2020年頃から、アメリカのコネティカット州ウェストヘブン市の住民たちは、四六時中聞こえるブーンというハム音に悩まされ続けていた。
眠れぬ夜が続き、耐えかねた住民たちが署名を集め、市に対応を迫った結果、市は音響専門家に依頼して本格的な調査を行うことを発表した。
科学的な手法によって音源を特定し、確認が取れ次第、法的に対処できる状態にすることを目指すという。
市に響き続ける謎の怪音
コネティカット州ニューヘイブン郡の都市、ウェストヘブンの住人ウォーレン・トーマスさんは、謎の音についてこのように説明している。
絶え間なく響き続けているんです。一定の低い音で、ずっと続いています。小さいですが、確実に存在に気づく音です。それが一晩中続いているんです
彼は自宅で、何年もの間この音を聞き続けているというのだ。
住民たちは耳栓をしたり、アプリなどでホワイトノイズを流したりと、様々な方法で対処を試みてきたが、十分な効果を得られずにいる。
対策のための署名活動
問題が長期化する中、2025年12月、Change.org[https://www.change.org/p/investigate-and-resolve-persistent-noise-pollution]で市に対策を求めるオンライン署名が開始され、150人以上が署名した。
その請願書には、署名を集める理由が次のように説明されている。
私たちは地方自治体に対し、騒音源を特定するための包括的な調査を開始し、具体的な措置を講じるよう求めます。
最新技術を活用し、音響専門家と連携して、この迷惑な騒音の発生源を徹底的に分析・追跡してください
この「音」の印象は換気装置や業務用掃除機のようだと表現されており、署名以外にも市へ寄せられた苦情は、合計で200件を超えたという。
市議会は2026年1月、この問題の原因を特定するため、音響専門家の雇用に1万6000ドル(約250万円)の予算を承認した。
具体的には、音の測定機器を市内の10カ所に設置し、発生源を科学的に特定する計画だという。
騒音レベルまでいかないが不愉快な音
実際にどんな音なのか、こちらの動画で体験してもらおう。ブーンという音が響いているのがわかると思う。
この動画は、ウェストヘブン市の人事コミッショナーを務めるジョン・カラーノ氏が、2025年12月に自宅前で撮影した映像だそうだ。
カラーノ氏が手に持つ騒音計のメモリは、だいたい48dB(デシベル)前後、時には50dBを超える音を拾っている。
50dBというと、近くにあるエアコンの室外機や換気扇の音くらいだという。そこまで大きな音ではないのだが、ずっと聞いていると不快になる音だという。
私の娘にはまったく聞こえません。しかし私は聞こえますし、人によっては耐えがたいほど苦痛だと言います。これは音というより振動に近いものです。
低周波であるため、発生源を特定するのが難しくなっています。これは間違いなく生活の質に関わる問題です。
眠れなくなったという人もいますし、テレビをつけていても聞こえるという人もいます
この謎の音の原因について、ネット上ではさまざまな憶測が飛び交っていた。
- 住民を対象にした音響兵器の実験だろう
- 地下でフル出力でテストしているんだと思う
- データセンターじゃないかな?
- いい推測だ。冷却ファンの音だろう
- 地下都市かと思った。
世界中にあるから。もしデータセンターが原因なら、すべての都市で聞こえるはずじゃないか?- ウェストヘブンのすぐ近く、水辺の近くに大きな風力タービンの計画がある。風力タービンに関連する共鳴現象で、振動が巨大なコンクリート基礎に伝わっている可能性があるよ
- 新しく設置された変圧器のせいかも。変圧器は電力を増幅するから、古い送電線がその電力に耐えられず振動しているのかもしれない
- 他の場所では、共鳴している天然ガスパイプラインが原因だと突き止められたことがある。圧縮ステーションが原因で共鳴が起きるんだ
- こういう現象は、多くの場合、工業施設の大型冷却塔が原因なんだ。塔は高い場所や屋上にあることが多く、音のレベルが変わったり、反射音が別の方向から来たりする。停電で他の音が止まるのを待たないと特定できないこともあるよ
- 若者がたむろするのを防ぐために高周波音が使われてるって聞いた。これは逆に、高齢者を遠ざけるための低周波音かもしれないな
近隣にある食品加工工場が関係しているのか?
