アメリカのアラスカ大学のアートギャラリーで、展示されている作品を壁から引きはがし、口に入れて噛んだり吐き出したりしていた男が逮捕された。
この男はアラスカ大学の学生で、生成AIを用いて制作された作品への反発により、この行為に及んだという。
破損したのは、美術学修士課程の学生が手がけたAI協働シリーズで、展示されていた160点のうち少なくとも57点に被害が及んだ。
この出来事は、生成AIと人の手による芸術作品の、いわば「表現の境界をめぐる議論」を呼び起こした。
アートギャラリーで展示作品を食べた男が通報される
2026年1月13日、アラスカ大学フェアバンクス校(UAF)の学生が、学内のアートギャラリーで作品を壁から引きはがし、口に入れて食べたとして拘束された。
同ギャラリーでは美術学修士(MFA)候補生5人による展覧会「This is Not Awful(ひどいってほどでもない)」が、2026年1月12日~23日に開催されていた。
警察の説明では、この日ギャラリー内で、1人の男が展示物を壁から引きはがし、口に入れて食べているという通報があったという。
被害に遭ったのはポラロイド風の写真の小さな展示作品で、160点のうち少なくとも57点が破損しており、被害額はおよそ220ドル(約33,800円)程度と見積もられた。
被害に遭ったのは生成AIで制作された作品
これらの作品は生成AIを使用して作られたもので、展示のタイトルは「Shadow Searching: ChatGPT Psychosis(影の探索:ChatGPT精神病)」。制作したのは、MFAのニック・ドワイヤーさんだ。
彼は自分の作品について、アイデンティティやキャラクターの物語生成、偽の記憶の構築など、人工知能との長期にわたる相互作用による心理的負担を探求するものだと説明している。
一連の作品は、ドワイヤーさん自身が「AI精神病(AIサイコーシス)」と呼ばれる状態にある中で制作されたものだという。
AI精神病とは、チャットGPTなどの対話型生成AIチャットボットと持続的なやり取りを重ねる中で、依存や現実感の喪失を招き、判断や認知が歪んでいく状態を指す。
正式な医療用語ではないが、チャットボットユーザーの急増にともなって、メディアなどで取り上げられるようになった「俗称」である。
つまりドワイヤーさんは、チャットボットが原因で起こったメンタルヘルスの問題を自覚したうえで、それをAIアートという形で表現したというのだ。
また、彼は2017年か2018年ごろからAIを作品に取り入れ始めたが、以前は、そうした技術を使わずに制作してきたのだそうだ。
芸術をつくるとき、人は無防備になります。だから作品も無防備になる。そのことが、作品をより生きているように、より現実的で、その瞬間に存在しているように感じさせるのです
生成AIに反感を覚え発作的に犯行に及ぶ
身柄を拘束されたのはグレアム・グレンジャー容疑者で、映画・舞台芸術を専攻する学部生である。
本人によれば、当日は友人の授業待ちで校内を歩いているうちにギャラリーに入り、展示されている作品が生成AIによるものであることを知ったという。
事前に展示を知っていたわけではなく、発作的に行為に及んだもので、計画的ではなかったとも述べている。
グレンジャー容疑者は身柄を確保された後、数時間拘留され、現在は保釈されている。事件について聞かれた彼は、次のように述べている。
展示されている他の作品の大半には感心していたんですが、AI生成の作品を見て、労力の少ないものが他の作品と並ぶことが侮辱的に感じられたんです
彼はその後、アラスカ州法におけるB級軽犯罪にあたる「5級刑事器物損壊」の罪で起訴された。
現在はギャラリーへの立ち入りとドワイヤーさんへの接触を禁じられた状態で、裁判を待っているところだそうだ。
学生自治組織は美術学科におけるAIアート使用に反対を表明
また、アラスカ大学フェアバンクス校の学生自治組織は、美術学科におけるAIアート使用に反対する決議を全会一致で可決したと伝えられている。
犯人であるグレンジャー本人も、この決議を行った会議に出席し、自ら犯行の状況について説明したそうだ。
事件は生成AIに関する様々な議論を呼ぶ
このニュースが流れると、ネットではさまざまな意見が飛び交った。
生成AIへの反感については理解や擁護する声も上がったが、57枚もの作品を「食べた」ことに関しては非難の声が上がった。
