水星は地質学的に「死んだ惑星」ではなかった。スイスの最新研究により、地表の斜面に刻まれた明るい筋が、今も続く地質活動の証拠である可能性が浮上した。
地下の揮発性物質がガスとして噴出し、現在も惑星の姿を変え続けているという。太陽系最小の惑星は、今も脈々と活動を続けているのだ。
この研究成果は『Communications Earth & Environment[https://www.nature.com/articles/s43247-025-03146-8]』誌(2026年1月27日付)に掲載された。
水星が活動していないと考えられていた理由
太陽に最も近く、最小の惑星である水星の表面は、月のように無数のクレーターで覆われている。
かつては火山活動も盛んだったが、約35億年前にその活動は停止したとされてきた。
惑星が冷却されるにつれて全体が収縮し、地球のような複数のプレートではなく、一つの大きな外殻が核を包み込む構造になったためだ。
アメリカ・ノースカロライナ州立大学の報告[https://repository.lib.ncsu.edu/server/api/core/bitstreams/edcb5078-9087-47a0-8fbd-82c1d0c4512c/content]によれば、この全体的な収縮がすべての火山活動を封じ込め、溶岩が表面へ到達することを不可能にしたという。
水星の400本以上の明るい筋を画像から特定
しかし、スイスのベルン大学宇宙居住性センターおよび国立惑星研究センターの研究チームは、この定説を覆す発見をした。
ヴァレンティン・ビッケル博士が率いるチームは、パドヴァ天文台の研究者らと共同で、水星の斜面に見られるスロープ・ストリーク、別名リネアと呼ばれる明るい筋状の模様を初めて系統的に分析した。
深層学習を用いた解析によって、探査機メッセンジャーが撮影した約10万枚の画像から、これまで数例しか知られていなかった筋を402本も特定することに成功した。
水星は今も活動。地下ガスを放出していた
分析の結果、これらの筋は主に、若い衝撃クレーターの太陽に面した斜面に集中していることがわかった。
これは太陽放射が筋の形成に重要な役割を果たしていることを示唆している。
以前の衝突で生じた岩石の亀裂を通じて、惑星内部から硫黄などの揮発性物質が表面へ漏れ出し、ガスとして放出されるアウトガッシング(outgassing)が起きている可能性が高いという。
筋の多くはホロウ(hollows)と呼ばれる明るい窪地から発生しており、水星が今この瞬間も内部から変化している動的な姿を浮き彫りにした。
日欧の探査機ベピ・コロンボが活動の証拠を検証
この「生きた惑星」としての水星の姿を最終的に証明するのが、2026年11月に水星軌道に到達する予定の日本とヨーロッパ共同の水星探査計画「ベピ・コロンボ」だ。
この計画名は、水星の自転と公転の特殊な関係を発見したイタリアの数学者ジュゼッペ・コロンボ博士の愛称にちなんでいる。
欧州宇宙機関(ESA)の表面探査機(MPO)と、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した磁気圏探査機「みお」(MMO)の2機体制で、水星の謎に迫る。
実は、今回の研究を主導したベルン大学はベピ・コロンボ計画の主要メンバーでもある。
同大学が設計・製造を手がけた高度計や分析計といった最新鋭の観測機器が、高度約1000kmの軌道から水星の地形や大気成分をかつてない精度で調査する予定だ。
ベルン大学のチームは、自分たちが作成した最新の目録を活用し、以前の観測から10年以上が経過した現在の水星の筋を再撮影する計画だ。
もし新しい筋が出現していれば、それは水星が現在進行形で活動している動かぬ証拠となる。
日本の「みお」が捉える磁界データと、欧州の探査機MPOが描く3D地形モデルが合わさることで、水星が失い続けている物質の正体や、地底で今も脈打つ地質活動の全貌がついに明らかにされるだろう。
References: NASA[https://www.nasa.gov/image-article/tectonically-active-planet-mercury/] / Mediarelations.unibe.ch[https://mediarelations.unibe.ch/media_releases/2026/media_releases_2026/streaks_mercury/index_eng.html]











