると、血液中にある特殊なタンパク質を「氷の種」として使い、細胞の「中」ではなく「外側」にある水分を先に凍らせるスイッチを入れるのだ。

 ここからがすごい。

 細胞の外側が凍り始めると、その影響で細胞の「中」にある水分が、まるで脱水されるように外へと吸い出されていく。

 水分が抜けた細胞は水風船のようにしぼむが、そのおかげで中身は糖分が濃縮され、ドロドロのシロップのような状態になる。

 シロップは不凍液のようなもので水よりもずっと凍りにくい。こうして、命の最小単位である細胞の「内部」だけは凍結から守られるのだ。

 このとき、肝臓からは大量のグルコース(ブドウ糖)が放出され、腎臓は尿素を溜め込むことで、血液はより強力な「天然の不凍液」へと変化している。

 さらに、冬に備えてエネルギー源となるグリコーゲンを蓄え、物理的な圧力に耐えられるよう細胞膜を強化し、酸化ストレスから身を守る抗酸化物質まで増やして備えている。

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 また、別の方法で不凍液」を作るカエルもいる。

 コープハイイロアマガエル(Hyla chrysoscelis)は、グルコースの代わりに「グリセロール」という物質を体内に蓄積する。

 グリセロールは別名「グリセリン」とも呼ばれ、化粧品の保湿成分や食品添加物としても使われる身近な物質だ。

 オハイオ州・デイトン大学のカリッサ・クレイン博士によれば、グリセロールは細胞膜を通してバランスをとり、解凍時に急激に水分が細胞内に流れ込んで破裂するのを防ぐという。

 遺伝子レベルでも、このグリセロールを分解しないような調整が行われていることが確認された。

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人間の移植用臓器の保存は数時間が限界

 このカエルの能力は、人間の医療にとってとてつもない可能性を秘めている。

 現在の移植医療において、最大の敵は「時間」である。ドナーから摘出された心臓や肝臓は、氷で冷やされた状態でもわずか数時間しか生きられない。

 マサチューセッツ総合病院のコルクート・ウイグン博士は、「臓器を氷の袋に入れて、数時間以内に患者のもとへ走らなければならない」と現状を語る。

 この厳しい時間制限のため、臓器を保存しておくことも、遠くへ運ぶこともできない。

アメリカでは毎日約13人が移植を待ちながら亡くなっており、待機リストには8分に1人のペースで新たな患者が加わっているのが現実だ。

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カエルの能力を臓器保存に応用する

 もし、カエルのように移植用臓器を長期間凍らせても、何の問題もなく解凍できれば医療革命となる。

 トナー博士らのチームは、カエルの「細胞の外側で氷を作る」という戦略に注目し、細菌由来の成分を使い、細胞の外側で安全に氷を作らせる技術を開発している。

 また、ウッドフロッグの高濃度グルコースもヒントになった。

 しかし、人間の細胞にとって大量の糖分は毒になる。そこで研究チームは、細胞が代謝(消費)できないように加工した「グルコース類似体」を開発した。これを使えば、エネルギーとして燃やされることなく、不凍液としての役割だけを果たしてくれる。

 この技術を使い、ラットの肝臓を4日間保存することに成功した。さらに、1週間以上凍結保存したブタの腎臓を移植し、機能させることにも成功[https://cse.umn.edu/college/news/nsf-funded-researchers-successfully-transplant-cryopreserved-pig-kidney]している。

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 さらにカエルの研究は、「虚血再灌流(きょけつさいかんりゅう)障害」という難題にも光を当てている。

 これは、血流が止まっていた臓器に再び血が流れた瞬間、急激に酸素が流れ込むことで、かえって組織がダメージを受けてしまう現象だ。

 カエルはこのショックを無傷で乗り越える。その仕組みが解明されれば、移植の成功率は飛躍的に上がるだろう。

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複数の技術を調和させ未来の医療を作る

 他にもある。

カエルは凍結のみならず、代謝を極限まで落とし、生命活動のレベルを下げて冬をやり過ごす。

 これにならい、研究チームは哺乳類の細胞に代謝を遅らせる薬を投与する実験も行っている。

 「『これさえあれば全て解決』という魔法の薬など存在しない」とウイグン博士は語る。

 カエルの体内では、不凍液作り、氷の制御、代謝の低下など、多くのプロセスが複雑に絡み合っている。

 それを再現するには、まるでオーケストラが指揮者に合わせて演奏するように、すべての要素を完璧なタイミングで調和させる必要があるのだ。

 カエルたちは、ただ厳しい冬を越すために凍っている。だが、その生存戦略は、人類が直面している問題を解決する鍵を握っている。

 森の中で、カエルはまず脳と心臓から解凍され、数時間後には元気に動き出す。その復活劇は、未来の医療が私たちの足元で、春を待つように眠っていることを教えてくれている。

 この研究成果は『The Scientist[https://www.the-scientist.com/freeze-tolerant-frogs-power-organ-cryopreservation-strategies-73904?utm_source=DamnInteresting]』誌および関連する科学誌に掲載された。

References: Freeze-Tolerant Frogs Power Organ Cryopreservation Strategies[https://www.the-scientist.com/freeze-tolerant-frogs-power-organ-cryopreservation-strategies-73904?utm_source=DamnInteresting] / These Frogs Freeze Solid Until Their Hearts Stop For Months.[https://www.zmescience.com/science/news-science/wood-frogs-alive-frozen/]

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