2031年、国際宇宙ステーションが永遠の眠りにつく場所、宇宙機の墓場「ポイント・ネモ」
国際宇宙ステーション Image credit:NASA

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 国際宇宙ステーションは2030年に運用を終え、2031年初頭に宇宙機の墓場と呼ばれる「ポイント・ネモ」へ落下する予定だ。

 ポイント・ネモは、世界の大洋で最も陸地から離れた到達不能極の一つで、生物もあまり住んでいないことから、これまでも制御が可能な人工衛星などの宇宙機を落下させる場所として利用されてきた。

 そしてついに、高度約410kmから地球を見守り続けた国際宇宙ステーションもこの場所で永遠の眠りにつく。

 約30年にわたる科学の結晶が辿る最期の旅路と、その終着点、ポイント・ネモについて詳しく見ていこう。

陸地から最も遠い、到達不能極「ポイント・ネモ」

 静寂を求めるなら、ポイント・ネモに勝る場所は地球上にほとんど存在しない。この海域は太平洋の奥深くにあり、どの陸地からも約2688kmも離れている。

 アメリカ海洋大気庁(NOAA)[https://oceanservice.noaa.gov/facts/nemo.html]によると、南緯48度52.6分、西経123度23.6分に位置するこの場所は、北のデュシー島、北東のモツ・ヌイ、南のメイハー島から等しく離れた一点にある。

 この場所が「到達不能極」と呼ばれるのは、地球上のどこよりも陸地から遠いからだ。

 ポイント・ネモは、1992年にカナダの測量技師であるハオエ・ルカテラ氏によって、プログラミングを用いて特定された。

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 また、その名にも深い意味がある。

 ラテン語で「無人(no one)」を意味するネモという名称は、ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E5%BA%95%E4%BA%8C%E4%B8%87%E9%87%8C]』に登場するネモ船長から名付けられたものだ。

 皮肉なことに、この地点に最も近い人間は、地上にいる誰かではなく、その上空約410kmを通過する国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士たちである場合が多い。

 この極端な孤立性こそが、役目を終えた宇宙機の墓場(人工衛星の墓場)という役割に適している。

 カリフォルニア・ウェスタン国際法ジャーナル[https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3153458]に掲載された論文によれば、ここは1970年代初頭から利用されており、これまでにロシアのミールや、中国の天宮1号など、260個以上の人工衛星や宇宙ゴミが深い海の底で眠りについているという。

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ついに終焉を迎える国際宇宙ステーション

 国際宇宙ステーション(ISS)の物語は、1998年にロシアが最初のモジュールである「ザーリャ」を打ち上げたことから始まった。

 それ以来、モジュールや太陽電池などを次々に打ち上げては結合し、増築を繰り返す形で発展を続け、2011年に現在の姿が完成した。

 2000年にビル・シェパード氏ら3名が乗り込んで以来、20年以上にわたって人類が絶えず宇宙に滞在し続ける拠点となってきた。

 これまでに3300件以上の宇宙実験が行われ、気象観測や医学、農業開発に貢献し、将来の宇宙探査に向けた技術テストの場としても機能してきた。

 しかし、建設開始から四半世紀以上が経過し、過酷な宇宙環境での活動は、その体に確実な老朽化をもたらしている。

 初期のモジュールを中心に空気漏れや機器の故障が相次いでおり、維持には多額のコストがかかり続けている。

 当初の計画では2024年までの運用とされていたが、このまま終了すれば、後継となる民間宇宙ステーションが完成するまでの間、人類が宇宙に滞在できない「空白期間」が生じてしまう。

 この空白を防ぎ、民間への移行をスムーズに行うため、アメリカ、日本、カナダ、およびヨーロッパ各国は、2030年までの延長に同意し(ロシアは2028年まで)、その後の安全な処分を決定した。

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ポイント・ネモへ落下させるのが最善で唯一の選択肢

 約420トンもの重量があるISSを処分する際、最大の懸念は燃え残った破片による被害だ。

 アメリカ航空宇宙局(NASA)には1979年の苦い経験がある。当時運用していた宇宙ステーション「スカイラブ」が制御不能なまま再突入し、破片がオーストラリアに落下するという事態を招いてしまった。

 同じ轍(てつ)を踏まないよう、NASAは慎重に処分方法を検討した。

 軌道上に放置すれば、いずれ制御不能となり、巨大なデブリとして地上へ落下する危険がある。

 かといって、地球の引力圏外などの安全な場所へ飛ばすには、機体が重すぎて膨大な燃料が必要となり、物理的に不可能だ。

 となると、制御できるうちに、意図的にポイント・ネモに落とすのが唯一の選択肢となる。

 そのための切り札として、スペースX社が開発する専用の宇宙機「米国デオービット・ビークル(USDV)」が選ばれた。

 USDVは既存の無人宇宙船「ドラゴン宇宙船」をベースにしているが、後部のトランク部分が大幅に強化された特別仕様だ。

 通常の6倍もの燃料と、30基以上とも言われるエンジンを搭載した、まさに「怪物級」の牽引船である。

 計画では、まずISSを自然落下で高度330km付近まで降下させる。そこでUSDVがドッキングし、最後の仕上げとしてエンジンを全開噴射する。

 この強力な逆噴射で420トンの巨体を無理やり大気圏へねじ込み、狙いすましたポイント・ネモへ正確に突入させるのだ。

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宇宙機の墓場で迎える永遠の眠り

 2031年初頭、ISSは大気圏に突入する。猛烈なスピードで空気にぶつかることで数千度もの熱が発生し、機体の大部分は流れ星のように燃え尽きてしまうが、燃え残った破片は、狙い通りポイント・ネモの海へと沈んでいくことだろう。

 ポイント・ネモなら、人間への安全確保はもちろん、海の生態系への影響も最小限に留めることができる。

 ここは「南太平洋環流」と呼ばれる巨大な海流の渦の中に閉じ込められており、外部から栄養分を含んだ水が入りにくい構造になっている。また、陸地からも遠く離れているため、風に乗って運ばれてくる有機物もほとんどない。

 そのため、プランクトンや魚類が少なく、生物多様性の観点からも比較的影響が少ないとされている場所だ。

 地球環境への配慮と安全な処分を両立できる場所として、これ以上の適地はないのだ。

 建設開始から30年以上にわたり、宇宙の最前線で私たちを見守り続けたISSもまた、2031年、静寂に包まれたこの場所で、安らかな永遠の眠りにつくことになる。

References: Papers.ssrn.com[https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3153458] / Issnationallab[https://issnationallab.org/about/iss-national-lab-overview/iss-history-timeline/] / NASA[https://www.nasa.gov/faqs-the-international-space-station-transition-plan/] / Oceanservice.noaa.gov[https://oceanservice.noaa.gov/facts/nemo.html] / NASA[https://www.nasa.gov/news-release/nasa-selects-international-space-station-us-deorbit-vehicle/]

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