2024年、日本の房総半島南東沖、水深5500mで「風の谷のナウシカ」の王蟲の小型版のようなヒザラガイの新種が発見された。
研究者らは、深海の生物たちにもっと興味を持ってもらおうとネットで名前を募ったところ、わずか1週間で8000件を超える提案が殺到した。
最終的には、未来の地球を守りたいという切実な願いを込めた学名に決定した。
この研究成果は『Biodiversity Data Journal[https://bdj.pensoft.net/article/180491/]』誌(2026年2月6日付)に掲載された
8000件もの応募が殺到、「フェレイラエラ・ポピュリ」に決定
今回の新種のヒザラガイの名付け親となったのは、発見者ではなくインターネットのユーザーたちだ。
ドイツを拠点とする国際的な研究組織「ゼンケンベルク海洋種アライアンス(SOSA)」が主導し、人気の教育系YouTubeチャンネル「True Facts」を運営するゼ・フランク氏が呼び掛けた[https://www.youtube.com/watch?v=G7HkBBJO7ZU]ところ、世界中から8000件以上の熱烈な提案が寄せられた。
専門家による厳正な審査の結果、選ばれた学名は「フェレイラエラ・ポピュリ(Ferreiraella populi)」となった。なんと全く無関係な11名がポピュリの名前を提案してきたという。
種小名のポピュリは、ラテン語で「人々の」という意味を持つ。これは科学が専門家だけのものではなく、広く人々の関心と協力によって成り立つものであることを象徴している。
公募では、その外見から王蟲(オーム)を推す声や、夜空の星になぞらえたステラカデンス(流れ星)といった候補も多数あがった。
8枚の鎧と鉄の歯を持つ沈木の住人、ヒザラガイ
ヒザラガイは、多板綱というグループに属する軟体動物だ。一般的な貝とは異なり、背中に8枚の重なり合う殻の板を並べている。
この柔軟な構造のおかげで、海底の凹凸にぴったりと吸着したり、外敵から身を守るために丸まったりすることができる。
2024年に発見されたこの新種が属するフェレイラエラ属は、深海に沈んだ倒木を専門に利用して生きる極めて特殊な集団だ。
フェレイラエラ属は磁鉄鉱を含む非常に硬い鉄の歯を持っており、それを使って硬い沈木を削り取って食べる。
深海の砂漠のような環境において、沈んだ木は貴重な栄養源となるオアシスなのだ。
今回発見されたポピュリは、体長わずか15mmほど。指先に乗るほど小さな体だが、その姿はまさに深海の鎧武者だ。
また、ポピュリの尾の付近には、センチュウ(線虫)と呼ばれるごく小さな糸状の虫たちが住み着いていることも判明した。
線虫たちは、ポピュリの排泄物を食べて掃除することで体を清潔に保つ役割を担っていると考えられている。
ポピュリが住処を提供し、線虫がクリーニングを行う。一匹のヒザラガイの体そのものが、ミニ生態系を形成しているようだ。
厳格な種の命名プロセス
新しく発見されたすべての種は、カール・リンネが確立した二名法という厳格なルールに従って学名を与えられなければならない。
これは名字にあたる属名と、名前のような役割を持つ種小名を組み合わせる仕組みだ。
多くの場合、その生物の身体的な特徴や発見された場所、あるいは研究に関わった特定の個体などに由来して名付けられる。
しかし、学名が決まるまでの道のりは長い。新しい種が採取されたとしても、それが本当に新種であることを証明するために、既存の種との膨大な比較調査や、詳細な科学的記述が必要になる。
ゼンケンベルク海洋種アライアンスの共同議長であるジュリア・シグワート博士によれば、こうした煩雑な手続きを経て正式に命名・出版されるまでには、10年から20年もの歳月がかかることも珍しくないという。
今回のプロジェクトにおいて、インターネットによる公募は、こうした専門家だけの閉ざされたプロセスを一般の人々に開放する役割を果たした。
単に名前を決めただけではなく、本来であれば膨大な時間を要する記載作業に世間の注目を集め、ヒザラガイという生き物を人々の話題に上らせることに成功したのだ。
深海の多様性を守るための新たな一歩
名前が決まり、科学的な記載が完了したことは、海洋保全において非常に重要な意味がある。
現在、海底を掘り起こす深海採掘の開発が急速に進んでおり、未知の生物が名前すら付けられないまま絶滅してしまう危機にさらされているからだ。
シグワート博士は、ネットユーザーたちが参加した今回のプロセスが、海洋生物の多様性を守るために不可欠なスピード感をもたらしたと語る。
人々の関心という後押しを得て、この新種は2024年の発見からわずか2年後の2026年2月という早さで正式な名前を得ることができた。
房総半島南東沖の深海5500mに眠る小さな王蟲のようなポピュリは、多くの人が関心を持ち、その存在を語り継ぐことで、未知の生態系を破壊から守るための強力な盾となるだろう。
References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1115280] / Pensoft.net[https://bdj.pensoft.net/article/180491/]











