アイルランド北西部のドニゴール郡で、1万5000匹もの生きたカニを積んだ大型トラックが道路脇に転落する事故が発生した。
荷台からあふれ出したカニの軍団は、わずか50m先にある海を目指して一斉に脱走を開始し、現場は騒然となった。
レッカー業者の呼びかけにより、地元の漁師や住民など約80名がボランティアとして集結し、真夜中の野原で18時間に及ぶ異例の回収作業が繰り広げられた。
真夜中の道路をカニ軍団が占拠
アイルランドのバーンフットでレッカー業者を営むオードラン・マクラフリンさんは、2026年1月上旬の月曜日の朝、トラックが横転したという通報を受けた。
ドニゴール郡の幹線道路に急行したマクラフリンさんを待っていたのは、横転したトラックと、荷台から逃げ出したあふれんばかりのカニの大群だった。
実はこのトラック、地元アイルランドの漁師が捕獲した約1万5000匹ものヨーロッパイチョウガニを積み、ポルトガルのレストランやショップへ向かう途中だったのだ。
積載されていたカニの市場価値は、日本円にして約1000万円から1500万円相当にものぼる。
午前7時30分頃に起きた事故で運転手に怪我はなかったものの、衝撃でアルミ製のコンテナが破裂したことで、カニ軍団が一斉に動き出した。
カニたちは、事故現場からわずか50mほど先に広がる大西洋を目指し、道路や隣接する野原を横歩きで移動し始めたのである。
約80人の地元住人たちと18時間に及ぶカニの回収作業
マクラフリンさんの本業は自動車の解体やレッカー移動であり、生きている甲殻類の扱いに精通しているわけではなかった。
そこでマクラフリンさんは、近隣の村に助けを求めた。すると、地元のカニ漁師や獣医をはじめ、大人から子供まで約80人のボランティアが現場に駆けつけた。
回収作業は深夜にまで及び、カニを確実に見つけ出すために巨大な夜間照明が設置され、大型の油圧クレーンも投入された。
住民たちは手に土嚢袋を持ち、野原を逃げ惑うカニを一匹ずつ丁寧に拾い上げては袋に詰めていく地道な作業を繰り返した。
この前代未聞の回収作業は、当局が道路を封鎖する中で約18時間も続き、最終的には全個体の約95%を回収することに成功した。
残念ながら回収されたカニは廃棄処分
マクラフリンさんは、地域の人々が一丸となって協力してくれたこの出来事を一生忘れることはないだろうと語っている。
現場では、マクラフリン・トランスポート社のミッキー・ハイボー・マクラフリンさんたちも協力し、一匹ずつ手作業でカニをコンテナに積み戻した。
一方で、回収されたカニたちの運命は過酷なものとなった。
海へと辿り着き自由を掴み取った幸運な個体もわずかにいたようだが、回収されたカニたちは一連の事故によるストレスや環境の変化から、食用には適さないと判断された。
残念ながら、最終的にはすべて廃棄処分されることになったという。
事故の原因については、欧州から来た大型車の運転手がドニゴール特有の狭い田舎道に慣れていなかった可能性が指摘されている。
マクラフリンさんは、これほど奇妙な現場は初めてだと話し、もし次にカニを見る機会があるとしても、それはずっと先のことにしてほしいと冗談めかして語った。
で、そのお味は?ヨーロッパで愛されるカニの王様
今回脱走したヨーロッパイチョウガニは、ブラウンクラブとも呼ばれ、ヨーロッパではカニの王様として非常に人気が高い。
甲羅の縁がパイ生地の端のようなギザギザした形をしているのが特徴で、大きな個体は甲羅幅が30cm、重さ3kgにも達する。
日本のカニ好きにとってもたまらない魅力を持っており、ハサミや脚に詰まった白い身は繊維が太く、噛むほどに強い甘みが溢れ出す。
さらに特筆すべきは、甲羅の中にある濃厚な茶色の身、いわゆるカニ味噌の部分だ。日本のズワイガニや毛ガニのカニ味噌よりもさらにクリーミーで、ナッツのようなコクがあるといわれている。
現地では丸ごと茹でて冷まし、身と味噌を甲羅に綺麗に盛り付けたドレスド・クラブ(Dressed Crab)として楽しむのが一般的だ。
また、その濃厚な出汁を活かしたビスクやパスタソース、サンドイッチの具材としても珍重されている。
多くの人が協力し、必死に回収した理由もこれでわかるだろう。
References: Donegaldaily[https://www.donegaldaily.com/2026/01/13/donegal-workers-get-their-claws-in-to-save-15000-stranded-crabs-1-2/]











