北米の冷たい海に、頭蓋骨のてっぺんに「謎の穴」を持つ奇妙な魚がいる。
アメリカ・ルイジアナ州立大学の研究チームがその謎を探るべく調査を行ったところ、この穴は自分の肋骨を筋肉でバチのように頭蓋骨の内側を打ちつけて、穴から音を響かせる、天然の楽器のような役割を果たしている可能性が高いという。
トクビレ科のボスラゴナス・スワニ(Bothragonus swanii)は、波打ち際という波や石が転がる騒音の激しい場所で、音がかき消されないよう、独自の「骨ドラム」を使って、その振動で仲間とコミュニケーションをとっているというのだ。
人差し指サイズの体にグリーンピース大の穴
ボスラゴナス・スワニ(Bothragonus swanii)は、アラスカからカリフォルニアにかけての浅瀬の岩場に潜む、全長9cmほどの小さな魚だ。英語ではロックヘッド・ポーチャー(Rockhead poacher)と呼ばれる。
トクビレ科サイトクビレ属に分類され、体はゴツゴツした硬い鎧のような骨板で覆われている。
最大の特徴は、頭の真ん中にあるボウル状の深い窪みだ。
今回の研究には参加していないが、ワシントン大学の生物学者アダム・サマーズ氏は、頭蓋窩(とうがいか)と呼ばれるこの穴について「人差し指サイズの魚なのに、頭にはグリーンピースを隠せるほどの穴がある」と、その奇妙さを語る。
長年、この穴は岩場や海綿に紛れるための擬態や、感覚器官の一部だと考えられてきた。
しかし、ルイジアナ州立大学の魚類学を専攻する大学院生、ダニエル・ゲルドフ氏は、もっと能動的な機能があるのではないかと考え、この穴の役割を探った。
肋骨をバチにして頭を叩いて振動させる
ゲルドフ氏は、1ミクロン以下の解像度で内部を透視できる超高性能なマイクロCTスキャナーを使い、頭部の詳細な3Dモデルを作成したところ、驚くべき骨の構造が映し出されていた。
この魚の第一肋骨は異常に大きく、平らな形をしており、頭の穴の底にある硬い骨に接していたのだ。
さらに、他の肋骨が背骨に固定されているのに対し、この第一肋骨だけは自由に動かすことができ、体内でも最強クラスの筋肉と腱につながっていた。
つまり、強力な筋肉で肋骨を動かし、頭蓋骨の穴を内側から叩くことで、強い振動を生み出すことができる構造になっていたのだ。
実際、同じトクビレ科の魚には、手で持つとブーンと振動を感じるほど唸り声を上げる種が多く存在することも、この説を後押ししている。
すべては仲間とコミュニケーションをとるため
なぜこれほど大掛かりな仕組みが必要なのか。それはこの魚たちの住処が、生物学者が「海の中のニューヨーク」と例えるほど騒がしい場所だからだ。
彼らが暮らす浅瀬の潮だまりは、激しく打ち寄せる波の音や、水流で転がる石の音が絶えず響き渡っている。
そんな環境では、一般的な魚のように浮袋や歯を使って水中に音を響かせても、騒音にかき消されてしまう。
そこで彼らは、頭の穴をドラムのように響かせて振動を増幅させ、仲間とコミュニケーションをとる道を選んだのだ。
ゲルドフ氏は、このシステムは騒がしい環境に適応して進化した可能性が高いと考えている。
彼らは泳ぐのが苦手で、胸ヒレを使って海底を這うように移動する。
そのため、水中音ではなく、海底の岩そのものを揺らす地響きのような振動を使ったほうが、近くにいる仲間に確実にメッセージを伝えられる。
あの大きな頭の穴は、騒音だらけの世界で生き抜くために備わった、高性能な通信デバイスなのかもしれない。
あくまでも仮説の段階だが理論に自信
もちろん、これはまだ解剖学的な証拠に基づく仮説にすぎない。実際にこの魚が頭を叩いている姿を見た者も、その振動を計測した者もまだいないからだ。
それでもゲルドフ氏は、この理論に自信を持っている。
「もし誰かがこの魚の音を録音しているなら、それを聞くためなら自分の腕を差し出してもいいくらいだ」と語り、いつか水中マイクを使ってその演奏を証明したいと願っている。
References: LSU[https://www.lsu.edu/blog/2025/12/geldof-rockhead-poacher.php] / SCI[https://www.sci.news/biology/rockhead-poacher-fish-cranial-pit-14481.html] / Repository.lsu.edu[https://repository.lsu.edu/gradschool_theses/6270/] / Science[https://www.science.org/content/article/fish-seems-use-its-bizarre-skull-drum]











