アメリカの研究チームが、マウスの細胞から培養した「ミニ脳」にビデオゲームの攻略法をマスターさせることに成功した。
ミニ脳は、ゲームの状況を電気信号で伝えたところ、倒れそうな棒のバランスを取るという難しい課題を自力でクリアした。
体も意識もない脳の組織が、外部からの刺激によって自らのネットワークを作り変え、問題を解決したことになる。
この発見は、脳が学習する仕組みの解明や、病気の新しい治療法を見つけるための大きな一歩として注目されている。
この査読済みの研究成果は『Cell Reports[https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(26)00062-8]』誌(2026年2月19日付)に掲載された。
マウスから培養したミニ脳が挑んだバランスゲーム
アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究チームは、マウスの幹細胞からミニ脳を培養し、ある実験を行った。
ミニ脳とは、「脳オルガノイド」と呼ばれる、本物の脳のような構造や機能を一部持たせたごく小さな組織の塊のことで、今回は、人間の脳の表面にある、知能を司る皮質という部分を模して作られた。
研究チームはこのミニ脳に、工学の世界で「カートポール問題」と呼ばれるゲームのような課題に挑ませた。
これは、左右に動く台車の上に立てられた棒を、倒れないようにバランスを取り続けるというもので、クリアするには高度な計算や素早い判断が必要であり、体も目も持たない脳の組織にとって、非常に難しい挑戦となる。
電気信号による訓練の仕組み
ミニ脳にゲームを攻略させるため、研究チームは特別なシステムを開発した。
まず、仮想空間にある棒がどちらにどれだけ傾いているかという情報を、電気信号に変えてミニ脳へ送り届ける。
これに対し、組織が反応して発した電気信号を、今度は台車を動かすための命令として仮想空間へ戻す仕組みだ。
さらに、AIを用いたシステムが教育を担当した。ミニ脳がバランスを取ることに失敗したときだけ、特定のニューロンに強い電気信号を送って「今のやり方は間違いだ」と教え込む。
この刺激が、脳のネットワークを正しい方向へ導くためのガイドとなった。
わずかな時間で上達したミニ脳の学習能力
実験の結果、ミニ脳は目覚ましい上達を見せた。何のガイドも与えなかった場合の成功率はわずか2.3%だったが、電気信号による訓練を受けたミニ脳は、46%という高い確率で課題をクリアできるようになった。
これは、ミニ脳が外部からの刺激を理解し、自分自身の神経のつながりを、問題を解決するために最適な形へと作り変えたことを意味している。
このような、刺激に応じて脳の回路が柔軟に変化する性質は「可塑性(かそせい)」と呼ばれている。
粘土が力を加えると形を変えるように、脳も経験や学習によって自分自身を作り変える力を持っており、それがミニ脳という小さな組織にも備わっていることが証明された。
ミニ脳は訓練を終えて45分ほど休むと内容を忘れてしまったが、短期間であれば確実に上達することがわかった。
神経疾患の解明に向けた新たな可能性
今回の研究は、脳の組織そのものに、体や意識がなくても学習する力が備わっていることを明らかにした。
この成果は、アルツハイマー病や認知症、あるいは自閉症やADHDといった、脳の学習能力に影響を与える病気のメカニズムを解明するための大きな手がかりとなる。
研究室で病気の状態を再現したミニ脳を観察することで、これまで困難だった「脳の学習が損なわれるプロセス」を直接調べることが可能になり、より効果的な治療法や薬の開発に貢献すると期待されている。
今後はより複雑な構造のミニ脳を用いることで、長期的な記憶の仕組みについても研究が進められる予定だ。
References: CELL[https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(26)00062-8] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1116917]











