アメリカ・イエローストーン国立公園では、ピューマがオオカミとの衝突を避けるために食生活を変化させていることが判明した。
かつては両者ともに、大型のシカ科、ワピチ(アメリカアカシカ)を主食としていたが、オオカミがより大型の獲物を狙うようになった一方で、ピューマは、より小型の獲物を標的にするようになったのだ。
これら2種の頂点捕食者は絶滅の危機から回復し、縄張りを共有する機会が増えた。
そのため、お互いに争うことなしに、独自の狩猟スタイルを確立して共存の道を選んだようだ。
この研究成果は『PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2511397123]』誌(2026年1月26日付)に掲載された。
獲物を変えて、争いを避けることを選んだオオカミとピューマ
アメリカを代表する2大捕食者であるオオカミとピューマが遭遇したとき、友好的な出会いになることはめったにない。
そこで双方が捕食の対象を変えることで争いを避ける巧妙な方法を見つけている可能性が浮上した。
オレゴン州立大学と、イエローストーン資源センターの研究チームは、イエローストーン北部に140台のカメラを設置し、オオカミとピューマの両方にGPS首輪を装着し、追跡を行い、数千件に及ぶ捕食現場の調査を行った。
その結果、オオカミがより大型の獲物を狙うようになる一方で、ピューマはオオカミに獲物を奪われるなどのトラブルを避けるため、狩猟戦略を適応させている実態を明らかにしている。
絶滅の危機から復活した2大頂点捕食者の経緯
かつてイエローストーンでは、頂点捕食者たちの姿が消えた暗い歴史がある。
19世紀から20世紀にかけて、野生動物への恐怖心や、家畜を襲われることを防ぎたい人間による徹底的な駆除が行われた。
政府の支援を受けたこの活動と生息地の喪失によって、オオカミやピューマは絶滅の危機へと追い込まれたのである。
しかし、生態系における彼らの重要性が再認識されると、2種を再びこの地に呼び戻す活動が始まった。
その経緯は実に対照的だ。
オオカミは、1920年代に公園内から完全に絶滅したが、1995年にアメリカ政府による再導入計画が実行され、カナダから運ばれた個体が放たれた。
つまり、人間の手によって計画的に呼び戻されたのだ。
一方でピューマは、自力で道を切り開いた。
1930年代に絶滅したと考えられていたが、1970年代後半から、周辺の山々に生き残っていた個体が少しずつ公園内に戻り始めた。
数十年をかけて自然に定着し、かつての王国を再建したのである。
こうして異なる道を辿って復活した二強は、同じ地域で再び顔を合わせることが増えてきたのである。。
オオカミとピューマの捕食動物の変化
研究チームはこれらの捕食者が、獲物を仕留めた、あるいは死骸を食べていた可能性がある現場3,929カ所を詳細に調査した。
そのうち852カ所がオオカミの捕食現場、520カ所がピューマの捕食現場であることを突き止めた。
- オオカミの記録: 716頭を自ら殺害し、136回は死体を漁った。主な獲物はワピチ(542頭)、アメリカバイソン(201頭)、シカ(90頭)。
- ピューマの記録: 513頭を自ら殺害。主な獲物はワピチ(272頭)とシカ(220頭)。
この2016年から2024年の最新データを、1998年から2005年の初期データと比較すると、劇的な変化が浮き彫りになった。
オオカミについては、巨大なウシ科のアメリカバイソン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%B3]を捕食する割合が1%から10%に増加し、ワピチは95%から63%に減少した。
ピューマについては、ワピチが80%から52%へと減り、逆に小型のシカ科、ミュールジカ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%AB]が15%から42%へと急増したのである。
もともと、オオカミもピューマも共通してワピチを中心に捕食していたが、徐々に捕食対象が変化したのだ。
ワピチは体重300kgを超える大型のシカであり、肉食動物にとっては大きな魅力だが、同時に両者が激しく奪い合う火種にもなりやすい獲物なのだ。
ピューマが小型の獲物を狙うようになった理由
ピューマが狙いをミュールジカに変えた背景には、合理的な生存戦略がある。
ミュールジカはワピチに比べて体が小さく、体重は60kgから100kg程度だ。
大型のワピチを仕留めた場合、単独で行動するピューマが食べ切るには数日を要する。
その間、獲物のそばに留まり続けることは、匂いを嗅ぎつけたオオカミの群れに見つかるリスクを飛躍的に高める。
一方、比較的サイズの小さいミュールジカであれば、一匹でも短時間で食べ終えることが可能だ。
ピューマはあえて小さな獲物を選び、食事時間を短縮することで、最強のライバルであるオオカミの群れと遭遇し、獲物を奪われたり命を落としたりする危険を最小限に抑えているのだ。
群れの強みを活かし、大型動物を狙うようになったオオカミ
一方、オオカミはピューマとは対照的に、より巨大な獲物へと標的を変えていた。
体重1トンに達するアメリカバイソンは、単独のピューマには到底倒せない。
オオカミは群れのチームプレイを活かし、ライバルが手出しできない巨大な食糧源を独占し、エリアの支配者としての地位を固めたのである。
単独行動のピューマと群れで行動するオオカミ
一対一の純粋な力比べであれば、ピューマが自分より一回り小さなオオカミを圧倒することも珍しくない。
オオカミのオスが体重40kg~50kgほどであるのに対し、ピューマのオスは約68kg~90kgと、体格ではピューマが勝っている。
また、武器も決定的に異なる。
しかし、オオカミは常に統制のとれた「群れ」で行動しており1対1となることはほぼない。数の力で圧倒するのだ。
事実、研究チームが確認した12件のピューマの死のうち、2件はオオカミによって殺されたものだった。
一方で、90件におよぶオオカミの死の中で、ピューマが原因のものは一件もなかった。
多種多様な獲物の存在と環境が共存が可能に
イエローストーンには多様な獲物が存在する。
そのため、縄張りが重なっても、獲物を変えることで共存することが可能となる。
また、オオカミに直面した際にも、ピューマが木の上に逃げ込めるような地形が確保されていることも、共存できる理由の1つだ。
ピューマはかつてのごちそうへの執着を捨てることで、最強のライバルとの無用な争いを避ける道を選んだ。
この柔軟な適応力こそが、ピューマが自力で生息域を回復させた強さの秘訣なのかもしれない。
References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1113729?] / PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2511397123]











