宇宙が誕生した直後の姿は、1兆度を超える超高温の「原始スープ」で満たされていた。
マサチューセッツ工科大学の研究チームは、スイスの大型ハドロン衝突型加速器を用いた実験で、アヒルが水面を進むときのように波紋を広げる「引き波」現象を観測することに成功した。
これは初期の宇宙がバラバラの粒子ではなく、一つの液体のようにつながって動いていたことを示す直接的な証拠となるという。
この査読済みの研究論文は『Physics Letters B[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0370269325008767]』誌(2025年12月25日付)に掲載された。
誕生直後の宇宙を満たしていた1兆度の原始スープ
今から約138億年前、宇宙はビッグバンと呼ばれる大爆発によって誕生したとされている。その直後の初期宇宙は、現在の冷たく澄んだ空間とは異なり、あらゆる物質が超高温でごった煮になったカオスな世界だった。
そこにはクォークやグルーオンと呼ばれる、物質を形作る最も小さな粒である素粒子が、猛烈な熱さによって溶け出した状態で存在していた。
クォークとは、物質の基礎となる陽子などを構成する部品であり、グルーオンはそれらを接着剤のように強力につなぎとめる役割を持っている。
通常、これらは決して離れることはないが、ビッグバン直後の1兆度という超高温状態では、あまりの熱さに接着力が追いつかず、すべてが溶け合って「クォーク・グルーオン・プラズマ」になっていた。
科学者たちは、あらゆる物質の材料が混ざり合ったこの状態を、生命や物質の源という意味を込めて「原始スープ」と呼んでいる。
ただしスープ状態が続いたのは、ビッグバンが起きてからわずか100万分の数秒という一瞬の間だけである。
その後すぐに宇宙は冷えて固まり、今の私たちが目にする陽子や中性子といった物質に姿を変えた。
大型ハドロン衝突型加速器で再現された宇宙誕生直後の瞬間
スイスにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)では、この宇宙最初の材料を研究するために、人工的に原始スープの状態を作り出す実験が行われている。
鉛などの重いイオンを光速に近い速さで正面衝突させることで、一瞬だけ初期宇宙と同じ状態を再現するのだ。
この衝突によって生まれる原始スープは、実験装置内でもわずか1000兆分の1秒以下という極めて短い時間しか存在できない。
しかし物理学者たちは、この一瞬の隙に起きる現象を観察することで、宇宙の成り立ちを解明しようとしている。
クォークが残した「引き波」を観測
マサチューセッツ工科大学の研究チームは今回、クォークがスープの中を突き抜けるときに残す航跡に注目した。
これは水面を泳ぐアヒルが後ろにV字型の引き波を作るのと同じ現象である。
もし初期宇宙のスープが液体の性質を持っていれば、高速で移動するクォークに反応して、揺れたりしぶきを上げたりするはずだと考えられてきた。
チームは、周囲のプラズマに影響を与えないZボソン(Z boson)という特殊な素粒子を目印に使う新しい手法を開発した。
その結果、130億回もの膨大な衝突データの中から、クォークが作ったしぶきや渦の痕跡をはっきりと確認することに成功した。
液体だった初期宇宙の姿
今回の観測結果は、誕生したばかりの宇宙を満たしていた物質が、摩擦がほとんどないサラサラの液体に近い性質を持っていたという理論を強力に裏付けるものとなった。
マサチューセッツ工科大学のイェンジ・リー教授は、このプラズマは非常に密度が高い(具材が詰まっている)にもかかわらず、完全な液体のように振る舞い、クォークの速度を落とさせるほど強力に反応したと述べている。
この原始スープがどのように揺れ、どのように冷えて今の私たちが住む世界に変わっていったのか?
誕生直後のわずかな時間の出来事を詳しく調べることで、宇宙の進化の歴史をより深く知ることができるようになるだろう。











