およそ200年前、合成繊維もなかった時代に発明された防寒、防水用のドライスーツは、北極圏のグリーンランドで暮らす先住民族、イヌイットの知恵と創意工夫に溢れている。
一見奇妙に見えるこのドライスーツは、イヌイットの人々が過酷な漁から生還するため、防水性と断熱性を念頭に作られたもので、ほぼアザラシの皮でできている。
小さなボートで海に漕ぎ出し、槍を片手にクジラに飛び乗る命がけの漁の際、このスーツがあれば氷のように冷たい海に投げ出されても浮かぶことができ、温かさを保つことができた。
イヌイットの人々が行っていた命がけのクジラ漁
こちらが19世紀にグリーンランドでイヌイットの人々が発明したドライスーツだ。正確な製作時期は不明だが1834年以前のものだという。
ドライスーツとは「濡れないことで命を守る服」のことである。
当時の彼らは、過酷な環境で命がけのクジラ漁をしていた。
クジラ漁の方法は、小さなボートで海に出て、クジラを発見したら、タイミングを見計らって槍を片手にその背に飛び乗り、頭の上にある噴気孔(ふんきこう)を刺すという大胆なもの。
一つ間違えば、暴れるクジラに巻き込まれて命を落とす。怪我や溺死のリスクはもちろん、海に落ちれば痛いほど冷たい水に体温を奪われ死に至る。
アザラシの皮で作った防水性と断熱性あるドライスーツ
そこで彼らはアザラシの皮と油を使い、防水性と断熱性のあるドライスーツを発明した。
それはただ単にアザラシの皮を縫い合わせたものでなく、漁に集中できるよう非常に考え抜かれたものだった。
アザラシの皮だけでできたスーツはストレッチ性もありとても丈夫で、たとえ海に落ちても浮いていられた。まさに実用性と保護性に長けたデザインだった。
これで彼らは極寒の海に出ても、以前より長く獲物を追いかけることができたという。
胸の穴から着込む独特な着用方法
着用方法もまた独特だ。着る際は胸のあたりの穴に足から体を入れて着込み、その後に穴の口紐を引っ張って締め閉じるという手順だった。
さらに防水性を高めるため、その隙間にもアザラシの脂肪でできた油を塗ったと思われる。
水を入れたくないのならもっと良いデザインがあったのでは?と疑問がわくかもしれないが、なにしろ現在のような合成繊維やファスナーなども無い時代のことだ。しかもシンプルなのにちゃんと使えた。
当時の彼らにすれば、当然のように使えるものを使っただけかもしれないが、”地球にやさしい”などというワードが行き交う今に照らせば、余ったアザラシの皮を命を救う服に有効活用するなんて、環境負荷とも無縁の素晴らしい発想だ。
完全な状態で現存する唯一の例
イヌイットのクジラ漁の生存率を高めた機能的なスーツは、グリーンランドでしばらくの間使われたが、他の場所で捕鯨をする人々の間ではより温かいウールや油脂を施した服の重ね着が広まった。
現在このドライスーツは、デンマーク国立博物館で、「北極の発見と発明」として展示されており、歴史に詳しいFacebookユーザーからも紹介されている。
このスーツを見て、フィンランドにある世界最古のダイビングスーツ「WANHA HERRA(ヴァンハ・ヘッラ)」を引き合いに出すユーザーもいたりする。
また今回紹介したイヌイットのドライスーツは、完全な状態で現存する唯一の例で、同博物館でもお気に入りの品らしく、200万点もある収蔵品の中から選りすぐりの「おすすめの10点」に選ばれている。
動きやすさも念頭に作られたドライスーツの発明は、何世紀にもわたるイヌイットの歴史の中でも特に画期的なものだったんじゃないかな。
References: Vintag[https://www.vintag.es/2026/01/greenland-whaling-suit.html#google_vignette] / Nationalmuseet[https://nationalmuseet.dk/en/exhibitions/arctic]











