古代ギリシャの魔法のエリクサーの正体が明らかに。猛毒を秘薬に変える化学式が判明
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 古代ギリシャの聖なる儀式で飲まれていた伝説の秘薬「エリクサー」の正体がついに特定された。

 アテネ国立カポディストリアン大学の研究チームは、猛毒のキノコを強力な幻覚剤へと変える化学式を解明した。

 ほぼ2000年もの間、人々が死後の世界を垣間見たという神秘体験の裏側には、猛毒を、神の飲み物「キケオン」へと変化させた古代人の高度な化学知識が隠されていたのである。

 この査読済みの研究成果は『Scientific Reports[https://www.nature.com/articles/s41598-026-39568-3]』誌(2026年2月13日付)に掲載された。

約2000年間行われていたエレウシスの秘儀

 古代ギリシャにおいて最も重要で神聖視されていた儀式が、紀元前1500年頃から西暦392年まで行われていた「エレウシスの秘儀」だ。

 この秘儀が行われた場所は、アテネの隣に位置するエレウシスという聖域で、そこにはテレステリオンと呼ばれる大祭儀場が建っていた。

 エレウシスで祀られていた女神デメテルは、愛娘を冥界へ連れ去られた悲しみから、地上に冬をもたらしたとされる。

 のちに娘と再会して地上に春を呼び戻したという神話から、デメテルは「死と再生」の象徴となった。

 毎年秋になると、古代ギリシャの人々はアテネからエレウシスまで続く20kmの道のりを歩いて旅をし、聖なる体験を求めて大祭儀場へと集まった。

 巡礼者たちの目的は、神聖な儀式を通じて死後の世界を垣間見ることだった。 

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エレウシスの秘儀で飲む魔法のエリクサー「キケオン」

 大祭儀場の中で体験した儀式の内容を外部に漏らすことは厳禁であり、当時は死刑に値するほどの重罪だった。

 しかし、古代ギリシャの詩人ピンダロス氏(紀元前5世紀頃)などが残した記述によれば、秘儀を通じて最高神ゼウスから授かった命の終わりと始まりを知り、人生を根底から変えるような体験ができたという。

 神秘体験の鍵を握っていたのは、儀式のクライマックスで飲まれる「キケオン(kykeon)」と呼ばれる聖なる飲み物、魔法のエリクサー(秘薬)であった。

 巡礼者たちはこの液体を口にすることで、死後の世界を垣間見るビジョンを得ていたと考えられている。

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猛毒の麦角菌との関連性を指摘した1970年代の仮説

 エレウシスの秘儀に使用されたキケオンは自然由来の幻覚剤だったとする考えは、1978年に発表された。

 民俗菌類学の草分けであるロバート・ゴードン・ワッソン氏、LSDを世界で初めて合成したスイスの化学者アルベルト・ホフマン博士、古典学の権威であるカール・A・P・ラック教授は、共著『エレウシスへの道』を出版し、キケオンには、「麦角菌(ばっかくきん)」に由来する幻覚成分が含まれていたという仮説を立てた。

 麦角菌は冬になると、大麦などの穀物の穂に菌核(きんかく)という黒いツノのような塊を作る。

 この菌核には麦角アルカロイド[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%A6%E8%A7%92%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89]という分子が含まれており、これを未処理のまま摂取すると、中世ヨーロッパで「聖アントニウスの火」として恐れられた麦角中毒を引き起こす。

 麦角中毒になると、血管収縮による四肢の壊死や激しい幻覚、痙攣(けいれん)を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもある。

 古代ギリシャ人はどのようにしてこの猛毒を中毒症状の出ない秘薬に変えたのか、歴史上の大きな謎となっていた。

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木の灰で煮ることで猛毒を幻覚剤に変えていた

 アテネ国立カポディストリアン大学のロマノス・K・アントノプロス氏とエヴァンゲロス・ダディオティス氏が率いる研究チームは、3000年前の巫女たちが利用可能だった技術のみを用いて、猛毒を幻覚剤に変えるプロセスを再現した。

 研究チームはオリーブとオークの木を燃やして灰を作り、その灰を水で煮て寝かせた。

 得られた液体は、炭酸カリウムを豊富に含み、pH12.5という強いアルカリ性を持つ「灰汁(あく)」になる。

 この灰汁で麦角の粉末を煮沸したところ、化学変化が起きた。

 分析の結果、猛毒であるエルゴペプチンが完全に消失し、代わりにリゼルグ酸アミド(LSA)とiso-LSAという2つの分子が現れた。

 アルカリ加水分解という化学反応が、複雑な毒の分子を分解し、LSDに近い構造を持つ天然の幻覚成分へと変化させたのである。

 蒸留水で煮るだけでは毒は消えなかったため、灰汁を使った加工こそが秘薬を作る重要な鍵であった。

信仰と化学が融合して生まれた神秘体験

 灰汁による処理で生まれたLSAとiso-LSAが、人体にどのような影響を与えるのかについても検証が行われた。

 LSAは脳内の「セロトニン5-HT2A受容体」という、LSDが幻覚を引き起こす際に作用する場所と同じ部位に結合する。

 また、iso-LSAについても近年の研究で、脳内の受容体に結合して行動に変化を与えることがラットを使った実験で判明している。

 研究では、これら2つの分子を混合して摂取した場合、どちらか一方を単独で使うよりも、精神を活性化させる力が強まる可能性を指摘している。

 「麦角菌が秘薬に使われた」という説は、実物の発見によっても裏付けられている。

 スペインにあるギリシャ植民地の遺跡マス・カステラール・デ・ポントスでは、儀式用の器や25歳の男性の歯石から、麦角菌の菌核の一部が実際に見つかっている。

9日間の断食とミントの摂取で更なる高まり

 なお、秘儀の参加者は9日間の断食を行っていた。

 空腹による期待感の高まりに加え、飲み物に含まれていた、シソ科ハッカ属の多年草「ペニーロイヤルミント」の成分も、不安を抑えて幻視を長続きさせる相乗効果をもたらした可能性がある。

 古代ギリシャ人は、現代のような化学式は知らなくても、自然界の毒を秘薬へ変える、知恵と技術を手にしていたのである。

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41598-026-39568-3] / Labrujulaverde[https://www.labrujulaverde.com/en/2026/02/the-chemical-formula-of-the-ancient-greeks-magic-elixir-discovered-a-study-reveals-the-hallucinogenic-secret-of-the-eleusinian-mysteries/]

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