古代ローマ人がヒトの便を薬として使用していたことを示す、初の物質的証拠を発見
古代ローマ時代の公共トイレ Image by Istock <a href="https://www.istockphoto.com/jp/portfolio/FatManPhotoUK?mediatype=photography" target="_blank">FatManPhotoUK</a>

古代ローマ人がヒトの便を薬として使用していたことを示す、初の...の画像はこちら >>

 古代ローマ時代、医師たちがヒトの便を薬として処方していたことを示す物質的証拠が、科学者によって初めて確認された。

 トルコのシバス・クムフリエット大学の研究チームは、1,900年前の小瓶に残されていた物質からヒトの便の成分を検出し、これまで文献上の記録でしかなかった「便療法」を裏付ける世界初の直接的な証拠を発見した。

 これは現代の「便微生物移植」にも通じる、古代人の知恵を証明する重要な成果である。

 当時の医学において人間の便は、炎症や感染症を治療できると信じられていたのだ。

 この査読済みの研究成果は『Journal of Archaeological Science: Reports[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2352409X26000246?via%3Dihub]』誌(2026年)に掲載された。

1,900年前の小瓶に付着していた茶色い物質

 トルコのベルガマ博物館の収蔵庫で、西暦2世紀頃の遺物を調査していたシバス・クムフリエット大学のジェンケル・アティラ教授は、複数の古いガラスの小瓶に注目した。

 「ウングエンタリア(Unguentaria)」と呼ばれるこの瓶は、古代ローマにおいて香水や化粧品、あるいは薬用の油を入れる容器として広く使われていたものだ。

 アティラ教授は、瓶の内側にこびりついた茶色の物質を採取し、化学や医学史の専門家を交えた共同研究チームで分析を行うことにした。

[画像を見る]

ヒトの便とハーブの成分を検出

 研究チームは、採取したサンプルをガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)という装置で分析した。GC-MSは、物質を分子レベルで分離し、その組成を特定する手法である。

 分析の結果、サンプルから、高等動物と鳥類の腸の中で、コレステロールが生化学的水素化を受けて生成するコプロスタノールという分子が検出された。

 成分の比率を調べたところ、物質の正体はヒトの便であることが特定された。

 さらにサンプルからは、シソ科のハーブ「タイム」に含まれる成分、カルバクロールも発見された。

 ヒトの便にハーブを混ぜ合わせた調剤が、1,900年もの間、瓶の中に保存されていたことが科学的に証明されたのである。

[画像を見る]

古代ギリシャの医師が提唱した塗り薬としての治療法

 ヒトの便とハーブの混合物が瓶に収められていた背景には、古代ギリシャ出身の医師ガレノス[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%8E%E3%82%B9]の学説がある。

 ガレノス(西暦129年頃-216年頃)は、ローマ帝国で皇帝の侍医を務め、その理論が1,000年以上にわたって医学の規範となった人物だ。

 今回の瓶の出土地であるベルガマ(古代名:ペルガモン)はガレノスの故郷であり、ガレノスは自らの著作の中で、便を薬として使う方法を何度も紹介していた。

 研究チームによると、これらの薬は口から飲むものではなく、皮膚の炎症や腫れもの、あるいは耳の痛みといった患部へ直接塗布する「塗り薬」として処方されていたという。

 今回発見された成分はガレノスの処方箋の内容と正確に一致しており、この小瓶も実用目的で調製されたものだという。

 当時の医療では、強い匂いを持つ便には炎症を抑え、体内のバランスを整える力があると信じられていた。

 タイムは、便の臭いを和らげる目的や、殺菌効果を期待して調合されたものと考えられる。

 古文書の中に記されていたガレノスの処方が、実在する物質として初めて裏付けられた形となる。

[画像を見る]

古代の処方から現代の便微生物移植への系譜

 便を薬として利用する考え方は、現代医療においても「便微生物移植(FMT)」として注目されている。

 これは健康な人の便から抽出した善玉菌などの微生物を患者の腸に移植し、乱れた腸内細菌叢を正常な状態に作り変える治療法だ。

 大腸カメラ(内視鏡)の先端にある細い管を通して細菌液を直接注入するほか、鼻から胃や腸に通したチューブを用いたり、特殊なコーティングを施したカプセル剤を口から飲んだりする方法が確立されている。

 ただし古代ローマの医学には限界があり、細菌の存在が知られていなかったため、衛生面のリスクが極めて高かったはずだ。

 実際に便を用いた治療は、18世紀頃を境に一度は強く否定された。

 科学の発展とともに「清潔さ」が重んじられるようになり、排泄物は「不衛生で不快な汚物」として医療現場から排除されたからだ。

 しかし現代、最新の分析技術によって、便に含まれる腸内細菌が免疫力や健康を維持するために欠かせない存在であることがわかり、再び最先端の医療として復活している。

References: Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2352409X26000246?via%3Dihub] / Sciencealert[https://www.sciencealert.com/ancient-romans-really-did-use-poop-as-medicine-we-just-got-the-first-real-proof]

編集部おすすめ