なじみある5本指でも別物だった。”手”の概念を超える奇妙なロボが登場。
表裏なしの完全対象設計により、一度に複数の物をつかめ、アームから分離して”指先”でちょこちょこ這って移動もできる。
つまり”手”だけが単体で物のそばまで移動し、それを拾って運ぶことまでできるのだ。
タコや蜘蛛を彷彿させる動きに加え、SFやホラーの要素も感じさせるが、これが実に効率的。
この研究成果は『「Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-67675-8]』誌(2026年1月20日付)」 に掲載された。
対称性がもたらす“裏表なしの手”
人間の手は器用だが、構造的には偏りがある。親指は片側にしかなく、手のひらと手の甲では役割がまったく違う。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームは、この“非対称性”こそがロボットハンドの応用範囲を狭めていると見抜いた。
そこで生まれたのが、完全対称の可逆指(reversible finger)を備えたロボットハンド。総重量は約5ポンド(約2.3kg)だそう。
5本指だが、その構造は人間の手とは大きく異なり、手のひら側と甲側の区別がない。
また指が手のひらの表裏どちら側にも曲げられるため、しっかり物を握りつかむこと(把持:はじ)ができる。
この構造は、EPFL公式リリースでは「dual-thumbed, reversible-palm design(両側に親指を持つ可逆パーム構造)」と表現されている。
バイオミメティクス?タコや蜘蛛という声も
この可動域の拡大により、人間の”つかみ動作”の33種類を再現でき、最大3つの異なる物体を同時につかむことができる。
こちらの動画では、器用な指でマスタードのボトルをつかんだ直後に反転し、反対側で別の容器もつかむという離れ業を披露。
こうした動きは自然界の生物が持つ、“方向性のない動き”にも通じる。
一部メディアでは、その柔軟さがタコの触腕を想起させるとして、生物模倣(バイオミメティクス)的な視点で紹介されている。
アームから着脱可能で這う新たな手段
それだけではない。なんとこちらのロボは着脱可能。アームから離れ、単体でも自律的に移動するそう。
その際は指が”脚”も兼ね、下向きの指を順番に曲げ伸ばし、まるで昆虫や蜘蛛のように床を這ってちょっとずつ前進する。
研究ではこれを「crawling locomotion(這行動(はいこうどう))」と呼んでいる。
目標がバナナ(模型)のときはじりじりと這って接近、指で跳ね上げ、背面に固定した。
しっかり背負えば動いても落とすことなく運搬できる、というわけだ。
この機能があれば、狭いところにある物も回収できる。
目当ての物が十分に小さければ、たくさんあっても往復すれば運び出せる。単体で探索と回収までこなせる点はとても便利だ。
複数物体を同時に扱う“マルチハンドリング”
このように対称設計と可逆指から成るロボットハンドは、複数の物体を器用にしっかりつかむだけでなく、そのまま移動もできる。
「ボールを指でつかみ、同じ手の甲側で別の物をつかむ」など人間の手ではまず無理だ。さらにそのまま持ち運ぶなどとてもできそうにない。
だが研究チームが活用したのは人間の手のデータだ。
彼らはまず、人間の手の把持データを集め、アルゴリズムで最適な指の配置と可動範囲を導き出した。そして生まれたロボットハンドが、多方向からのアプローチを実現した。
5本が最も効率的。指が増えても不便
こんなロボットなら「いっそ5本にこだわらず、8本ぐらいに増やせばいいのに」と思う人もいるしれない。
ところが興味深いことに、このロボットハンドの設計はそうした直感を否定している。
実は研究チームは、人間の把持データと這う動き、それぞれに必要な条件を数理的に解析し、その両方を満たす“ちょうどいい指の本数と配置”を探った。
その結果が「5本指が最も効率的」という結論だ。それより多いと全体の重さが増えて這いにくなり、指同士がぶつかって制御も複雑になる。
つまりこのロボットに限っては多すぎるとかえって不便、というわけだ。
理由は違えど人間と同じ5本指の面白さ
その結果を知った上でも面白いのが、結局人間の手と同じ5本指になった点だ。
人間の手が進化の偶然と制約の産物だとすれば、このロボットハンドは求める機能と制約条件から「工学的な5本指」にたどり着いた。
知らずに見れば、”よくあるロボットの手”にも見えるが、実際はチームが追及した“新しい手のかたち”。あるいは“手の再発明”ともいえそう。
そういや以前、人間の真似をやめ、腕を6本に増設した異形のロボットを紹介したが、あのロボットの場合は6本腕が最適解ってことなんだろう。
架空のキャラクターめいた不気味さも
にしてもうかがえる要素の多さよ。見てるだけでいろんなものが頭をよぎる。
確かに多関節で這うとこは蜘蛛や多脚メカっぽくもある。指をきゅるんと曲げてしっかり何かをつかむところは、タコや猿の尻尾のような器用さも感じられる。
しかしなにより、”手が一人歩き”する絵面では、コメディホラー「アダムスファミリー」や、SFホラー「遊星からの物体X」に登場する、手のようで実は手じゃない不気味キャラのようでもある。
ちなみに意外にも、このロボットハンドに公式名称や愛称などはないもよう。
そのせいか海外メディアでは「detachable robotic hand(着脱可能なロボットハンド)」「roaming robotic hand(うろつくロボットハンド)」など好きなあだ名で呼んでるようだ。
このロボットはXでもさっそく話題に。@NaturePortfolioの2026年1月23日のポストの再生数も3万回に届きそう。
”手がロボットになる未来”のさきがけか
細部まで人間そっくりのロボットを目指す企業もある中で、こちらのチームは「人間の手を超える」ロボットアームを選んだ。
今までならロボットの一部というか、”先端にあるツール”みたいなイメージ。だがこれは着脱可能で単体移動し、再接続もできるとか、いわゆる合体ロボまで彷彿させる。
ロボットの構造設計そのものにも新たな流れが生まれてるのか。こうした技術が進んでゆけば、完全な人型とは別の路線の高性能ロボットとかも出てきそう。
References: Popsci[https://www.popsci.com/technology/robot-hand-crawl/] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-025-67675-8]