前述のカラーノ氏の自宅は、食用グリッターを製造する企業「グランビア・ニュートリショナルズ」を見下ろす場所にあるという。
現地の報道によると、苦情が集中している一帯は工業エリアで、特にこの食用グリッターを作る工場が発生源として疑いの目を向けられているようだ。
1月12日の市議会で、カラーノ氏は「まずはこの異音を他の環境音から切り分け、発生源を証明しないと、違反としての対処ができない」と述べた。
彼は深夜から未明にかけても測定を行い、測定値の大半は「騒音」として訴えられるレベルに達していなかったとも説明している。
さらにウェストヘブンのドリンダ・ボーラー市長も、この問題の原因を突き止めたいと強調する。
すべての地区で聞こえるわけではありませんが、十分な数の地区で発生しているため、住民の生活の質の問題として対応する必要があります
発生源の見当はついています。しかし、それを確認できなければ、法的に対処することは難しいのです。
これは生活の質に関わる問題です。私たちは対応したいと考えています。住民の生活が損なわれることも、健康に影響が出ることも望んでいません
同様の怪音は各地で報告されている
実は同様の音はウェストヘブンだけでなく、コネティカット州内の各地で聞こえているようだ。
- ノーウォークに住んでいるけど、眠れなくて本当に困っている。沖合か地下から来ているのかもしれない。どうか原因を見つけてほしい
- まさに今聞こえている。自分はニュートンにいる。一度気づくともう無視できないんだ
- グロトンでも聞こえる。数か月前に始まり、24時間ずっと続いている。本当にいらいらする
- ブリストルでも同じ問題が続いているよ。近くの廃棄物焼却施設のタワーファンの振動が原因だと特定された。メディアは面白がっているけど、これは拷問だよ
- お隣のマサチューセッツ州アンドーバーにいるけど、今も聞こえてる。
近くに工業団地があるし、通勤列車や貨物列車もある。夜に貨物列車が停車している音かと思ったけど、どうだろうな
こういった街に響き渡る謎の音は「ザ・ハム(ブンブンと聞こえるハム音)」と呼ばれ、これまでにも世界各地で発生している。
古くは1960~70年代にイギリスのブリストルで起こった、「ブリストル・ハム」と呼ばれる現象が有名だ。
このときは原因として近隣にあるエイボンマスの倉庫の大型ファンなど、さまざまなものが取りざたされたが、特定には至っていない。
また、アメリカ・ニューメキシコ州のタオス[https://acousticalsociety.org/wp-content/uploads/2018/02/v5n3.pdf]では、1990年代に同様の低周波音が問題となり、政府の研究機関が調査を実施したが、原因は判明しなかった。
一方で、インディアナ州ココモ[https://www.scribd.com/document/297338337/Kokomo-Hum-Report]では、工業施設の冷却塔のファンとコンプレッサーの振動が原因と特定された例もある。
カナダでは、ウィンザーで発生したハム音の発生源が、デトロイト川対岸の工業施設である可能性が高いと政府が発表した。
住民の健康被害が心配される
これらの音の多くは、聞こえる人と聞こえない人がいるのが特徴で、聞こえる人にとってはかなりなストレスとなるようだ。
今回のウェストヘブンの場合も、「眠れない」といった被害を訴える人も多い。前述の請願書には、次のように記されている。
この不安を引き起こす現象は昼夜を問わず発生しており、私たちの睡眠や集中力、そして日常生活を十分に楽しむ能力を妨げています。
この絶え間ない騒音と振動によって、多くの住民がストレスや不安の増加、さらには身体的な不快感を訴えています。
私たちには、有害な騒音公害のない、静かで平穏な環境の中で生活する権利があると考えています
超常現象的な怪音ではなく、どうやら人為的な原因がありそうなウェストヘブンのハム音騒動。
市長によると、音響測定機器を使った調査には、だいたい4週間ほどかかる見込みだという。
この調査で原因が判明し、適切な対応が行われ、住民たちが静けさを取り戻せる日が早く来ることを祈りたい。











