金星の地下に巨大な溶岩洞。NASAのデータを解析し直径1kmのトンネル構造を初めて特定
Image credit:RSLab, University of Trento

金星の地下に巨大な溶岩洞。NASAのデータを解析し直径1km...の画像はこちら >>

  金星の地下に、直径1km、全長45kmを超える巨大な溶岩洞が存在する可能性が極めて高いことが判明した。

 イタリアのトレント大学の研究チームが、NASAの探査機マゼランのデータを最新技術で解析したところ、地下に広がるトンネル状の構造の証拠を初めて特定した。

 この発見は、長年仮説に過ぎなかった金星の地下構造を裏付ける歴史的な成果だ。

 この巨大な空間は、金星の火山活動の歴史を塗り替えるだけでなく、将来の惑星探査における重要な拠点となる可能性も秘めている。

 この査読済み論文は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-026-68643-6]』誌(2026年2月9日付)に掲載された。

 地表の下に眠る「溶岩洞」の正体

 金星は、内部構造が地球によく似た岩石惑星だ。しかし、その環境は極めて過酷で、分厚い二酸化炭素の大気と硫酸の雲に覆われている。

 地表は温度が460℃、気圧は90気圧にも達する灼熱の環境だ。金星の表面の多くは、数億年前に起きた大規模な火山活動によって、噴出した大量の溶岩が古い地表をすべて覆い尽くしたと考えられている。

 現在も火山活動が続いている可能性が示唆されているが、地球のようなプレートテクトニクス(地殻の移動)の証拠は明確ではなく、その地質学的な進化はいまだ謎に包まれている。

 こうした背景から、金星の地下に巨大な空洞が存在するという説は長年注目されてきた。

 この空洞の正体は、火山から流れ出た溶岩が作り出した「溶岩洞」だ。溶岩の表面が冷えて固まった後、中の液体部分だけが流れ去ることで、地下に巨大な管状の空間が取り残される。

 研究を率いたトレント大学のロレンツォ・ブルッツォーネ教授は、分厚い雲に阻まれて直接観察することが不可能だった金星の地下構造を、最新のレーダー解析によって特定できたことは、この惑星の進化を解明する上で大きな手がかりになるという。

[画像を見る]

レーダーの波が厚い雲を突き抜け地表を映し出す

 金星の地下に眠る溶岩洞を見つけ出すのは至難の業だ。

 これらの空洞は地下深くに隠れているため、外からは見えない。

唯一のヒントは「天窓」と呼ばれる地表の穴だ。

 これは地下の空洞の天井が一部崩落してできたもので、地下世界への入り口となる。しかし、金星は常に分厚い雲に覆われているため、普通のカメラではこの小さな穴を見つけることができない。

 そこで研究チームは、1990年から1992年にかけて金星を観測したNASAの探査機「マゼラン」のデータに注目した。

 マゼランに搭載されていた「合成開口レーダー(SAR)」は、雲を突き抜けて地表の形を詳細に映し出すことができる特殊な装置だ。

 研究チームは、最新の画像処理技術を駆使して、マゼランが30年以上も前に残した膨大なレーダー画像を再解析した。地表にわずかに現れた崩落の兆候を、砂漠の中から針を探し出すような緻密な作業で特定していったのだ。

[画像を見る]

女神の火山に眠る直径1kmの巨大な空洞

 研究チームは、最新のデータ解析技術で、ギリシャ神話の夜の女神にちなんで名付けられた火山領域「ニクス・モンス(Nyx Mons)」の地下に、巨大な溶岩洞が存在する証拠をとらえた。

 特定された空洞は直径が約1km、天井の厚さは少なくとも150m、内部の深さは375m以上に達すると推定されており、これは火星で予測されているサイズを上回り、月で見つかった最大級の空洞に匹敵する規模だ。

 金星においてこれほどの巨大な空間が形成された背景には、その特殊な環境が深く関わっている。

 地球よりわずかに小さい重力に加え、非常に濃い大気が断熱材のような役割を果たすため、噴出した溶岩が冷え固まるまでに時間がかかる。

 その結果、内部の液体部分が長く流れ続け、結果としてこのような長大な空洞が作られやすかったと考えられている。

[画像を見る]

全長45km以上に及ぶ地下空間と未来の探査

 今回データで確認できたのは溶岩洞の一部分だが、周辺の地形や崩落の状況から、この地下トンネルは少なくとも45km以上にわたって延びている可能性があるという。

 これほど長大な空間は、将来の探査において極めて重要な価値を持つ。

 地表は460℃の灼熱で猛烈な気圧にさらされているが、分厚い天井に守られた溶岩洞の内部は、過酷な環境や放射線を遮断する天然のシェルターとなり得るからだ。

 この発見は、欧州宇宙機関(ESA)の「エンヴィジョン」やNASAの「ヴェリタス」といった将来のミッションにおいて、着陸候補地や活動拠点を検討する上での大きな指針となるだろう。

 最新鋭のレーダーを搭載した次世代の探査機によって地下の詳細な構造が明らかになれば、かつては不可能と思われた金星内部の直接探査も現実味を帯びてくる。

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-026-68643-6] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1115497]

編集部おすすめ