1986年に南極から分離した世界最大の氷山A23aが、40年という長い歳月を経て、ついに消滅の時を迎えようとしている。
その歴史の大部分を海底に固定された状態で過ごしたこの巨大な氷の塊は、2020年から再び北へと旅を始めた。
現在は暖かい海域に到達し、表面が鮮やかな青色の融解水で満たされるという、劇的な変化を見せている。
NASAの衛星や国際宇宙ステーション(ISS)が捉えた最新の画像は、かつての王者が崩壊し、自然に還るまでのドラマチックな最期を物語っている。
氷山の女王が歩んだ波乱の40年
氷山A23aの物語が始まったのは1986年のことだ。日本では初代ドラゴンクエストが発売されて空前のゲームブームが巻き起こり、スタジオジブリの名作映画「天空の城ラピュタ」が公開されたあの年に、この巨大な氷山は南極で産声を上げた。
南極のフィルヒナー・ロンネ棚氷から分離した際、その面積は約4000 km2と東京都の約2倍近い圧倒的な規模を誇っていた。
驚くべきはその厚みで、約400 mに達する。これは2023年に開業した日本一の超高層ビル、麻布台ヒルズ(330 m)を上回る高さだ。
かつてはこの氷山の上に旧ソ連の研究基地ドルジュナヤ4が置かれていたが、分離によって基地が漂流し始めたため、当時の科学者たちが急いで機材を回収したという歴史的なエピソードも残っている。
しかし、この巨大な氷は自由になってすぐ、ウェッデル海の浅瀬で海底に捕まり、身動きが取れなくなった。
それから30年以上にわたり、A23aは氷山の女王として同じ場所に留まり続け、時の流れから取り残されたかのように沈黙を守っていた。
氷を浸食する青い融解水の脅威
変化が訪れたのは2020年のことだ。海底の束縛から解き放たれたA23aは、南極を離れて北へと本格的な漂流を始めた。
カラパイアでは2023年に、海底を離れて動き出したこの氷山のニュースを伝えている。
2024年には、探検家シャクルトンがかつて遭難後に脱出したルートを辿るように、氷山の路と呼ばれる海域を進み、イギリス領サウスジョージア島へと接近した。
2025年12月26日にNASAの地球観測衛星テラが捉えた画像は、A23aが水浸しの状態にあることを示している。
氷山の面積は2026年1月初旬の時点で1182 平方kmまで縮小した。これは全盛期の3分の1以下のサイズだ。
衛星画像に見える鮮やかな青色のエリアは、構造的な強さを失った氷の表面に形成された融解池である。
氷の中の気泡が抜けるため、溶けた水は美しい青色に見える。氷の亀裂に入り込んだ水の重さがくさびのような役割を果たし、氷山を内側から押し広げて崩壊を加速させている。
氷山の縁には、青い水をせき止める白い氷の堤防が見られる。これは、科学者が城壁とお堀と呼ぶ独特の形だ。
氷の端が水面と接する境界部分で溶けて軽くなることで、縁が上向きに反り返り、内側に水を溜める堤防のような形が生まれる。
また、頂部に溜まった水の重さは、時に氷の壁を突き破る噴出を引き起こし、大量の真水が海面へと激しく流れ落ちる。
崩壊は目前、数百年前の記憶を刻んだ縞模様
A23aの表面を横切る青と白の縞模様は、この氷山がたどってきた遠い過去の記憶を呼び覚ますものだ。
この縞模様は専門用語で「線条(せんじょう)」と呼ばれるもので、筋状の模様や、ひっかき傷のような細長い溝のことを指している。
この線条は、実は数百年前、まだこの氷が南極大陸の岩盤の上をゆっくりと移動する氷河の一部だった頃に、地面の岩に削られてできた傷跡なのだ。
アメリカ国立雪氷データセンター(NSIDC)のウォルト・マイヤー博士は、氷が流れる方向に沿って刻まれたこれらのわずかな溝が、現在の融解水の通り道となり、美しい縞模様を作り出していると解説している。
長年降り積もった雪や、底面からの融解にもかかわらず、消滅間際になってこれほど鮮明な過去の傷跡が現れたことに、研究者たちは驚きを隠せない。
しかし、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士が2025年12月27日に撮影した写真では、この線条模様はすでに曖昧になり、より均一な青い池へと変化していた。これは、氷山の崩壊が秒読み段階に入っていることを如実に物語っている。
生命を育む氷山の墓場での終焉
現在、A23aは約3℃という、氷山にとっては致命的に暖かい海水の中に浮かんでいる。
この海域は専門家の間で氷山の墓場と呼ばれており、海流が氷山をさらに過酷な環境へと運んでいる。
メリーランド大学ボルチモア校の元研究員であるクリス・シューマン博士は、A23aがこの南半球の夏を乗り切ることはまずないと予測している。
かつてはサウスジョージア島のペンギンやアザラシの餌場を塞ぐのではないかと危惧されたA23aだが、崩壊して溶け出すことは悪いことばかりではない。
氷山が溶けると、氷河だった時代に大地から取り込まれた豊富なミネラルが海に放出される。
これが海の食物連鎖を支える大切な栄養源となり、新たな生命を育む出発点となるのだ。
A23aが自然へと還っていく一方で、南極の海岸線にはA81やD15Aといった、1500 km2を超える面積を持つ次なる氷山たちが控えている。
科学者たちは、この40年におよぶドラマチックな航海を記録できたことに感謝しつつ、次なる氷山たちが旅を始める瞬間を見守っている。
この研究成果は『NASA Earth Observatory[https://science.nasa.gov/earth/earth-observatory/meltwater-turns-iceberg-a-23a-blue/]』誌(2026年1月8日付)に掲載された。
References: Science.nasa.gov[https://science.nasa.gov/earth/earth-observatory/meltwater-turns-iceberg-a-23a-blue/]











