鮮やかな「口紅」のような赤い花を捨て、あえて地味な黄緑色へと姿を変えたつる植物がいる。
ナガミカズラと呼ばれるつる植物は、特定の鳥に依存するのをやめ、より多くの種の鳥に受粉してもらうために進化を遂げたのだ。
アメリカの研究チームはこの植物が50年来の進化の定説を覆す、驚くべき生存戦略を持っていたことを明らかにした。
日本では沖縄県の西表島にのみ自生し、絶滅危惧種にも指定されているナガミカズラは、美しい姿を捨て、生き延びる道を選んだのだ。
美しい赤い口紅のような花を捨てたナガミカズラ
多年生つる植物、ナガミカズラ属の仲間は、すべて鳥に花粉を運んでもらう「鳥媒花(ちょうばいか)」だ。
海外ではその花の形から「口紅のつる(リップスティック・バイン)」と呼ばれている。 多くの近縁種は、鳥に見つけてもらいやすい鮮やかな赤色をした、細長い筒状の花を咲かせるのが特徴だ。
しかし、台湾、中国、インド、ベトナム、マレーシア、インドネシア、日本では沖縄県西表島にのみ生息するナガミカズラ(学名:Aeschynanthus acuminatus[https://en.wikipedia.org/wiki/Aeschynanthus_acuminatus])はこのグループの中で唯一、口紅のような見た目を持っていない。
その花は短くて幅が広く、色は地味な黄緑色をした「鐘形(釣り鐘のような形)」をしている。
ナガミカズラがなぜこれほど奇妙な姿に進化したのか、科学者たちは植物の系統樹(けいとうじゅ)を詳しく調べることでその謎に迫った。
数百株ものナガミカズラやその近縁種を訪れる鳥たちを観察し、DNAを解析した結果、この緑色の花の進化は、植物が新しい種へと変化する際の「長く信じられてきたルール」を覆すものであることがわかった。
タイヨウチョウがいない場所で咲くナガミカズラの謎
他のナガミカズラ属の仲間咲かせる赤い花は、タイヨウチョウ科のノドグロタイヨウチョウ(Aethopyga saturata)などの細長いくちばしを持つ鳥を引き寄せ、受粉を助けてもらうために進化したものだ。
タイヨウチョウ科の鳥は、アフリカやアジアの大陸の熱帯地域に広く分布しているが、すぐ隣の台湾や日本の西表島などの島には、この科の鳥が全く生息していない。
本研究の筆頭著者であり、シカゴ大学とフィールド自然史博物館に所属するジンイー・ルー博士は、台湾の大学生だった頃に島に自生するナガミカズラを見て疑問を抱いた。
タイヨウチョウがいないこの島で、一体誰が受粉を助けているのか。
ルー博士は自動撮影カメラを設置して観察を続け、タイヨウチョウよりもくちばしの短い、メジロなどのさまざまな種類の鳥たちが花を訪れていることを突き止めた。
大陸ですでに起きていた進化
ナガミカズラは、タイヨウチョウが豊富にいるアジアの大陸側に多く生息しており、そこでも同じように緑色の花を咲かせている。
これまでの植物学では、植物が「花粉の運び手がいない新しい土地(島)」へ移動した際、そこで生き残るために現地の鳥に合わせて姿を変えると考えられてきた。
このルールに従えば、「赤い花の祖先が台湾に渡り、そこでタイヨウチョウがいなかったので、緑色に進化した」となるはずだ。
しかし、DNA解析の結果は逆だった。
系統樹を調べると、台湾のナガミカズラは、大陸ですでに緑色に進化していた集団から枝分かれして、海を渡ってきたことがわかったのだ。
つまり、ナガミカズラは島に渡るずっと前に、タイヨウチョウがたくさんいる大陸側で、すでに独自の進化を遂げていたのである。
様々な種の鳥に受粉を託す生存戦略
ナガミカズラは、特定のタイヨウチョウだけに頼る関係をあえて捨て、より多くの種類の鳥たちを受け入れる道を選んだ。
アメリカ・フィールド自然史博物館とシカゴ大学の研究チームは、過去のある時点でタイヨウチョウだけでは受粉が不十分になる状況があり、自然淘汰によって多様な鳥を「花粉の運び手」とする戦略が有利に働いたのではないかと考えている。
ナガミカズラは、美しい花の形を変えてでも、より確実に次世代へ命をつなぐための合理的な選択をしたのだ。
この発見は、植物の進化が環境の変化に受動的に従うだけでなく、より複雑で主体的な適応戦略を持っている可能性を示唆している。
地道な野外調査が解き明かした真実
今回の発見は、特定の植物の謎を解いただけでなく、自然の中に出ていき生態系を観察する「自然史」の重要性を改めて証明した。
何ヶ月もかけて各地のフィールドを旅し、自分の目で植物と鳥の関わりを確かめるルー博士の努力が、50年来の科学的ルールを見直す鍵となった。
フィールド自然史博物館のキュレーターであり、シニア著者のリック・リー博士は、こうした人間の努力はAIやコンピュータでは決して代替できないものだと述べている。一歩ずつ足で稼いだ観察こそが、科学の新しい扉を開いたのである。
この査読済み論文は『New Phytologist[https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.70871]』誌(2026年1月27日付)に掲載された。
References: Onlinelibrary.wiley.com[https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.70871] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1113627]











