こと座にある美しいリング状の環状星雲「M57」の内部で、これまで知られていなかった棒状の構造が発見された。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)などの研究チームが最新の観測装置を用いて捉えたのは、電離した鉄原子が巨大な帯状に集まった領域である。
この鉄の構造は火星1個分に匹敵する質量を持ち、その長さは冥王星の公転軌道の約500倍にも達する。
研究チームは発見された構造が、死にゆく星によって飲み込まれた岩石惑星の残骸である可能性を指摘している。
宇宙に浮かぶ巨大な鉄の正体は、星の最期と惑星の運命を解き明かす重要な鍵となるかもしれない。
2500光年先の環状星雲M57は死にゆく星の姿
環状星雲(M57、NGC 6720)は、1779年にフランスの天文学者シャルル・メシエ氏によって発見された天体である。
地球から約2500光年という比較的近い距離にあり、その美しいリング状の姿からドーナツ星雲とも呼ばれ、多くの天文ファンに親しまれてきた。
環状星雲は燃料を使い果たした恒星が外層のガスを剥がして形成された典型的な惑星状星雲である。
環状星雲の中心には、かつて太陽のように輝いていた恒星の燃えかすである白色矮星が残されている。
白色矮星が放つ強烈な紫外線が、周囲に広がるガスを電離させて光らせることで、環状星雲の鮮やかな姿が形作られている。
私たちの太陽も約50億年後には燃料を使い果たし、恒星が外層のガスを放出して星雲を作るという環状星雲と共通の過程を経て、その一生を終える。
最新装置が星雲内に謎の鉄の棒を検出
環状星雲は古くから研究されてきた天体だが、最新の観測装置であるWEAVEが星雲の内部に隠されていた新たな構造を明らかにした。
カナリア諸島のウィリアム・ハーシェル望遠鏡に設置されたWEAVEは、何百本もの光ファイバーを束ねたユニットにより、星雲のあらゆる地点から届く光を細かく分析できる。
英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のロジャー・ウェッソン博士を中心とする研究チームがWEAVEのデータを解析したところ、リング状に広がるガスの内側に、電離した鉄原子が密集して棒のような形を作っている領域が鮮明に浮かび上がった。
これまでの望遠鏡では捉えることができなかった、星雲の中心部に横たわる巨大な鉄の構造が、今回の調査で初めて発見されたのだ。
火星1個分の鉄原子が集まった巨大な棒状構造
発見された鉄の構造は、天文学者の予想を超える規模であった。
鉄の構造に含まれる鉄の総量は火星1個分の質量に匹敵し、鉄の棒の長さは冥王星の公転軌道の約500倍という、太陽系全体をいくつも並べられるほど巨大なものである。
電離した鉄原子とは、恒星が放つ強いエネルギーを受けて、原子から電子が飛び出したプラズマ状態の鉄を指す。
巨大な鉄の帯がなぜ星雲の中央に存在するのか、その形成理由については現在2つの説が検討されている。
1つは、親星からガスが放出される際の複雑な物理現象によって鉄が集まったという説であり、もう1つは、恒星の周囲を回っていた惑星が消滅したという説である。
鉄の帯は恒星に飲み込まれた岩石惑星の残骸か
研究チームが特に注目しているのは、かつて恒星の周囲を回っていた地球のような岩石惑星が、巨大化した恒星に飲み込まれて蒸発したという説である。
惑星を構成していた鉄成分が恒星の熱で溶け出し、プラズマの帯となって宇宙空間に残されたという考えだ。
惑星蒸発説が正しければ、今回発見された鉄の棒は、かつて存在した惑星が熱によって分解された成れの果てということになる。
共同著者のジャネット・ドリュー教授は、鉄と一緒に他の元素がどのように存在しているかを詳しく調べることで、惑星蒸発説を検証しようとしている。
マグネシウムなどの特定の元素が鉄と共に見つかれば、惑星が蒸発して鉄の構造が作られた決定的な証拠となるからだ。
星の終焉が教える太陽系と物質循環の未来
今回の発見は、遠い宇宙の出来事であると同時に、地球や太陽の未来を示唆している。
恒星が放出した物質は、長い時間をかけて宇宙空間を漂い、やがて次の世代の星や惑星、さらには生命を形作る材料になる。
環状星雲で見つかったミステリアスな鉄の棒は、恒星がその一生を終えるときに、どのような物質を宇宙へ受け継いでいくのかを教えてくれる貴重な証拠である。
研究チームは今後、さらに高精度の観測を行い、鉄の構造が惑星由来のものかどうかの確証を得る予定だ。
宇宙を循環する物質の謎を解明することは、私たちの太陽系が約50億年後にたどる将来の運命を深く理解することにつながるだろう。
この研究成果は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society[https://academic.oup.com/mnras/article/546/1/staf2139/8425243]』誌(2026年1月16日付)に掲載された。
References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/multimedia/1110105] / Academic.oup.com[https://academic.oup.com/mnras/article/546/1/staf2139/8425243]