- もし彼に印刷代以上の補償を請求しようとしたら、ちょっと面白い展開になるかもな。というか、57枚も食べたことに感心してる人いない? 紙だぞ、あれ。
かなりの量だろ- 公共のギャラリーでAIアートを展示することには反対って立場には同意するけど、57枚も食べるのはさすがにクレイジーだ。
- 正直、大学のギャラリーがAIアートをやってること自体に驚いたよ
- この10年の大学のやり方を見てたら、全然驚かないけどね
- 2026年にアートの学生やってて、AIアートが存在しないフリはできないでしょ。アート史には、そもそも「芸術とは何が」という問いを揺さぶるジャンルがずっとある。これはその最新バージョンってだけ。
- AIアートを食べたこの男も、一種のパフォーマンスアーティストだろ。紙を食べるくらい、変なパフォーマンスアートの中ではかなりマイルドな部類だ
- AI生成の作品を食べる行為そのものが、もうパフォーマンスアートとして成立してるってことだな
- 生成AIは「盗用」をベースにしたオートコンプリートだよ。原作者に1円もクレジットも行かないなら、プロンプト打ってる連中も同じ扱いでいい
- みんなやたら感情的で変な受け取り方してるよな。AIで生成したものを作品に使ったとして、入力や出力をどう扱うか、そこにかけた作業は自分の作品だと思う。例えば動画編集者なら、どのカットを選ぶか、どう並べるか、どこで切るか、どれくらいの長さにするかとかさ
- 編集者というよりディレクターに近いと思う。AIに指示を出して何テイクも試して、そこから詰めていく。映画監督と同じだよ
- いま美術系の学術プログラムに通ってる人間なら、AIアートについて考えたり議論したりしてないわけがない。あれはこの世界でかなり大きなテーマだ
- 信じるかどうかは別として、AIみたいな発想自体はアートの世界では新しいものじゃない。
1900年代初頭にさかのぼれば、マルセル・デュシャンのレディメイド[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%89]がある。AIアートにもギャラリーに居場所はあると思う
- ただし、その作品がAIアートの影響そのものをテーマにしている場合に限るけどね。単に技術がない、もしくは楽したいからAIで作った、みたいなの問題外
- AIアートを嫌うのは自由だけど、自分のものじゃない財産を壊すのは違法行為だ。逮捕されて当然だと思う。
グレンジャーの犯行シーンといわれている画像もあるのだが、実はこの2枚にも生成AI疑惑が持ち上がっている。
服の模様や背景が微妙に違うというのだが、みんなはどう思うだろうか。
生成AIは既に我々の生活のさまざまな部分に入り込んでいる。ChatGPTやジェミニのようなAIは、ビジネスシーンはもちろん、チャットボットとして若い世代のおしゃべり相手としても浸透し始めている。
さらに画像生成や動画生成、音声生成、音楽生成、データ生成、コード生成など、生成AIが使われている分野は枚挙にいとまがない。
ショート動画などは生成AIを使った低品質なコンテンツ、いわゆる「AIスロップ」であふれかえっていて、もう何を信じていいのかわからないレベルである。
生成AIをめぐる法整備の遅れ
生成AIを巡る課題は、著作権や責任の所在といった法整備の遅れだけでなく、他者の創作物を学習に用いることへの倫理的な懸念にも及んでいる。
生成AIを使えば、誰でも簡単にブログを開設し、画像や動画を投稿し、コードを書くことができるようにはなった。
だが一見もっともらしく見える内容でも、正確性や一貫性は保証されておらず、ハルシネーション(幻覚)をはじめとする技術的な不確実性を抱えたままである。
生成AIに対する根強い反感も相まって、今後もこんな事件は起こるかもしれない。もっとも物理的に食べてしまうのは、また別の問題な気もするけれど。
References: US Man Eats Another Student's AI Artwork In Protest, Detained By Police[https://www.ndtv.com/offbeat/us-man-eats-another-students-ai-artwork-in-protest-detained-by-police-10831059]











