夜空を見上げると、そこには無数の人工衛星が飛び交う時代になった。しかし、この便利な通信網を支える巨大衛星群の光が、宇宙にある天体望遠鏡の観測を妨げているという。
NASAの研究によれば、将来的に宇宙望遠鏡が撮影する画像の最大96%に人工衛星の光の筋が写り込み、貴重なデータが失われる可能性があるという。
地球のみならず、宇宙でも新たな光害が迫っているのだ。
この査読済みの研究論文は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09759-5]』誌(2025年12月3日付)に掲載された。
急増する人工衛星が宇宙望遠鏡の視界を遮る
地球から高度2,000km以内の範囲にある「地球低軌道」は、人工衛星で埋め尽くされようとしている。
かつては運用されている衛星は数千機ほどだったが、現在は一つの企業が数万機単位の配備を目指す巨大な通信ネットワーク計画を次々と進めている。
この、膨大な数の人工衛星を網の目のように連携させる仕組みが「巨大衛星群(メガコンステレーション)」だ。
これにより、いま宇宙望遠鏡の視界にこれまでにない異変が出始めている。
宇宙望遠鏡は、遠くの暗い天体を捉えるために「露光」という、長時間シャッターを開いて光を貯める作業を行う。
しかし、その最中に衛星が横切ると、画像には明るい光の筋が残り、貴重な科学データが台無しになってしまうのだ。
そこで、NASAエイムズ研究センターのアレハンドロ・S・ボルラフ博士らを中心とする国際研究チームは、巨大衛星群が宇宙望遠鏡にどれくらい影響を及ぼすのかをシミュレーションした。
宇宙望遠鏡画像の96%に光の筋が映り込むリスク
ボルラフ博士らは、今後の衛星の増加予測に基づき、複数のシナリオを検証した。
運用される衛星が約56万機に達するケースや、さらに多い100万機に迫る予測もある。衛星の数が増えれば、望遠鏡の視野を横切る確率も当然高くなる。
分析の結果、約56万機の衛星が飛ぶ世界では、NASAの「SPHEREx(スフィアエックス)」や中国の「巡天(Xuntian)」といった最新望遠鏡が撮影する画像の96%以上に、少なくとも1本の衛星の筋が写り込むことがわかった。
また、一度に撮影する範囲が比較的狭いハッブル宇宙望遠鏡であっても、56万機という比較的少ない予測値の段階で、全画像の3分の1以上が影響を受けるという結果が出ている。
画像処理でも消せない「光の残骸」がデータの質を低下させる
人工衛星の強い光は、望遠鏡のセンサーが光を受け取れる限界を超えさせてしまう。
これは「画素(ピクセル)の飽和」と呼ばれる現象で、センサーがパンクした部分は真っ白になり、その下に映っていたはずのかすかな天体の情報は完全に消えてしまう。
たとえ最新のソフトウェアを使って光の筋を取り除いたとしても、そこにはわずかな光の残骸がノイズとして残る。
この余計な明るさのせいで、宇宙の成り立ちを探るために不可欠な、暗く遠い銀河などの観測が困難になる。
一度に広い範囲を撮影する「広視野ミッション」ほど、この影響を回避するのは難しく、データの質が全体的に低下するという深刻な問題に直面している。
宇宙開発と天体観測を両立させるには?
研究チームは、この現象を「宇宙を基点とした新しい形態の光害」と定義している。地上の街灯による光害とは違い、望遠鏡と同じ宇宙空間で発生するため、物理的に回避不能な障害となりつつある。
現在、衛星の反射を抑える素材の開発や、衛星の位置情報を共有して観測タイミングをずらすといった対策も検討されている。
しかし、衛星が100万機規模に達した場合、こうした個別の対策だけでは妨害を完全に排除することは不可能だとシミュレーションは示している。
そのため、これからの天文学には、汚染されたデータから科学的な真実を抽出する新たな解析技術の確立が不可欠だ。
さらに、宇宙開発と科学観測を両立させるための国際的なルール作りが急務となっている。
地球低軌道は、便利な通信インフラを支える場所であると同時に、人類が宇宙を知るための大切な領域でもある。
将来の天文学ミッションは、この光害という避けられない現実を前提とした上で、宇宙の謎に迫るための新たな戦略を再構築していかなければならない。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09759-5]











