中国の教育現場が大きく変わり始めている。宿題やテストの採点に特化したAIが登場し、教師の負担を劇的に軽くしているのだそうだ。
このAIはマークシートを読み取るのではなく、生徒の手書きの文字を正確に判読し、作文の添削までしてくれるという。
これまでのように、教師が一枚一枚目を通し、赤ペンで採点するというやり方は、もしかすると数年後には消えてしまっているかもしれない。
中国で始まった「AI採点」の取り組み
テストや宿題の採点は、教師の業務の中でも大きな労力が割かれる場面だ。何十人もの生徒の答案に目を通し、一人ひとりに点数をつけるのはかなり大変な作業である。
中国では最近、この採点作業をAIに行ってもらおうという試みが始まっている。生徒が提出した解答をスキャンすると、AIが一瞬で採点してくれるのだそうだ。
上海などの教育現場で使われているのは、音声認識や教育向けAIで知られるiFLYTEK(科大訊飛)社[https://edu.iflytek.com/]のシステムである。
同社の教育部門によると、上海市内では100校を超える学校で、「星火知能批閲機」と呼ばれる採点支援機器や関連システムが運用されているという。
このシステムは紙の宿題や答案をデータ化し、AIで採点と分析を行って、その結果を教師と生徒の双方にフィードバックするという一連の流れを自動化する。
まず、教師が宿題やテストの用紙を装置にセットする。すると高速スキャナーがまとめて読み取って、答案を画像データとして取り込む。
取り込まれたデータはAIによる採点処理に送られ、選択問題や計算問題などの「客観的」な設問は、その場で自動で正誤判定される。
さらに「主観的」な内容が含まれる記述式の問題については、語彙や文法、構成、論理の流れといった観点から、評価や指摘が行われるのだそうだ。
採点データはすぐに次の授業のために活用可能
採点が終わると、システムは以下の2種類のデータを生成する。学校側は、クラス単位で集計された正答率や設問ごとの傾向をもとに、次の授業でどこを補強するかを検討する材料として活用しているという。
生徒向けの返却用プリント
生徒ごとの答案に対するコメントや誤りの指摘、改善のための提案を反映したもの。生徒が自分の間違いとその理由を確認し、訂正に使うための資料
教師向けの学習状況レポート
クラス全体の正答率や設問別の正解率、つまずきやすい単元などをまとめたもの。次の授業や補習の計画を立てるための資料
メーカー側の説明では、紙の宿題を取り込むスキャンから、AIによる採点と分析、そして生徒向けの返却プリントと教師向けの集計資料を出力するまでの一連の工程が、約10分で完了するいう。
実際にこのシステムを体験した杭州の数学教師は、次のように語っている。
これは私の授業準備へのアプローチを根本から変えました。
「概念の混同」が多い生徒には比較や識別に特化した時間を設け、「計算の不注意」が目立つ生徒には記述の正確さを強化する訓練を重点的に行える。
指導はまさに、「広範囲に一斉に水をまくやり方」から、「必要なところに的確に点滴するやり方」へと変わったのです
つまり採点する行為そのものよりも、その結果をどう読み解き、今後の指導に反映させるかが、教師の役割としてより大きな割合を占めるようになるというのだ。
手書きも高精度で認識。採点の効率が劇的に向上
このシステムは、中国全土で採用されており、浙江省諸曁市では、「誤りの原因診断によって精密な指導を行う」取り組みが評価され、教育部の「2024年度スマート教育優秀事例」に選ばれたという。
また杭州の浜江区、温州の竜湾区、江蘇省無錫市江陰などでも、このシステムを中核に宿題改革が進められており、全国的なモデル地域として紹介されている。
内陸部の大都市である四川省の成都では、2025年に市内の小中学校35校でAIによる宿題採点ツールを試験的に導入した。
これまで1時間以上かかっていた採点が10分で終わるだけでなく、生徒ごとの誤答集といったデータも一瞬で生成することに、教師たちは驚きを隠せない。
OCR技術を活用した結果、AIは手書きの漢字や数式、さらには描画マークまでも正確に認識し、ほとんどの手書き文字を処理できるという。
計算問題や選択問題、中国語の書き取りといった「客観的」な分野では、95%以上の正確性を誇り、採点の効率は平均で70%以上向上したそうだ。
苦手分野もあるがメリットも多いAI採点システム
ただし、このシステムも弱点はある。読解や作文といった、深い理解と感情的な共感が求められる「主観的」な問題では、正答率は80%台にとどまり、これは人間の教師を大きく下回っているという。
そこで学校の現場では、「客観的」な分野はAIが全面的に担当し、「主観的」な問題は、AIが添削した上で、教師が最終的な確認を行うなどの工夫が欠かせない。
四川省のある中国語の教師は、次のように述べている。
まずAIに作文を添削してもらい、その後教師が校閲を行うことで、時間の節約になっています。
生徒には「進歩しましたね。頑張ってください!」といったコメントを手書きで加えるなど、温かさも伝わるようにしています
以前は日本の学校でも、多くの教師が山のような答案を家に持ち帰り、夜遅くまで採点する、といったことが行われていた。
AI採点システムの導入は、今後この単調ではあるが大変な作業から、教師を完全に開放することになるのだろうか。
中国での試験的導入の結果、教師・生徒それぞれに以下のようなメリットが見られたという。
教師にとってのメリット
●反復的で機械的な作業から解放された
●授業準備や生徒への個別対応に時間を割けるようになった
●生徒一人ひとりの理解状況を早くしやすくなった
生徒にとってのメリット
●フィードバックがすぐにもらえるようになった
●クラスの平均点がすぐに確認できるのでモチベーションが上がった
●復習用の資料で自分の弱点を絞り込めるようになった
●AIが正確に判読できるよう、丁寧な字を書くようになった
AIの利用を懸念する声も
その一方で、AIに対する懐疑的な見方も根強い。
赤ペンでつけられた丸や、手書きの励ましのコメントは、教師と生徒の間の感情的な絆の象徴でもあり、AIには決して真似のできないものだ。
さらに、「創造的な思考」が阻害されるのではないかとの懸念もある。AIはビッグデータで学習するため、「標準的な回答」を好む傾向がある。
つまり型破りで創造的な解答は、AIが採点した場合、「間違い」だと判断される可能性がある。
ここでいう「創造的」とは、作文などの「主観的」な分野だけでなく、数学における型破りな問題へのアプローチなども含まれる。
成都のある中学生は、AIの欠点について、次のように語っている。
AIは一つの答えしか提示しないため、思考力が制限されてしまいます。
また、手書きの文字が乱れていたり、主観的な質問への回答が順序が乱れていたりすると、AIはそれを認識できない可能性があります。
一度誤判定されると、10点、20点もの差が出ることもあるんです
生徒のプライバシーの保護も懸念材料だ。答案や宿題には個人情報が含まれており、これが流出しないという保証はどこにもない。
今後は「人間とAIのデュアル教師」が、教育現場で当たり前に存在するようになるのかもしれない。
だが、教育現場で効率を重視し過ぎることは、教師と生徒の間に温かい絆が生まれるのを阻害するのでは?と危惧する声も多いようだ。
References: Future Of Education: Schools In China Adopt AI To Grade Students' Homework | Watch[https://www.news18.com/viral/future-of-education-schools-in-china-adopt-ai-to-grade-students-homework-watch-9864791.html] / 用人工智能批改作业,边界在哪[https://www.news.cn/comments/20251231/8f6836915f984db2952d1bee235583fb/c.html]











